Sir Vanity 桑原聖、インディーズで活動する哲学を語る 1stアルバム完成でより明確になったバンドのスタンス

ライブは「やりたいかやりたくないかではなく、やらないといけない気がする」

ーーそのほか、アルバム制作秘話があれば教えてください。

桑原:「マイペース・メイカー」は、1曲まるごとお風呂場で作りました。よくシャワーを浴びたり、湯船に浸かったりしながら鼻歌を歌うのですが、大体はお風呂から上がると覚えていなくて。だからこそ、ドライヤーを終えた段階でもまだ覚えているメロディがあれば、きっとそれはすごくいい曲なんです。「マイペース・メイカー」もそんな感じで、イントロのギターリードまでお風呂場で思い浮かんだんですよね。

ーー歌詞の〈気ままな絵を描いてる〉といったフレーズには、Sir Vanityの“セルフメイド観”が表れているようです。

桑原:“このメンバーで気ままにやっていこう”という、僕らのテーマソング的な位置付けの楽曲ですね。失恋ソングやロックではない、みんなでラフに聴ける、ややポップな方向性を意識していて。アルバムラストを飾る楽曲として、収録順もすんなりと決まりました。

ーーそんな初アルバム制作を終えての想いは?

桑原:これで終わりではないです。やりきった感覚はありつつ、持てるすべてを出し尽くしたわけではないぞと。それにバンド以外の音楽にも手を出す未来もあるかもしれませんし、その時々で自分たちが旬だと思える音楽を好きなように楽しみたい。メンバーとよく話すことですが、いい意味でミーハーでいようと思います。

ーーそれでは今後、挑戦してみたいジャンルは?

桑原:「Suchmosさんみたいなオシャレな楽曲を弾きたい」なんて、メンバーからは話が挙がっていましたね。僕自身は「グルーヴィな曲とか作ったことねぇな~」と頭をかいていましたが(笑)。「悠」以外の楽曲では生ピアノを使用しているので、個人的にはオルガンやハモンドオルガン、ローズ・スーツケース・ピアノなどエレクトロピアノが鳴るような夜っぽいオシャレな楽曲にチャレンジしてみたいです。

ーー先ほど話題に挙がった、使用楽器の制約を広げて。

桑原:もっと自由にやってみたいなと。ただ、僕らって本当に贅沢なんですよね。音楽作家の仕事をしていてよく感じるのですが、プロのミュージシャンはレコーディングのスピードも早いんです。やはり皆さん百戦錬磨なので、大体2時間くらいで録り終えてしまう。対するSir Vanityは、レコーディングに途方もなく時間が掛かるし、費用対効果が最悪なんですよ(笑)。

ーー“DIY”と表現すべきでしょうか。

桑原:その通りです。ああでもない、こうでもないと相談して、ギター1曲分を録るのに6時間や8時間も費やしてしまう。でも、その時間がものすごく愛おしい。僕たちにも締め切りはありますが、それまでの時間をフルに使って、効率悪く試行錯誤を重ねる。バンド活動って、本来的にはそういうものだと思うんです。そんなことをさせてもらえるのも、今でこそ売れっ子の大物バンドだけですよ。Sir Vanityは、スタジオも機材もある人間たちが集まって、同じやり方を小規模で行なっているわけで……。

ーー皆さんにないのは時間、ですかね。

桑原:深夜に集まって夜な夜な練習しています(笑)。あと、僕らが“赤字バンド”を公言していることに、ファンの方から「本当にそれでいいの?」と質問されることもあって。でも僕らはそれでいいんです。

ーーそれはなぜ?

桑原:もちろん赤字が褒められたわけではないですが、メンバーがビジネスではなく、趣味の一環として好きなように音楽を楽しむ。Sir Vanityは、それだけのバンドなので。それに、活動に伴う結果があれば素敵ですが、きっとみんなギターやアンプなどの機材に投資しちゃうと思うんですよ(笑)。

ーーあくまで“成功”ではなく“自惚れ”を求めるバンドですからね。ところで、1stアルバムは“名刺代わりの1枚”と言い換えられることも多いですが、Sir Vanityは今作を通して何を伝えようとしたのでしょう?

桑原:まずは、この4人で今できることを最大限に詰め込んだので、その熱量をリスナーの方々には目一杯に体感してほしいですね。今作が生まれた経緯も、「バンドを始めます」と宣言したにも関わらず、「2年間もライブをしないのはどうなの?」という話が発端なんです(笑)。それで、ライブを開催するには相応の楽曲数が必要だと。

ーー自明ですね。

桑原:何より、僕らとしては皆さんの前に立ってみたいし、ちゃんと楽器が弾けるのかも見届けてもらいたい。メンバー全員の総意として「やりたいかやりたくないかではなく、やらないといけない気がする」という想いがあってのことですね。

ーーそんなデビューから2年越しのライブ『Sir Vanity 1st Live“Vain Fish”』が、7月31日に東京・harevutaiにて開催されます。実はこの会場名も、前回の取材で内密に教えていただいていたもので。1年前の決意と変わらず、まさしく“あの会場”ですね。

桑原:本当にあの会場でやります! ただ、ファンの方々からは「もっと大きな会場にしてほしい」という声もいただきました。たしかに梅原くん、ヨシキくんの人気を考えれば、1000人でも2000人でも会場は埋まるかもしれません。

ーーそうですね。

桑原:ただ、考えてみてください。例えば、1stライブをZeppクラスで開催なんてしたら、他のバンドさんに顔向けできないですよ。僕たちとしてもものすごいプレッシャーだし、そもそも今回の400人規模でも十分に大きな会場です。インディーズバンドの初ライブなんて、100人規模の対バン形式が一般的なもの。そう考えると、現状でも本来ならありえないことです。だからこそ、30分枠の対バンライブなどにもどこかで出させてほしかったり……。

ーーフェス出演もファンの願いのひとつだと思いますよ。

桑原:とはいえ、まずは初ステージで僕たちがどのくらい楽器を弾けるのかを確認してもらってからですね。

ーーちなみに前回の取材で宣言していた通り、配信は……。

桑原:ないです(笑)。なぜなら絶対にネット上に残したくないから!

ーーそして、来場者にはMCで……。

桑原:SNSで「カッコよかった!」と書いてほしいと周知します。「アイツら意外と下手だった」なんて書かれたら普通に拗ねますね。ライブなんて永遠に開催できないかも。

ーー(笑)。そんなライブへの意気込みを最後にお願いします。

桑原:この間、梅原くんがリハーサル映像を観て放ったコメントが面白くて。1回目のリハーサルを終えて、みんなで「これはマズいぞ、学芸会レベルだ」と言っていたのが、2回目では「高校の学園祭レベルだ」に変わったんです。すると、梅原くんが「次は大学生のサークル活動くらいになりそう」って(笑)。

ーー学芸会と大学のサークルではえらい違いがありますからね。

桑原:そうそう(笑)。ただ、当日は少しでもカッコよく、自惚れた演奏ができるように頑張ります。それと、演出には渡辺大聖くんが控えているので、今回は一般的なバンドのライブよりは、皆さんが普段から目にしているようなコンテンツ物のライブに近い演出になっているので、そこにもぜひご注目を。会場に集まった皆さんだけが体感できるステージとして、ものすごいものをお届けしたいなと思います!

※1:https://realsound.jp/2021/08/post-831208.html
※2:オリコン週間アルバムランキング8位、オリコン週間インディーズアルバムランキング1位、Billboard ウィークリーHot Albums 7位

Sir Vanity『Ray』

■リリース情報
Sir Vanity
1stアルバム『Ray』
2022年6月17日(金)リリース
<収録曲>
1.Ray
2.悠 -album ver.-
3.Vanity -album ver.-
4.紫陽花
5.rain
6.finder
7.goldfish
8.酔狂
9.HERO
10.will
11.マイペース・メイカー

■関連リンク
Sir Vanity 公式ホームページ

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