坂本龍一が到達した新境地 ピアノから溢れ出る感情に世界中が触れたソロコンサート配信

 「Tong Poo」では、穏やかに笑みを浮かべながら弾く場面も。ピアノのハンマーを映したりとカメラワークの遊び心も垣間見える中、静かに気分が浮き立つような音色と表情を見せる。前述のコメントの通り、この日は坂本にとってソロでは初披露となる楽曲も多かったが、楽曲にソロで向き合うことや、坂本の持つ貫禄や佇まいをそのまま表すようなモノクロの映像も含め、坂本龍一という人物にじっくりと向き合うようなコンサートだったとも感じる。それは、「The Wuthering Heights」ののちに聞かせた、来年発売のアルバム収録曲「20220302 - sarabande」で殊更に感じられた。少し悲し気な音色を響かせたこの楽曲では、坂本の表情の変化も多く見られ、ぽろぽろと紡がれるその音色が自身の感情の動きを見つめているようでもあった。

 「The ShelteringSky」、「The Last Emperor」と続いたコンサート終盤では、大きな波を生成するような抑揚で、低音から高音まで豊潤な音を奏でる。そして「Merry Christmas Mr. Lawrence」を迫力とともに響かせた。弾き終えたあと、鍵盤から手を放し静かに手を合わせたタイミングで暗転すると、エンドロールとともに「Opus-Ending」へ。演奏を終えると静かに立ち上がり、去っていく。こうして約60分の丁寧に構築されたコンサートが終了した。

 シンプルでありながらアイデアに富んだコンサートのあとは、坂本が71歳を迎える誕生日である2023年1月17日に発売されるオリジナルアルバム『12』の先行フル試聴会も実施された。収録される12曲は、いずれも坂本が闘病中にスケッチしてきた音の日記。タイトルにはその楽曲が作られた日付が記されており、2021年3月から2022年4月までの楽曲が連なっていることがわかる。ピアノやシンセサイザーを使ったアンビエント作品は、音の揺れや音色、構成から、綯い交ぜになった感情が伝わるようであった。

 様々な時代の楽曲を珠玉の映像とアレンジとともに見せたコンサート、そして最も過酷な闘病期間を含めた約1年の日記が記されたアルバム『12』。染み入ってくる音楽の素晴らしさに感動しながら、「ライヴでコンサートをやりきる体力がない」という事前にあったコメントにもかかわらず、収録だからこそできたであろう丁寧に構築された映像、音響とともに演奏に耳を傾けることができたことに、なにより感謝した時間であった。

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