Maika Loubté、シンセサイザーと共に踏破する未開の音域 “ありきたり”を許容しない音楽制作への姿勢

創作の自由を求めた結果行き着いた「音楽の普遍性」

ーー先日たまたまTwitterでMaikaさんとlIlIさんがやり取りされているのを見かけたんですが、ご自身たちが帰属する界隈についてやり取りされてましたよね。「自分が集団に属しながら活動しているのかが分からない」っていう。あの話、個人的にもすごく共感するんですが、何だかお三方にも共通する部分があるのではと感じました。

Maika Loubté:それに関しては私もずっと前から感じてるんです。活動を始めた頃から、「属性」を聞かれることにフラストレーションがありました。「レーベルと事務所はどこですか?」とか、「誰と仲が良いんですか?」とか。どこかに所属したりコミュニティを持つことは大事だと思いつつ、それを表明したり意識しないといけないことに違和感がありました。lIlIさんも似たようなことを考えてることが分かって、やっぱりそうだよねって思いましたね。これって多分、ソロアーティストかどうかは関係ないんじゃないかな。いつでもどこかへ行ける状態でいることが重要と言いますか。

ーー先ほど仰った「ありきたりな日本語の歌にしたくない」という思いに通底するのではないでしょうか。Maikaさんにとってアイドルポップがベーシックでないように、“ありきたり”は人によって違うかもしれませんが、それが何であれ「ホーム」を持っているとそこに頼りがちになってしまいそうです。

Maika Loubté:そうなんですよ。『Hana炎』で離れたかった自分のクセは、まさにそういう部分です。創作は常に自由でありたい。ただ、以前ほどはそういった属性に対する違和感は薄れてきている気もします。どこかに帰属意識を持たなくとも、自分が本当に気を許せる人がいる環境であれば、健全に活動できることに気付きました。

ーー『Lucid Dreaming』で表明した“手放すことの重要性”にも通ずるお話かと感じます。ポジティブに何かを諦めていく態度は、一貫しているのではないでしょうか。本作を歌とアナログシンセサイザーのみで再構築した『Lucid Dreaming: Synthesized Symphony』についても聞かせてください。このアルバムのアイデアに近いことはずいぶん前から伺っておりましたが、今実現しようと考えた理由は何かありますか?

Maika Loubté:タイミングに関しては深い信念があったわけではないですね。“やれる実感があったから作った”というシンプルな理由です。コロナ禍でオンラインライブを行う機会が増えたのは大きかったですね。基本的にミニマルな編成でライブをやっていたんですけども、どうしてもトラックの音源だとオーディエンスの画面からライブ感が伝わりにくいんですよね。で、シンセの弾き語りをやるようになったんですが、それを観てくれたお客さんが喜んでくれたんです。その反応は励みになりましたね。今作を作る上でも少なからず影響があったと思います。確かにかなり前から考えていたアイデアではありますが、実際は“しんどいだろうな”っていう感覚もありました。例えば「Spider Dancing」なんかはビートありきの曲でしたから、それらを全部抜いて音符だけで表現したらどうなっちゃうんだ……とか、自分から見ても未知数なところがありました。

ーー二元論ではないかもしれませんが、本作の目的は原曲の良さをさらに引き出すものなのか、それとも別のベクトルに推進するものなのか、どちらなのでしょうか? 「5AM」や「System」を聴くと前者である気がしますが、名前が挙がった「Spider Dancing」はだいぶ印象が変わりました。

Maika Loubté:やっぱり両方ですかね。自分で聴いても「Spider Dancing」は印象が変わったと思いますし、作業はずっと手探りでした。先ほど言ったように、この曲はリズムから作ったので、シンセだけで成立させるには大改革が必要だと感じてました。仰るように「5AM」や「Mist」は、割と音符で作っているところがあるのでシンプルなアレンジでも成立しましたね。極論を言うと音符がなくても音楽は成立すると思うんですが、自分は結局音符がある音楽が好きだということを、本作を通して再確認できました。そういう成り立ちの音楽って、形が変わったとしても残っていけると思うんです。私は今回のプロジェクトを実験的に捉えていたんですけど、それが分かったことが一番の収穫ですね。そういった「音楽の普遍性」を求める傾向が、自分にはあるかもしれません。

ーープリミティブなニュアンスは私も受け取りました。エアー(鍵盤を弾いたときに出る)音が入ってるんですね。人間が音楽をやる“尊さ”のようなものを感じました。こういうリッチな音楽体験ってやっぱり素晴らしいと思います。

Maika Loubté:そういうふうに向き合って聴いてくれると本当に嬉しいです。まぁでもこのアルバムは、エレクトロニックミュージックの側面が強い『Hana炎』をリリースした直後に出るので、周りを振り回している自覚はあります(笑)。両極端を行き来しているという意味で、計画性の無さが露呈してしまった形にはなりましたね。たまたま時期が重なってしまっただけなんですけど。

ーーいやでも先ほど仰っていた「いつでもどこかへ行ける状態」に限りなく近い気がするので、むしろ良い振り回し方なのではないでしょうか(笑)。

Maika Loubté:結局のところ、私にとってはどちらも必要なんですよ。非日常を体現する意味でエレクトロニックミュージックやビートミュージックは重要だし、「自分はこういう主義を持っている!」とかも全くないので。今回のアルバムはマニアックな作品ではありますけど、私なりに自由を求めた結果でもあると思っています。

ーー日本における<Warp Records>の人気を考えると、そういった実験性に向き合ってくれる人は少なくないのではないでしょうか。

Maika Loubté:私としては聴き方を強制するつもりはないんですけどね。真剣に聴いてくれるのはもちろん嬉しいですけど、何か作業のBGMにしてもらっても全然構わないです。作り手の気持ちがありつつ、受け手はある程度自由に解釈できるのが音楽の性質だと思うので、オーディエンスに対してはニュートラルでいたいです。むしろ作り手から受け手に渡ったときに、どう発展してゆくのかは気になります。

ーーそれは音源に関わらず、ライブなどでも?

Maika Loubté:そうですね。ただ、このアルバムのようにシンセだけでライブをやるのは大変だろうな……。予算次第では誰かにライブ制作を手伝ってほしい(笑)。レコーディングでもMIDIのテンポ同期を使わずすべて手弾きで録ったので、ライブになるとさらに身体性と演奏力が求められると思っていて。だから同期がある上で自由にやることが多い普段のライブよりも、むしろシンセでこの手数の全てを語るほうが慣れなくて難しそうっていう。でも、今作のライブを本当にシンセの生演奏だけでできたら、きっと素晴らしいだろうなと思います。

ーーなんだかMaikaさんがシンセサイザーを相棒にした理由が少しだけ分かるような気がします。シンセって楽器としては限りなく音色に際限がないと思うんですが、それがまさしく自由や身体性とも繋がって来るんじゃないかなと。

Maika Loubté:そうかもしれない。まぁあまり自由に寄り過ぎると、今度は何かを見失う場合もありますから、そこは気を付けたいです。あくまでも私は、正直な作品を作り続けたい。それはライブでも、音源でも。

■リリース情報
Maika Loubté(マイカ・ルブテ)
『Lucid Dreaming: Synthesized Symphony』(ルシッドドリーミング シンセサイズドシンフォニー)
2022.08.31 Release
配信リンク:https://lnk.to/ML_LD_SS_pre

1. Introduction
2. Flower In The Dark [Synthesized]
3. Mist [Synthesized]
4. It’s So Natural [Synthesized]
5. Spider Dancing [Synthesized]
6. Demo CD-R From The Dead [Synthesized]
7. 5AM [Synthesized]
8. Kids On The Stage [Synthesized]
9. Show Me How [Synthesized]
10. Lucid Dreaming [Synthesized]
11. System [Synthesized]
12. Nagaretari [Synthesized]
13. Zenbu Dreaming [Synthesized]

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