TAEYO、絶望の中で自らの人生と向き合い気づいたこと 『Sky Grey』に詰め込んだ“裸”のリリック

 TAEYOが、メジャー2ndアルバム『Sky Grey』をリリースした。前作『Pale Blue Dot』からおよそ1年ぶりとなる本作は、プロデューサーのstarRoとともに石垣島で制作されたトラックが大半を占めている。ヒップホップやトラップ、トランスなどを無尽蔵に取り込んだ、まるで鋭利な刃物のような攻撃性の高い前作から一転、自身の内面へと深く潜り込んでいくようなチルでディープなサウンドスケープが全編にわたって展開。コロナ禍や戦争により人々が対立・分断し、フェイクが蔓延する不確かな世の中にあって漠然とした不安を抱えながら、それでも希望の光を見出そうともがく姿をそのまま楽曲に落とし込んでいるのが印象的だ。なお、starRoの他にもTaeyoung Boy時代からの朋友であるDroittteやCELSIOR COUPEなど、TAEYOと縁の深いクリエイターたちも数曲で参加しアルバムに彩りを与えている。「これまでで一番『裸』になっている」という本作を、彼は一体どのようにして作り上げたのだろうか。(黒田隆憲)

『Pale Blue Dot』リリース後に襲われた燃え尽き感

ーーTAEYOさんの公式YouTubeチャンネルから配信された、starRoさんとの対談『TAEYO x starRo TALK』の模様を取材させてもらったのが、ちょうど1年前。前作『Pale Blue Dot』をリリースしてから2カ月ほど経ったころでした(※1)。以来、TAEYOさんはどんな日々を過ごしていましたか?

TAEYO:実を言うと、『Pale Blue Dot』をリリースしたあとに燃え尽きてしまったというか。自分が思ったような反応がキャッチできなかったこともあって、昨年後半はあまり制作に対して意欲的になれなかったんです。年が明けてstarRoさんと、石垣島で合宿をしたあたりから、ようやく制作モードに入っていった感じでしたね。

ーー2022年に入り、ウクライナではロシアによる武力侵攻が起きたり、日本では首相経験者が演説中に銃殺されたり、その後は「宗教と政治」の問題が取り沙汰され、最近は北朝鮮がミサイルを連続して日本海に向けて発射するなど物々しい空気がずっと立ち込めています。コロナ禍はようやく落ち着きそうな気配もありますが、そんな情勢をTAEYOさんはどう見ていたのでしょうか。

TAEYO:それこそ『Pale Blue Dot』を作っている時から「ヤバい時代になったな」と思っていましたね。僕はラジオ収録のため週一で渋谷に通っていたのですが、街中を歩いているだけでもそのヤバさを肌で感じていました。石垣島には2週間ほど滞在したのですが、そこである意味リセットされた分、東京に戻ってきてより敏感に感じるようになってしまって。要するに「世の中はいい方向にはいかないし、むしろどんどん悪くなっている」ということですね。何よりそれを、ほとんどの人が気づいてもないことがショックというか、ちょっと絶望してしまったところもあって。「俺のやっていることとか、一生理解してもらえないんじゃないか」とさえ思っていたんです。

ーーそうだったのですね。

TAEYO:でも、少し前にstarRoから「TAEYOは、ある意味では音楽を作る以上に難しいことをやっている」と言ってもらったことがあって。というのも、『TAEYO x starRo TALK』の配信動画を暗記するくらい何度も見返してくれる人がいたり、starRoのところに人生相談みたいなDMを送ってくるファンの子がいたり、僕のラジオ番組にもたくさんの相談メールが寄せられたり。「TAEYOについて行きたい」と思ってくれている子たちが意外といるんだなということに気づくことができたんです。

 であれば、世の中に違和感を抱いてモヤモヤしていたり、周囲と馴染めず辛い思いをしていたり、あるいは世の中に対して漠然とした不安を感じている人たちに、俺のことを知ってほしいし、共感してくれる人がいた方が俺も心強いし、ファン以上の関係というかコミュニティができていくといいんじゃないかなと。そんなことを、アルバムを作りながらずっと考えていましたね。

ーーまずは本当に応援してくれている人、共感してくれる人にちゃんと届けたいと。

TAEYO:もちろん、たくさんの人に聴いてほしい気持ちもあるんですよ。思ったような反応がなくて落ち込んだわけですから(笑)。であるなら、もっとこちらから寄り添わなければと。自分の音楽のありようとして、広げる必要があると思ったので、今回はキャッチーさとか、もう一度プレイボタンを押したくなるような仕掛けを意識して散りばめるようにしました。

ーー「TAEYOについて行きたい」と思ってくれている人たちに寄り添うことで、自分自身が赦されていくような感覚もありましたか?

TAEYO:それもありました。曲を作ったりレコーディングしたり、制作そのものが自分にとってヒーリングになっていたし、何より曲を作っている時が一番調子いいんです。曲を作って、その日にできた音源を聴きながら家に帰る時が一番テンション上がりますね(笑)。付き合ってもらったスタジオの人たち、スタッフ、アーティストの方々には本当に感謝しかない。

「grey」にもいろんな色がある

ーーちなみに、アルバムを作っている時によく聴いていた音楽や、リファレンスにした作品などありましたか?

TAEYO:例えば、石垣ではUKやUSのアングラR&Bを集めたプレイリストをめっちゃ聴いていました。「海外のプレイリストに入っていても遜色のない曲にしたい」という意識もありましたね。主に海外アーティストを好んで聴いていましたが、日本語でフックになる言葉も色々と探していました。とにかく、石垣を選んだのは大正解でした。スピリチュアル的なパワーもある場所ですし、ご飯がとにかくめちゃめちゃ美味しくて。

 石垣で滞在していたAirbnbは、中央に中庭みたいなスペースがあって。そこに洗濯物を干したり、時には寝転がったりして過ごしていたんですけど、そこから見上げるとまるで美術館の絵のように、空が四角く切り取られていたんです。その光景を、アルバムを制作しながらずっと思い出していたんですよね。南の島の空だからなのか、曇天でも雲がうっすらとかかったグラデーションになっていて。グレーというと、どんよりとしたイメージがすぐに浮かぶけど、実はそういう美しい側面があったり、あるいは今までの場所から新たな場所へと移動していく途中の、曖昧な空間というイメージもあったりして。

TAEYO / Sky Grey CROSSFADE

ーーアルバムタイトルの『Sky Grey』には、そういった様々な意味が込められていると。

TAEYO:『Pale Blue Dot』の「blue」にかけているところもありますし。ただ、これはネガティブな気持ちでつけたタイトルでは全然なくて。「grey」にもいろんな色があると思うし。そのあと石垣島から帰ってきて、今まで向き合ってこなかった自分の人生や人間関係を振り返り、「これからは本当にピュアに生きよう」と思いました。

ーーなぜ自分自身と向き合うことにしようとしたのですか?

TAEYO:なんかもう、疲れちゃったんですよね(笑)。資本主義的な考え方や都会の空気に対してもそうですし、SNSに蔓延するフェイクや、それにころっと騙される人たち……そういうものに心底疲れてしまったし、ありのままの自分でいることの大切さに改めて気づかされたというか。今作には、それを踏まえて書いた歌詞が並んでいるので、これまでで一番「裸」になっていると思います。嘘は一切書いていないし、飾り立てたりカッコつけたりもしていない。

ーーなんとなく世の中で「当たり前」や「常識」とされていることも一旦疑ってみたり、俯瞰してみたりして「おかしいものはおかしい」と忌憚なく言えることが大事と言うか。そのことは、みんながコロナ禍でなんとなく気づき始めているのかもしれないですね。

TAEYO:ただ、そこにも「落とし穴」がある気がしているんですよ。白黒はっきりしない中途半端な状況で、漠然と不安を感じている人たちのことを、いろいろな方向から扇動しようとする連中がいるわけで。だからこそ、アートがもたらす体験や経験がより必要になってきているのかなと。

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