『D.LEAGUE』、個性的なプロデューサーが手がけた音楽の魅力 採点に収まりきらないダンスとの豊かなケミストリー
avex ROYALBRATS 〜J-POPの構成を約分した「ウラオモテ」〜
唯一の上位チームからのピックアップとなったのが、avex ROYALBRATSのROUND.9「ウラオモテ」だ。プロデュースはボカロPのvictreamによるもの。驚きなのはJ-POPの様式美を<イントロ/Aメロ/Bメロ/サビ/ギターソロ/Aメロ/Bメロ/落ちサビ/転調したサビ/アウトロ>という変わった形ながらも自然に表現しつつ、2分15秒に収めたことである。
EDMが歌モノ楽曲に起こした変革の核心は、いわゆるサビをビルドアップしつつ格下げし、「ドロップ」と名付けた間奏(または偽装したイントロ)を聴きどころとした新しく強靭なフォーマットを打み出したことではないか。「エレクトロニック・ダンス・ミュージック」という過去の電子音楽全てを敵に回すような名称を獲得できたのも、それが理由だと個人的に考えている。
そんな強度のある新たな音楽構成が『D.LEAGUE』から生まれるかもしれない。実際に音楽の尺制限がなかったら、J-POPの構成を約分したような「ウラオモテ」は存在しなかっただろう。2分15秒にどう音を刻むか、その動向は今後も注目していきたい。
またavexはCHAMPIONSHIPのトライアルマッチでマイケル・ジャクソン(MJ)をリスペクトしたショウケースを披露しているが、それに当てられた音楽「Tailored」がMJリスペクトな音楽でないことも新鮮だった。同じくMJスタイルのダンスを得意とし、音楽もMJタイプのビートを選択するSEGA SAMMY LUXとの違いはここにある。
リファレンスとなるパフォーマンスや音楽を読み替えていくか否か、そんな各チームの決断を考えるのも一興だろう。
USEN-NEXT I'moon 〜ダンスと呼応する「新しい言葉」〜
インスパイアか盗作か、というありふれた議論をここで持ち込むことは避けたい。およそ2週ごとに行われるリーグ12戦すべての楽曲を参考音源なしで作れという方が困難だし、巷にあふれているヒット曲でさえ下敷きとしている曲が存在する。それよりも大事なのは曲をどうしたら参照元より高次元に持っていけるかだ。
そして歌やメロディとそれに伴う日本語詞でインスパイア元を鮮やかに上書きしていったのは、シーズン最下位の苦渋をなめたUSEN-NEXT I'moonではなかったか。このチームの楽曲はK-POPを連想させるものが多い。例えばプレイリストにもあるROUND.2「Take This Love」。プロデューサーは本チームの楽曲の多くを手掛けるLASTorderだ。タイトルやリズム設定(8分の6拍子)からして、主に参照したのはBLACKPINK「Kill This Love」と思われる。
この曲は恋愛に傷ついた主人公が「この恋にとどめを刺そう」とラップするEDMスタイルを採用している。対して「Take This Love」は抽象的な内容ではあるが、最終的に愛を握っているという内容をゆったりとしたメロディで紡いでいく。そしてエフェクトで歪みつつ空間的でもあるボーカルの存在感で、結果的にリファレンスと全く異なるところに着地しているのが興味深い。
I'moonの楽曲で日本語詞とメロディのパワーが極まったのは、同じくLASTorderプロデュースのROUND.4「arise」。リファレンスは定かではないが、サビの〈Feel Fine 体中が声をあげて/Fly 点滅して燃えていくの/Free Fall 光と陰の狭間で/Arise 叫び出しているの今〉という表現は既存の日本語ポップスでも聴いたことがない。
“体中が声を上げ、点滅して燃える”とは切実な叫びを感じさせつつ、同時にロックマンをも思わせる不思議なリリックである。それが3綴りのリズムによって流れるメロディを伴い、トップライン(歌詞+メロディ)を形成するとより力強い響きを持つ。さらにそれがメンバーの心中を表しているかのようでパフォーマンスにエモーションが増した。
これは日本語詞だからこその効果でもある。しかし言葉と歌がダンスを後押しする効果を持つのは確実で、どんなリリックを組み込むかもショウケースのクオリティや採点に影響する。ここをどう考えるかもシーズンを戦う上で大事だろう。各チームが秘める新しい言葉で観客を突き刺してほしい。