Kitri、変化の中に宿るポップスの核心 幻想的な演奏&空間で魅了した『キトリの音楽会#6 “三人姉妹”』初日レポート
Kitriの中でもシリアスな世界観が際立つ「左耳にメロディー」では、叩くように低音を刻むMonaのピアノとささやくボーカル、Hinaのコーラスとパーカッション、緊張感のある吉良のチェロが織り重なって、この日随一の刺激的なセッションが展開されていく。ここまでのセットリストと使用されている楽器は変わらないのに、これほどガラリと景色が変わるものなのかと驚かされる。そこから代表曲「矛盾律」に展開していくのだが、「左耳にメロディー」の余韻を楽しむようにゆったりと前奏に入っていき、普段よりもテンポダウンして始まったかと思えば、リズムを刻むようなチェロにピアノが重なり、神聖さをたたえたボーカル&コーラスとトライバルなビートが追随していくという、多彩な要素が目まぐるしく展開していくアレンジに。音源の時点で非常にアイデア豊かな曲だったが、ステージで披露されるたびに研ぎ澄まされ、新しく生まれ変わっていく「矛盾律」。この曲がどう演奏されるかで、その時のKitriのモードがわかるという意味でも『キトリの音楽会』に欠かせない1曲だと言えるだろう。
ノスタルジックなオレンジの照明に照らされ、静謐なピアノと打ち込みのビートがかけ合わさった「実りの唄」を経て、こちらも『キトリの音楽会』に欠かせない「羅針鳥」へ。「実りの唄」とは対照的にビートレスで披露された「羅針鳥」は、歌、ピアノ、チェロという“三人姉妹”編成での持ち味を最もシンプルに体現する演奏となっていた。吉良がステージから捌け、再びMonaとHinaだけのベーシックな二人編成に戻って「さよなら、涙目」を演奏し、本編を締め括る。
「羅針鳥」と「さよなら、涙目」は、Kitriにとってどんな時でも初心を忘れずチャレンジしていく決意表明の曲であり、聴き手にとっては新たな歩み出しを後押ししてくれるような、心の奥に大切に持っておきたい曲でもあるだろう。そんな2曲が象徴するように、変化と実験を繰り返しながらも、Kitriは変わらない歌心とメッセージをこれからも届けてくれるに違いない。いや、もっと言うなら、Kitriの眼差しは時間の移ろいや人生の葛藤から目を背けないからこそ、常に新しい刺激を求めて変化を繰り返していき、その中で感じた素直な気持ちをメッセージとして紡いでいくのかもしれない。優れたポップスが絶えず変化と実験の中から生まれてくることを思えば、変わることを恐れないKitriがこれから何を歌うのかという部分も心待ちにしていたい。
アンコールでは再び吉良が登場し、壮麗な美しさが光る「透明な」、しっとりと聴かせる「Lento」を続けて披露した。MCで吉良が「Kitriの二人は完璧すぎて、宇宙人なんじゃないかと思う」と話して客席の笑いを誘っていたが、その言葉に思わず頷いてしまうほど、吐息のように繊細な歌から鍵盤のタッチ一つひとつに至るまで、“完璧”な演奏が繰り広げられた。MonaとHinaの仲睦まじい関係性や穏やかなキャラクターで観客をほっこりさせつつ、妥協のないストイックな演奏によって、最後はしっかり音楽で圧倒するのがKitriの素晴らしさである。今年は劇伴制作にも挑戦し、間口と可能性をますます広げている彼女たちの“三人姉妹”編成でのステージは必見だ。福岡、大阪、金沢とツアーは3公演続くが、ぜひ会場まで足を運んで、生の“音楽会”を体感してみてほしい。
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