My Hair is Bad、新曲「瞳にめざめて」に至るまで 30代を迎えた今、10代の恋愛を描く面白さ
My Hair is Badの新曲「瞳にめざめて」が10月26日に配信リリースされた。
My Hair is Badといえば、今年4月に5thアルバム『angels』をリリースしている。同作はメンバー3人が20代のうちに制作された最後のアルバムだったが、その半年後、30代になってから初めてリリースされる新曲が、まさかサビ冒頭で〈恋をしてた〉と歌い上げる超直球のラブソングになるとは思わなかった。MVでは恋する青年が全力で走り、バンドが海や青空をバックに演奏しているが、そういったビジュアルがよく似合うシンプルで瑞々しいアッパーチューンだ。歌詞もアレンジも今の3人ならもっと凝ったこともできるだろうに、あえてそれをやらないという勇気ある選択。高校生の男女が出演するABEMAの恋愛番組『恋する♥週末ホームステイ 2022秋 ~Honey Soda Story~』の主題歌として制作されたからこその潔さなのだろうか。
バンドのソングライター・椎木知仁(Gt/Vo)は、これまでに様々な恋愛ソングを書いてきた。「瞳にめざめて」と同様、相手への好意を歌った曲として思い当たるのは「いつか結婚しても」で、〈大好きで大切で大事な君には/愛してるなんて言わないぜ〉と歌うプロポーズソングには、本音を確かめ合うための言葉がなくても心は繋がっていられる関係を求める気持ちが表れている。
しかし現実は理想通りにはいかない。言葉を重ねるよりも身体を重ねた方が心を通わせられるのかといったらそういう話でもなく、例えば、「真赤」ではむしろ〈ブラジャーのホックを外す時だけ/心の中までわかった気がした〉と歌われている。〈わかった気がした〉だけであり、“わかった”状態、“わかり合えた”状態になることはない。
2014年リリースの「ドラマみたいだ」ではすでに〈誰かに愛されて/誰かを愛している/何かに気付けなくて/何かを傷つけてる/それだけなんだ〉と核心を突くフレーズが生まれているが、相手の気持ちに気づけなかったこと、本当は気づいていたのに気づかないふりをしてしまったこと、自分の気持ちにすらも気づかないふりをして都合のいい解釈とともに飲み込んできたこと、誰かを愛したいと思うのは自分を愛したいからだということ、それらから生まれる“傷”を伴う恋愛を初期のMy Hair is Badは多く歌ってきた。
携帯が鳴っても「誰から?」なんて聞いたりせず、犬のように従順になることで何とか繋がれている関係を歌う「真赤」。〈君の掌で踊る 君の掌で踊る/踊らされてるんじゃない〉という謎の理論とアッパーな曲調から“そうでもしないとやっていけない”といった感覚が伝わってくる「接吻とフレンド」。〈結婚したいなって思ってたんだ/でも思っていただけだったんだ/どういうことかわかんなかった〉と繰り返しつつ、〈どういうことかわかってたんだ〉と一カ所だけ違う歌詞を歌う「グッバイ・マイマリー」。すれ違いの要因を〈そんな君には悪気がない/でも僕にはまるで余裕がない/僕をわかってくれない/君をわかってあげたい〉とする「卒業」。心から離れてくれない人を〈恋は薄まって でも愛はまだ残っているよ〉と想う、現恋人はもちろん、元恋人にも伝えるべきではない内容であり、この人の独り言として終わらせなければならない歌「恋人ができたんだ」。