尾田栄一郎の音楽愛が『ONE PIECE FILM RED』大ヒットを生んだ? 流行の先端をキャッチするトップランナーとしての姿勢

 8月6日の公開から20日間で興行収入100億円を突破した映画『ONE PIECE FILM RED』。同作は、主要キャラであるウタの歌唱キャストをAdoが務め、名だたるアーティストの楽曲提供によるミュージカル要素をふんだんに取り入れた冒険活劇となっている。

 今作の総合プロデューサーを務める原作者の尾田栄一郎は時折、音楽サブスクリプションサービスにて愛聴している楽曲のプレイリストをアップしているのだが、その選曲の豊かさから音楽好きとしても知られている。過去の劇場作品でもMr.ChildrenやDREAMS COME TRUEに自らラブコールを送ったほか、当時はまだ一般的には知名度がそこまで高くなかったGLIM SPANKYを主題歌アーティストに推薦したり、BUMP OF CHICKENとは盟友のような形で度々仕事を共にしている。『ONE PIECE』にこれまで息づいてきた尾田栄一郎の音楽愛が、その集大成的な形で『ONE PIECE FILM RED』にも宿っていると感じずにはいられない。

 1997年より週刊少年ジャンプで『ONE PIECE』の連載が始まってから、今年7月で25周年に突入。『ONE PIECE FILM RED』は、次なるフェーズを目指す新たな試みとして、『ONE PIECE』の世界観と音楽を融合。“世界の歌姫”ウタのバーチャルライブに来たような錯覚を覚えるほどのライブ感のある作品となった。映画公式パンフレットの尾田栄一郎インタビューによると、本映画にも楽曲提供している音楽ユニット・FAKE TYPE.のラッパー トップハムハット狂(TOPHAMHAT-KYO)の「Princess♂」を聴きながら、“こういう女の子が映画に出てきたら面白いのに”と思ったことが『ONE PIECE FILM RED』が音楽映画となった前日譚(ちなみに、尾田は2019年に最近ハマっているものとして同曲をピックアップしている)。ただ、最初のプロットではウタのようなキャラではなく、様々な候補がある中から「歌姫の話にしたい」という案を提案され、音楽の難しさを知る尾田は躊躇しつつも、スタッフの覚悟を聞いて一歩踏み出したという。

 また、ウタという歌姫を完成させるには高い声を出せるだけでなく“クセ”という個性が必要だと気づき、担当編集との雑談の中で全ての条件を満たしていたAdoにオファー。主題歌は、2012年の「ONE PIECE展」のテーマ曲や映画『ONE PIECE FILM Z』のオープニングテーマを担当し、親交もある中田ヤスタカに制作を依頼。脚本が決定してから“この人は絶対に、このシーンに合う曲を作れるはずだ”という期待を込めて、Mrs.GREEN APPLE、Vaundy、FAKE TYPE.、澤野弘之、折坂悠太、秦 基博など、様々なジャンルのアーティストに声を掛けたというが、ここからも尾田の音楽に対する守備範囲の広さを感じさせる。

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