三上ちさこ、怒涛のライブで更新し続ける全盛期 シンガーとしての広がりと進化が生み出す“心と心の繋がり”
『三上ちさこ Acoustic Live Tour 2022 “fuleru”』でもそんな光景がたくさん見えた。シンガーソングライターでありギタリストの坂上太一をサポートに迎え、2人編成で廻った本ツアー。筆者は初日の下北沢ニュー風知空知(東京)公演を観たが、バンドサウンドでこそ輝くと思っていた「レプリカント(絶滅危惧種)」をアコースティックギターのみの演奏で披露し、観客の手拍子をビートにすることで、会場全体で完成させる1曲になっていたのは嬉しい驚きだった。それによって〈誰もが同じこの地球の希望〉というラスト一節の響き方も変わり、ステージ上から歌を受け取るのみならず、それを体で返していくことで、演者にも新しいエネルギーが生まれるという、ライブの醍醐味をしっかり体感することができた(いずれ合唱できるようになれば、この曲の可能性はさらに広がるだろう)。
また、このライブ最大の見せ場は、間違いなくラストに披露された「小さなひかり。」だった。ステージを降りて、客席を歩きながら一人ひとりとアイコンタクトを取り、マイクも通さず地声のボーカルだけで歌を届けた光景は忘れられない。目の前にある風景の愛おしさ、物理的な距離ではなく心の距離で繋がる大切さが滲む「小さなひかり。」を、観客に囲まれた中心で三上が歌うという演出は、この曲の奥深さを存分に引き立てていたと思う。
さらに、〈空〉〈宙〉〈そら〉はfra-foaだけでなく、三上のソロ曲にもよく現れるワードだが、〈明日には/見えなくなっているこの空を/わたしに深く刻もう〉と綴られた「小さなひかり。」のサビは、この日のライブに流れる空気そのものを体現しているようにも感じられた。もちろん、空は“絶対に届かない巨大なもの”の象徴であり、ネガティブな意味で三上の前に立ち塞がったこともあっただろう。だが、それは離れた人と人を繋ぐ架け橋でもあり、1日として同じ空はないからこそ“忘れたくない今日を生きた証”にもなり得る。〈空〉というのは、たとえ一期一会であっても、出会いと繋がりの大切さを歌った言葉なのではないか。丁寧に想いを噛み締めながら届ける三上の姿を見ると、そんな気がしてならなかった。
他にも、ダンサブルな原曲からしっとりしたミドルテンポに変換されていた「アザミノ」、カオティックな坂上のギターソロが炸裂した「解放区」、温かな歌唱で涙を誘った「ひぐらし」など、アコースティックライブならではの感動がたっぷり詰まったツアーだったことも特筆しておこう。
直近の『「Emergence」レコ発ワンマンライブ』では、タイトル通り『Emergence』の楽曲を中心に演奏された。本作はアレンジ、曲調、歌唱スタイルなど、あらゆる点において多種多様な曲が揃ったアルバムだ。壮麗なメロディの上で気丈さを光らせる「ヌード」、サビの爆発力が気持ちいい「ユートピア」や「re:life」、レゲエ調に合わせてリズミカルに歌う「go on」、高速でラップを披露するミクスチャーロック「Super Civilization」、歌心全開の切ないバラード「sNow letteR」「羽化」「ひかりの淵で~in the Darkest Light~」など、一部を切り取っただけでも本当に幅広い。だが、持ち前のパワフルさと繊細さの緩急によって、それらを自在に乗りこなしていくところが本公演の見どころであったし、三上の“シンガーとしての凄み”を最も鮮明に堪能できるライブになっていた。
中でもひときわ輝きを放っていたのは本編ラスト3曲ーー広島東洋カープの秋山翔吾選手に捧げられた「SA -Samurai Anthem-」、福島レッドホープス公式応援歌の「Red Burn」、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)エンディングテーマの「TRAJECTORY-キセキ-」である。不思議な縁でそれぞれが野球からインスパイアされた楽曲になっており、グラウンドで懸命に試合に挑む選手の心情と、葛藤を味わいながらもシンガーとして殻を破ってきた三上の想いが重なり合い、活動するジャンルは違えど、心の根底で“繋がり”が生まれた楽曲になっている。現に「TRAJECTORY-キセキ-」が三上の代表曲になっており、背中を押すストレートな言葉がライブのカタルシスになっていることを思うと、この本編ラスト3曲は“三上ちさこのテーマ”そのものなのだと思う。特に「Red Burn」では会場にいた観客の名前をアドリブで歌詞に組み込み、正真正銘“あなたへの歌”として届けるという粋な演出も見せた。まさに、新しい形で観客との“繋がり”が生まれた瞬間だった。
そんな三上の歌を支えるバンドメンバーたちーー根岸孝旨(Ba)、西川進(Gt)、平里修一(Dr)はもはや“三上ちさこバンド”と呼びたくなるほど鉄壁の布陣だ。『Re: Born 20+2 Anniversary Live -三度目の正直-』の模様はすでにレポートを掲載済みだが(※2)、『「Emergence」レコ発ワンマンライブ』でも骨太な演奏を聴かせてくれた。『Emergence』自体がストリングスやシンセサイザーなど多彩なアレンジから成り立っているアルバムゆえ、それを3人のバンドサウンドに落とし込む過程が必要だったはずだが、結果的に彼らならではのエネルギッシュかつオルタナ性の強い演奏で再現されていたのはとても面白かった。三上の歌声が真っ直ぐ届くために、高い演奏力で支える3人は欠かせないピースになってきている。12月にはこの編成で再びワンマンライブが行われるそうで、まだ今年のライブで披露されていない楽曲にどんな色合いが加わるのか、楽しみだ。
こうして振り返ってみても、ライブを重ねるごとにオーディエンスとの“繋がり”を着実に深めている三上ちさこ。それは、潜在的に誰かとの繋がりを求めて歌っていたfra-foaを経て、次第に自分から“繋がる場”を生み出せるようになった、三上の成長と進化の証なのだろう。孤独な叫びも、繋がり合う歓びも知っている彼女が生み出す楽曲たちは、ポップもオルタナティブも飛び越えて広がる可能性を存分に秘めているということだ。
2022年の今こそ、三上ちさこのライブで音楽を体感したい。
※1:https://realsound.jp/2022/07/post-1068843.html
※2:https://realsound.jp/2022/05/post-1040303.html
■リリース情報
三上ちさこ「レプリカント(絶滅危惧種)」
作詞作曲:三上ちさこ
編曲:根岸孝旨、保本真吾
2022年7月6日(水)配信リリース
ダウンロード/ストリーミングはこちら
【オフィシャルHP・SNS】
三上ちさこオフィシャルWebサイト:https://www.mikamichisako.net/
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