レディー・ガガ、苦しみ乗り越えたキャリア史上最もパーソナルなショー 音楽による救済描いた8年ぶり来日公演

 そして、「今夜、ここにいる多くの方々が、本当の自分というものを知っているように感じています。もし、あなたがまだ知らないとしても、きっといつか分かる日がくるでしょう」「この曲をLGBTQ+コミュニティに捧げます」という言葉と共に披露されたのは、もはやポップミュージック史に残るアンセムとなった「Born This Way」。前半は彼女自身によるピアノの弾き語りによって一つひとつの言葉を丁寧に観客へと届け、後半はバンド演奏によってドームをこの日最大のダンスパーティへと導く。周りを見渡してみると、笑顔で楽しく踊る人はもちろん、目に涙を浮かべている人も少なくない。苦しみを乗り越えたガガを中心に、観客一人ひとりの持つエネルギーが引き出され、会場全体を満たしていく。それは、これまでに感じたことのない、圧倒的な幸福感に満ちたポジティブな体験であり、本当の「音楽の持つ力」というものを強く実感する瞬間でもあった。

 そのままサブステージ上で展開された“ACT IV”では、カマキリのような衣装を身に纏ったガガが、岩や樹木の装飾を纏ったピアノを自ら奏でながら進行していく。それは(恐らく痛みのメタファーである)金属的なモチーフから、本来の居場所であるはずの自然への回帰を示しているようであり、彼女自身もこの場の空気に浸り、楽曲ごとに観客とコミュニケーションを取りながら純粋に音楽と向き合っているように思えた。彼女のオーセンティックな側面を象徴する楽曲「Shallow」を筆頭に、歌い出しを「あの東京の空が(That Tokyo sky)」と変えて歌った「Always Remember Us This Way」、「The Edge Of Glory」、「Angel Down」と至高の楽曲群が続いていく。この後に披露された「Fun Tonight」は、そのタイトルや軽快な曲調とは裏腹に、自らが抱える傷やネガティブな考え方と向き合うことをテーマとした楽曲だ。だが、前半はピアノの弾き語りで、後半はバンド演奏によって再び会場をダンスフロアへと導いたこの日のパフォーマンスは、もはや負った傷を自らの一部として受け入れ、その上で心からパーティーを楽しんでいるかのようだった。やがて、再び客席へと舞い降り、ステージへと帰還した彼女は「Enigma」によって、大団円を迎える。

 スクリーンに映るのは、前半では息苦しさの象徴であったかのような灰色の世界の中で、優雅に風に揺られ、自由を謳歌しているかのようなガガの姿。それは、きっと自らを苦しめる痛みを受容し、調和を成し遂げた今の彼女自身を表しているのだろう。“FINALE”と銘打たれたこの最終パートでは、再びレザーのジャケットを身に纏った彼女が、力強い眼差しと共に改めて戦いへと身を投じていく。「Stupid Love」でのダンサーとの一糸乱れぬパフォーマンス、驚異的な歌声、ありったけの特効によって徹底的に「愛」と対峙した彼女は、楽曲の終わりに再び床へと倒れてしまう。だが、今回は暗闇を迎えることはなく、そのまま「Rain On Me」を歌い出す。痛みや苦しみを不条理に降り注ぐ雨に例え、「覚悟はできている/どうぞ降って(I’m ready, rain on me)」と全てを受け入れながら踊り続ける今の彼女の姿はあまりにも強く、眩しく、そして美しかった。

 鳴り止まない熱狂の中で最後に披露されたのは、今のガガにとって最新の楽曲である「Hold My Hand」。燃え盛る炎をバックに「私の手をとって(Hold my hand)」と力強く歌う彼女が伸ばした右手は、いつの間にか黒く、鋭い鉤爪となっていた。その姿は、彼女を苦しめていた「激しい痛み」が、受容という長き戦いの果てに、彼女にとっての「武器」となったことを意味しているのだろう。まさに見事なエンディングだ。

 自らの痛みや苦しみと対峙するどころか、その体験を巨大な会場で、何万人もの大観衆の前で演じてみせることによって、新たな芸術作品へと昇華させてしまう。それどころか、あまりにも徹底的かつ容赦なく表現したことによって人々に深い共感を与え、「Born This Way」のようなアンセムにさらなる圧倒的な説得力と感動を与えてしまう。構造としては残酷だが、世界屈指のアーティストとしても、様々なコミュニティに支持される世界的なポップアイコンとしても、あまりにも完璧としか言いようがない。

 大団円のカーテンコールを終えた後、一人ステージに残ったガガは、手でハートマークを作り、深いお辞儀をし、改めて観客への感謝の想いを示しながら去っていった。だが、姿が見えなくなる直前で立ち止まり、こちらを振り返った彼女は、無言のままで最後のダンスを決めた。

 あまりの美しさと格好良さに再び熱狂する数万人の観客。改めて、これほど完璧なアーティスト/ポップアイコンがいるだろうか。

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