KREVA、『908 FESTIVAL』ならではのユニークな試み ラップありコントありの“緩急自在なステージ”はどう生まれたのか?
アーティスト主催のフェスはいまや少なくないが、KREVA主催の“音楽の祭り”『908 FESTIVAL』は、とてもユニークな特徴を持っている。単に様々なアーティストが登場してパフォーマンスをするだけでなく、KREVAを中心に出演陣全員が作り上げるひとつなぎのエンターテインメントショーのようなフェスになっているのだ。
2022年9月23日には、通算11回目となる『908 FESTIVAL 2022』が日本武道館で開催された。出演アーティストはKREVAのほか、三浦大知、久保田利伸、そして藤井隆・椿鬼奴・後藤輝基(フットボールアワー) from SLENDERIE RECORDという顔ぶれ。コントや寸劇を挟みつつ、さまざまなコラボレーションが繰り広げられた。特に久保田利伸、三浦大知、KREVAの3人がステージに集結した「Your Love feat. KREVA」はハイライトと言える瞬間だった。
毎年恒例となっていた同イベントだが、コロナ禍を受けて2020年は配信ライブ、2021年は延期となり今年2月に『908 FESTIVAL 2021+1』として開催された。久しぶりに武道館で有観客での開催となった『908 FESTIVAL 2022』を終えたKREVAに、改めてフェスの狙いや手応えを語ってもらった。(柴那典)
※『908 FESTIVAL 2022』は、PIA LIVE STREAMにて11月11日〜14日、3日間の期間限定で独占配信中。
「まずは久保田利伸に動いてもらわないと始まらない」
ーー『908 FESTIVAL』を終えて、まずはシンプルにどんな実感がありましたか?
KREVA:自分のパートの中で、三浦大知の「Your Love feat. KREVA」を久保田利伸に歌ってもらうっていうことを決めて、一つひとつOKを取っていって、全部OKを取れた段階で成功が約束されているというくらいの気持ちでいたので。緊張もなくやれたんですけど、満足度は思っていた以上でしたね。
ーー思っていた以上に満足度が高かったという、その理由は?
KREVA:やっぱり人に観てもらえるというところですね。ここ最近は『908 FESTIVAL ONLINE』とか『908 FESTIVAL 2021+1』とか、今までと違う形でやってきていたので。ようやく、いわゆる『908 FESTIVAL』としてやりたいことが思いっきりできた。それが満足度に繋がっているんじゃないかなと思います。
ーー武道館でやる『908 FESTIVAL』には独特の一体感がありますよね。出演者とお客さんの全員で一つの祭りを作るというようなムードがある。
KREVA:それは意識してやっているところですね。今言ってくれたみたいに、武道館じゃないとコントみたいなこともちょっとやりづらい。武道館だからこそできることもあると思います。
ーー具体的には?
KREVA:一番大きいのは、武道館の距離感ですね。話し声でもみんなに届きそうな距離感というか、ギリギリ表情が分かる、体温が伝わりそうな距離感だからできるわちゃわちゃ感というのが武道館のいいところだと思います。他でやるとなると「ここでこういう風にカメラを撮って」とか、後ろに映し出す映像も含めていろいろ計算してやらなきゃいけないこともあるんですけど、武道館はお客さんに囲まれて、どこからでも見える感覚があるので、トライできることが多いんですよね。ーー出演者総出の寸劇から久保田利伸さんと三浦大知さんとKREVAさんの3人のコラボで「Your Love feat. KREVA」を歌う場面は、観ている側にとっても明らかに「これがクライマックスだ」という感覚がありました。
KREVA:分かりやすいですよね(笑)。
ーーあれはどんなふうに計画していったんですか?
KREVA:一つひとつ全員に自分の口で説明しました。まずは久保田利伸に動いてもらわないと始まらないから、彼に話をして。どうしてそれをやったら面白いと思うのか、流れとかやってほしいことも丁寧に伝えて。そしたら「面白いと思う」とやってくれることになった。OKがもらえたんで、次は藤井(隆)さんに話をしに行って、「プロに頼むのは申し訳ないんだけど、大知を止めるマネージャー役をやってほしい」というお願いして。そしたら「後藤(輝基)くんも(椿鬼)奴さんも一緒に出てくるのはどうか」みたいに流れを考えてくれて。で、あとは最終的に(三浦)大ちゃんにも伝えるっていう。
ーーそもそものブッキングの意図から聞かせてください。まず三浦大知さんは『908 FESTIVAL』に欠くことのできないアーティストだと思うんですが。
KREVA:うん。呼ばないという考えはないですね。
ーーそこに久保田利伸さんがいて、藤井隆さんと<SLENDERIE RECORD>の面々が加わるという今回のラインナップはどんな風に考えていったんでしょうか?
KREVA:「俺の好きは狭い」という曲もありますけど、自分の好きな範囲が狭いので、聴いている音楽も限られてきちゃって。その中で誰がいいかを考えるのは結構難しくて。これをやったらいいだろうと思いつくことが、極端に少なかったんですよね。その中で自分が聴いていた曲とか、こういうのが聴きたいという思いから選んでいたら、ラッパーが出てこなかった。それでこのメンバーになったという感じですね。女性のアーティストがなかなか思い浮かばなかったんですけど、奴さんがいてくれたんで、バランスもよかったなと思ってます。ーー久保田利伸さんとKREVAさんは深い関係ですけど、改めて今回声をかけたのはどういう理由だったんでしょうか?
KREVA:テレビで一回「Missing」をカバーさせてもらって、そのタイミングで「久保田利伸のグルーヴとは」みたいなことを語る機会があったんです。その時に、自分の中で久保田利伸のどこに魅力を感じているのかを考えて。ファンキーだったりノリのいい曲のイメージもあるし、「LA・LA・LA LOVE SONG」が代表曲だと思うんだけど、もう一方でアニキ(久保田)には「Missing」とか「Cymbals」みたいな良いバラードがいっぱいある。お客さんが声を出せない状況だからこそ、バラードを持っているのはすごく強いなと思ったんです。そこからバラードをバチンと歌う役がハマるんじゃないかなと思ってオファーしました。
“ラップ=エンターテインメント”を実感した原体験
ーー藤井隆さんに関しては?
KREVA:藤井さんはとにかく、<SLENDERIE RECORD>が面白いなと思って。やっていることは全然違うんですけど、クリエイションへのこだわりに共感できる部分があるんですよね。ジャケットのこだわり方も面白いし、彼らの音楽は基本的に打ち込みでアレンジされてて、サウンドがそこでに着地してる感じも共感できる部分が多かったし。とにかく面白いなと思って、その魅力を伝えたいというのがありました。
ーー藤井隆さんの音楽活動って、ミュージシャンからの評判が非常に高いですよね。KREVAさんも作り手としての目線から魅力を感じるところが多かった?
KREVA:言葉を選ばなきゃいけないんですけど、とにかくこだわりがクレイジーだなと。それを徹底的に貫いてるのがすごいなと思うし、そこが魅力だと思います。
ーーオファーを受けた藤井さんはどんな反応をしていましたか?
KREVA:レーベルとして呼ばれることが今までなかったみたいで、レーベルで選んでくれたっていうのをすごく喜んでくれましたね。「このご恩は一生忘れません」みたいなことを言ってくれました。自分は麒麟の川島(明)さんとかレイザーラモンRGさんとかも参加している『SLENDERIE ideal』っていうコンピがすごく好きで。そこから厳選して、あのメンバーで来てくれました。本当に喜んでくれましたし、嬉しかったですね。バンドの演奏も楽しんでくれていたし。ーー藤井隆という人はみんな知っているし、音楽活動をやっているということも知られてきたとは思いますが、<SLENDERIE RECORD>をフィーチャーするという発想はあまりなかったかもしれないですね。
KREVA:フェスでレーベルごと呼ぶっていうこと自体があまりないですからね。インディーズのヒップホップグループだったら、もしかしたらそういう発想もあったかもしれないですけど。それができたのはよかったですね。
ーー椿鬼奴さん、後藤さんはどんな感じでした?
KREVA:選曲は自分がさせてもらったんですけど、「この歌を選んでくれたんだ」って喜んでくれて。音楽的な面では、あの日の演出も含めて何から何まで楽しんでくれました。向こうは「呼んでくれてありがとうございます」って言ってくれるんだけど、こっちからしたら「来てくれてありがとうございます」という。やっぱり舞台に立つプロだから、単に気持ちよく歌うとかじゃなくて、それをみんなに見せるのがすごく上手だなと思いました。
ーー「くればいいのに」で藤井さんたちが出てくる寸劇とかも最初から決まってたんですか?
KREVA:「いくら長くしてもらってもいいんで」っていうことだけはお伝えしていたんです。「葉加瀬太郎さんが今までで一番長かった」っていう話もしていて。それ以外は全然決まってなかったんですけど、そこからきっちりやってくれた感じでした。後のコントも、大まかな流れと着地点は決まってたんですけど、藤井さんが扮したマネージャーの名前とか、後藤さんが歌って出てくるところとかは、全部アドリブで。最高でしたね。
ーー『908 FESTIVAL』でいわゆるコントや寸劇をやるのって、今回が初めてではないじゃないですか。過去にもいろんな人が参加してきたし、その中には無茶振りもあったと思うんです。
KREVA:絢香ちゃんを無理やりそういう舞台に立たせるとかもありましたからね。「喋らなくていいから、とにかくいてくれ」って(笑)。彼女をコントに参加させるというのはなかなかの出来事でした。
ーーコントはそもそもどういうところが始まりだったんですか?
KREVA:「ライミング講座」じゃないですかね。もっと遡ると最初に『完全1人武道館』 (2007年)をやった時に、「呉萬福(クレ・マンプク)」という料理人に扮して、音をミックスするコントみたいなのをやったところからだったかな。
ーーなぜそういうことをやろうと思ったんでしょうか?
KREVA:小林賢太郎さんが大好きなんで、その影響だと思います。あとは、締めるとこを締めるけど、緩めるとこは緩めるという、そういう部分がしっかりしている学校の先生が昔から好きだったんですよ。授業しない時はしないけど、やる時はやるし、怒る時は怒るみたいな。そういうのをライブで作ろうとすると、一回思いっきり緩い方に振り切って、油断させた後に曲をやった方が飛距離が出る。それで締まる感じがあると思うんですよね。
ーー『908 FESTIVAL』の本筋ではないけど、ああいうコントって、スパイスとしてかなり効いていると思います。
KREVA:そうですね。逆にそれがある分、どうしても必要なパートというのはあって。久保田利伸のバラードをバチンと聴かせられないと、ふざけられないとか。例えば絢香ちゃんだったら、とにかく最後に歌ってくれれば、笑いではないオチができる。今回のコントだって、面白い着地をするんじゃなくて、「久保田利伸が三浦大知の歌を歌ってる」とか「3人で戯れてる」みたいなところに着地するから、そこに至るまでの流れも含めて感動になるというか。そういうのが自分は好きなんだと思います。
ーーあの呼吸と間合いで、音楽とユーモアがミックスされている面白さというのは、『908 FESTIVAL』に行った人でないとなかなかわからない感覚ですよね。
KREVA:周りのクスクス笑いも含めてね。それがシーンと静かになったり、喜びの声に変わったり、現場にいないとわからないところはあるかもしれないですね。思い出すのは、まだ19歳とか20代前半だった頃に、俺にMPCを教えてくれた師匠、EAST ENDのDJだったROCK-Teeが、「Run-D.M.C.が『My Adidas』という曲を歌う前にコントというか寸劇みたいなことをやる」って教えてくれたんだけど、「お前らのアディダスを掲げろ」みたいなことを言ったり、アディダスの靴を電話みたいに耳につけて、そこから電話をかけるように歌い出すみたいなことをしていて。「そういうことをやるんだ。エンターテイナーだな」と思って。それは、ライブで“きっかけ”を作るのは大事だと思った原体験として、常にあるんですよね。ラッパーってちゃんとエンターテインするんだっていうことを教えてもらったというか。