wacci、「恋だろ」ロングヒットを経て届ける“バンドとしての魅力” 10年で培った広がりや新たな展望も明かす

 メジャーデビュー10周年を迎えたwacciが、ニューアルバム『suits me!  suits you!』を11月9日にリリースした。ドラマ『やんごとなき一族』(フジテレビ系)挿入歌として注目を集め、“令和を代表するラブソング”としてヒットを続けている「恋だろ」をはじめ、「トータス」(テレビ東京ドラマ『駐在刑事Season3』OPテーマ)、「あなたがいる」(TVアニメ「バクテン!!」EDテーマ)などを収録。色とりどりのストーリー性を反映したラブソング、聴き手の人生に寄り添う応援歌を軸にした本作には、メジャーデビューからの10年で培った豊かな音楽性がしっかりと反映されている。 

 リアルサウンドでは、橋口洋平(Vo/Gt)、小野裕基(Ba)、因幡始(Key)、村中慧慈(Gt)、横山祐介(Dr)にインタビュー。新たな代表曲「恋だろ」の反響、アルバム『suits me!  suits you!』の手応え、2023年の展望などについて語ってもらった。(森朋之)

wacci 『恋だろ』 Music Video

「恋だろ」をライブで届けられたことが自信に

ーー2022年4月に配信リリースされた「恋だろ」がロングヒットを記録しています。この反響をどう捉えていますか?

橋口洋平(以下、橋口):いろんな運と縁が重なって広がっていることをとても嬉しく思っています。自分たちのツアー(6月から7月にかけて行われた『wacci Live House Tour 2022 ~Reboot!~』)の東京公演に松下洸平くんがゲストとして来てくれて。「恋だろ」をコラボした動画が拡散したことも、たくさんの人が聴いてくれたきっかけでした。洸平くんにもそうだし、「恋だろ」を挿入歌にしてくれた『やんごとなき一族』のスタッフにも感謝ですね。デビューして10年経つんですが、ここまで続けてきたからこその運と縁だと思うので、これからも胸を張ってこの曲を届けていきたいなと。

小野裕基(以下、小野):以前、「別の人の彼女になったよ」が話題になったときは、SNS上で弾き語りの動画などもたくさんアップされて。今回の「恋だろ」はSNS上だけではなくて、10代が聴いてくれてるんですよ。

村中慧慈(以下、村中):LINE MUSICの「10代トレンドランキング」で1位になったり。僕らは今40歳前後なんですけど、この年齢で若い世代に届く曲が作れたことも嬉しいですね。

小野:最近、自分の母校の学園祭に遊びに行ったんですけど、学生のみなさんが「wacciが来た!」って喜んでくれて。本当に聴いてもらえてるんだなって実感しました。

因幡始(以下、因幡):起きている出来事を自分たちのこととして実感できないタイプなんですけど(笑)、この前、知り合いの小学生の娘さんが、「恋だろ」で踊ってる動画をTikTokにアップしたって話を聞いて。知っている範囲の人が自分たちの曲で楽しんでくれていることを実感したし、本当に曲が独り歩きしてるんだなと。

横山祐介(以下、横山):「別の人の彼女になったよ」のときは、正直どういう人たちが聴いてくれてるのかよく掴み切れなかったんですよ。今は「恋だろ」を聴いてくれてる人たちの顔が見えてきてるし、wacciという名前と紐づいて広がっているのを感じていて。みんなが言ってるように、若い世代に伝わっているのも嬉しいです。

wacci × 松下洸平 『恋だろ』 Live at EX THEATER ROPPONGI 2022

ーー「恋だろ」はドラマ『やんごとなき一族』のストーリーにも重なっていると同時に、現代的なメッセージも含んでいて。そのバランスはどんなふうに取っていたんですか?

橋口:曲を書き始めたときは、時代性みたいなことは考えてなかったですね。〈性別も〉からサビを始めたのも、言葉とメロディのハマりがよかったからなんです。恋の障壁になるようなワードを考えて並べているうちに、気がついたらそのワードが冒頭に来ていたので。テーマとしては“ロミオとジュリエット”というか、お互いに気持ちはあるんだけど、いろいろな壁があるという状況を歌っていて。『やんごとなき一族』でも、ヒロインが「分不相応」とか「釣り合わない」みたいなことを言われるんですけど、それを恋の力、この人を好きだという気持ちで乗り越えていく。それをそのまま曲にした感じですね。同じような状況にある人が、周りの人に何か言われたときに、「やっぱり好き」と思えるような恋の応援歌になったらいいな、と。

ーーじつは普遍的、古典的なテーマなのかも。

橋口:そうだと思います。いつの時代も、いろいろな悩みを抱えながらも、自分の気持ちに素直に生きていきたいと願う人はたくさんいるし、そういう人たちが勇気を持てるきっかけになってほしいという気持ちもあったので。SNSやYouTubeでも、相手との年齢差を気にしていたり、親に反対されている方が「勇気をもらいました」と書き込んでくれていて。そういう言葉を見ると、届いてるんだなって実感しますね。

ーーライブはもちろん、音楽番組でも披露する機会が増えていますが、演奏を重ねることで「恋だろ」がさらに強く伝わっている感覚もあるのでは?

小野:橋口くんの歌を生で聴いてもらえることがいちばん大きいと思いますね。ちょっと前に、音楽番組への出演に向けて橋口くんがカラオケのトラックで練習してたんですよ。その後、バンド全員で演奏したときに「やっぱりバンドのほうが歌いやすい」って言ってて。このメンバーで演奏する意味があるんだなって、改めて思いましたね。

因幡:初めてライブで「恋だろ」を聴いた人に、「実はすごくバンドサウンドなんだね」って言われることがあるんですよ。やっぱり生で演奏すると、音の伝わり方、曲の伝わり方が違うんだなと。

村中:(観客として)フェスに行ったときに、好きなアーティストがヒット曲を演奏すると「来た!」みたいな独特の空気になるじゃないですか。最近、それを自分たちのライブで感じるようになったんですよね。「恋だろ」を待ち望んでくれてる人たちがいて、そこに向けてしっかり届けられているというか。この曲が自分たちのステージを一段階上げてくれました。

横山:他の曲もそうなんですけど、制作しているときはライブで演奏することをそこまで考えてなくて。「恋だろ」の音源もかなりオーバーダビングしているので、ライブではアレンジが違うんです。10年やってきたからこそ、それぞれが「ここを聴かせたい」というポイントを理解できているというか。だからこそ松下さんとコラボした映像が受け入れられたんだと思うし、ライブで届けられていることが自分たちの自信にもなっています。

スキルアップした今だからたどり着いたアルバム

ーー「恋だろ」「別の人の彼女になったよ」のヒットによって、wacciといえばラブソングというイメージを持っているリスナーも多いと思います。橋口さん自身、ラブソングが自分の持ち味だという認識もあるんでしょうか?

橋口:確かにラブソングは書きやすいし、得意だと思います。主人公と相手がいて、「別の人の彼女になったよ」だったら3人目の存在もいて。ラブソングはストーリーを描きやすいんですよね。ストーリーテラーとして客観的に書けるし、僕自身がそんなに介在していないから、カバーしてくれたり、カラオケで歌いやすいんだと思います。応援歌は二人称というか、聴き手を鼓舞する歌が多いので、物語にしづらいんですよね。だからずっと応援歌を書くのが苦手だったんですけど、wacciとして向き合ってきたのはむしろ応援歌なんですよ。たとえば「大丈夫」とか「空に笑えば」はMVの再生回数が2000万回くらい(※2022年12月中旬現在)なんですけど、それもしっかり向き合ってきたからこその結果だと思っていて。

ーー応援歌もwacciに必要という認識は、最初からあったんですか?

橋口:はい。誰かの人生の節目にそっと寄り添ったり、力を与えられるバンドになりたいと思っていたし、それがwacciのカラーじゃないかなと。事務所の先輩にいきものがかりがいたのも大きかったですね。奇を衒わず、いろんな人の生活に重なる曲をお茶の間に届けているのを見て、「自分たちもそういう大きい歌で勝負したい」と思ってきたので。伝わりやすさをずっと大事にしてきたから、たくさんの人に広がる曲も作れるようになってきたのかなと。何も無駄じゃなかったし、応援歌とラブソングの両方とも書く力が上がっていると信じてます。

wacci「suits me! suits you!」Trailer

ーーニューアルバム『suits me! suits you!』にも、これまで培ってきたことがしっかり込められていると思います。ストーリー性のあるラブソング、リスナーの日々に寄り添い、励ますような応援歌が両輪になっている作品だなと。

橋口:まさにそうですね。物語を描くラブソングもそうだし、わかりやすい言葉で老若男女に寄り添える応援歌もそうですけど、ここまで積み重ねてきた結果だし、wacciの10年が詰まった1枚だと思っているので。サウンド面では、4年くらい前からメンバーの誰かがアレンジを担当するスタイルになっていて。1曲をみんなでアレンジするのではなく、一人が最初から最後まで受け持つことで音楽性の幅もかなり広がったんですよね。演奏力、アレンジ力もスキルアップしたし、そのことも含めて、今だからたどり着いたアルバムです。

小野:確かにそれぞれがアレンジするようになって、バリエーションが出せるようになりましたね。特に今回のアルバムは、全員がやりたいことをやれた感じがあって。自分は「suits you」をアレンジしたんですが、「バンドを結成した頃のサウンドを今やったらどうなるか?」というテーマがあって。派手にし過ぎず、音数を入れ過ぎず、歌を伝えるアレンジを意識していました。

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