カーリングシトーンズ、アーティストが憧れずにはいられない稀有な音楽スタイル 兵庫慎司による『Tumbling Ice』レビュー

でもなぜみんなできないのか。じゃあ、なぜカーリングシトーンズはやれているのか

 カーリングシトーンズの最初のライブ(2018年9月23日、Zepp Tokyo)にゲスト出演した世良公則に、その打ち上げの席で「僕らの世代でもこれをやりたかった、でも時代的になかなかできなかった。だからきみたちは絶対続けなきゃダメだ」と言われた(※1)ーーと、寺岡シトーンこと寺岡呼人が、インタビューで語っていたが、まずその「時代的にできなかった」部分について。

 2000年代になるくらいまでの日本の音楽業界は、レコード会社の契約が今よりもシビアで、「うちと契約しているのによその会社の音源に参加するなんてNG」という状況だった。A社と契約しているアーティストが、B社のアーティストとバンドを組んで、C社からリリースする、なんてこと、到底許されなかった。

 でも、今はそのあたりの融通がだいぶ利くようになっている。じゃあ他のミュージシャンたちも、できるじゃん。と言いたくなるところだが、そこでもうひとつネックになるのが、「あのポジションを得なければできない」というところだ。

 もっと若い世代のバンドのボーカリストたちが組んで、一回ライブをやる、くらいはできるかもしれないが、定期的にアルバムを作って活動していくなんてこと、ほぼ無理だ。本業に支障をきたすし、そうなったら事務所やレコード会社、ファンもうれしくない。

 シトーンズの面々も、これが90年代だったら、こうして集うことなど、不可能だっただろう……いや、待てよ。奥田シトーンこと奥田民生はやってたな、SPARKS GO GOとのTHE BAND HAS NO NAMEとか、寺岡呼人との寺田とか。そうか、じゃあ6人中ふたりは90年代からやってたのか。でも、いずれも「本業のバンドはこの時期はオフ」という期間を使っての、限定的な活動だった。

 しかし、昔のような限定的な時期なら動けるのではなく、もっと根本的な、自身の活動全体の方針や方向やスケジュールを、自分で決定することができて、さまざまな活動を並行して行うことができる。という状態を、それぞれのメンバーが作れているから、それができる、という話だ。

 確かに、カーリングシトーンズのメンバーには、本業のバンドでしか(あるいはソロでしか)活動していない、という人はいない。浜崎シトーンこと浜崎貴司は、ソロとFLIYING KIDS。キングシトーンことYO-KINGは、ソロでのリリースは最近していないが、ライブはやっている。トータスシトーンことトータス松本は、最近ソロはやっていないが、俳優業がある。

 それから、もうひとつ言うと、リモートでミーティングやセッションをできるとか、自宅に音楽制作をできる設備を備えているメンバーが何人もいる、というのも関係あるだろうし、自分の本来のパート以外の担当楽器を触りたがるメンバーが何人もいる、というのも、大きいだろう。

 というふうに。あらゆる方向からのさまざまな条件が揃って、初めて実行できるのが、カーリングシトーンズというバンドなのだった。

 『Tumbling Ice』には、先にライブで披露し、その後コロナ禍にリモートでレコーディングした先行配信曲「オイ!」や「ドゥー・ザ・イエローモンキー」。映画『マイ・ダディ』の主題歌「それは愛なんだぜ!」。前述の、2018年9月23日Zepp Tokyoの初ライブの時点で、すでにやっていたのに、1stアルバムには入らずに今回日の目を見た「AB/CD」。などの全12曲が収録。

 「さあアルバムを作るぞ!」という気負いがない、「なんかいつの間にかアルバムにできる曲数になってた」みたいな、自由で肩の力が抜けていて、楽しさに満ちた曲が並んでいる。

 メンバーの誰が中心になって書いたのかが、クレジットを見ずとも聴けばわかる、その人特有のメロディを、他のボーカリストたちの声がなぞっていくことの新鮮さ。一行単位で、もしくは1ブロック単位で、歌う人がどんどん変わるのを、耳で追う楽しさ。サビ等で、耳慣れたそれぞれの声が、重なってハモりを聴かせてくれる喜び。

 6人が共通して好きなのはこういう音楽だから、というだけでなく、ギタリスト/ベーシストとしてはともかく、ドラマー/キーボーディストとしては技術的に難しいことはできないから、という理由もきっと大きいであろう70年までのUK/USのシンプルなロックを基本にしたーーつまり3コードのロックンロールやブルース、フォークの方向であって、プログレやハードロックの方向には決して行かない音楽性。

 それも、このバンドの大きな魅力になっている。というか、言わば、「これしかない」くらいの必然がある。シンプルでオーソドックスだから、この6人の中の誰の本業にも近寄りすぎない、という意味でも。

 あと、そのように、手法としては誰にでもできるシンプルな音楽だけに、逆にそれをやる人の力量が問われる。だからこの6人がやると極めて強力になる(=他の誰かがやるとこうはできない)、という意味でも。

カーリングシトーンズ 「ソラーレ」 MV

 特に、アルバムのパイロット曲である「ソラーレ」。コロナ禍における、カーリングシトーンズの主な活動の場になっていた、奥田民生のYouTubeチャンネル『カンタンテレタビレ』の企画で、寺岡シトーンが北海道の北見市を表敬訪問した時、2018年・2022年の冬季オリンピックの日本代表、ロコ・ソラーレの本橋麻里に、応援歌を依頼されたのがきっかけで作った楽曲だ。元ネタがなんなのか、誰の耳にもあきらかなラテンなアレンジ&曲調。リリックには、語呂や響き優先でメロディに当てはめていったと思われるのに「カーリング」「ロコ・ソラーレ」「北海道」「オリンピック」「そだねー」等の入れるべき数々のお題を折込み、かつ6人全員の歌声を絶妙にフィーチャーした「ソラーレ」は、カーリングシトーンズというバンドのポテンシャルを、もっとも端的に表している曲だ、と言っていいと思う。

 なお、作詞作曲は、この曲のMVで(たぶん音源でも)ドラムを叩いている奥田シトーン。クレジットを見ると、このアルバムで彼がひとりで書いたのはこの曲だけ、という事実には、「もう1曲ぐらい書いてもいいじゃないですか」という気がしなくもないが、でも聴くと「さすがOT」とも思う。彼のカラーが出ている、という点だけでなく、6人全員の魅力を活かす曲になっている、という意味でも。

 とにかく。やる側の幸せがそのまま聴く側の幸せになる、そんな『Tumbling Ice』を聴いていると、桑田じゃないが、こんなカーリングシトーンズをうらやましく思って、このあとに続くミュージシャンたちが出て来ても、おかしくない気がする。

 ……と、アルバムを聴き始めた時は思ったが、聴き進んでいくうちに、「いや、やっぱり、そうでもないかも」という気もしてきた。

 そういうバンドである、ということは「おっさんミュージシャンが遊んでるだけ」という状態に陥る危険性と、常に背中合わせなので。で、そうならない絶妙さが、どの曲からも聴き取れるので。

 1曲だけとか、アルバム1枚だけとかではなく、恒常的にこういうバンドを続けていく、というのは、それなりの、相当の、腹のくくり方が必要なのかもしれない、やはり。

※1 https://kaigo.homes.co.jp/tayorini/interview/yohito_teraoka/

カーリングシトーンズ『Tumbling Ice』

■リリース情報
カーリングシトーンズ
『Tumbling Ice』
2022年7月20日(水)リリース

01. デスペラーダー
02. オイ!
03. それは愛なんだぜ!
04. 反射
05. ドゥー・ザ・イエローモンキー
06. 天地無用の幸せを
07. ウッドストック
08. カリフォルニア
09. AB/CD
10. カーリングシトーンズのテーマ スベりたいな
11. ソラーレ
12. ちぃ~な

初回限定盤 / 紙ジャケット仕様 (CD+DVD)
[4,950円(税込)MUCD-8166/7]
通常盤 (CD)
3,300円(税込) MUCD-1486]

<DVD>
01. Music Video『オイ!』
02. Music Video『それは愛なんだぜ!』
03. Music Video『ソラーレ』
04. Music Video『それは愛なんだぜ!』メイキング映像
05. 『Tumbling Ice』アーティスト写真撮影メイキング映像
06. Music Video『ソラーレ』メイキング映像

■関連リンク
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