Mrs. GREEN APPLE、活動休止を経て自由になった音楽との向き合い方 フェーズ2開幕で実感しているバンドの核

大森元貴が“書かなければいけない”と感じた1曲

ーー「みんなそうだよね」というニュアンスは伝わってきましたし、「ニュー・マイ・ノーマル」や「ダンスホール」は日常に近いところで鳴っている曲だと感じました。活動休止以前は自分自身の日常を見つめ直す機会はありませんでしたか?

藤澤:思い出せないですね。ステージに立っていた時のことやレコーディング中のことは鮮明に覚えているけど、バンド以外のことは……。

若井:全然覚えてないよね。それくらいずっと走り続けていたということだと思います。

大森:僕ら(大森、若井)は16歳でミセスを組んで、18歳でメジャーデビューしたんですけど、そこから時間止まってたもんね。22、23歳になっても16歳のような気持ちでバンドをやっていたし。

若井:そうだね。

大森:休止を経た今、ちょっと時間が進んだように感じているということは、これまではずっと“精神と時の部屋”にいたということでしょうね。あのスピードで活動していなければ2020年の段階でアリーナツアーをできていなかったと思うし、必要な焦燥だったけど、難儀になりすぎていたと今になって思います。

Mrs. GREEN APPLE「ニュー・マイ・ノーマル」Official Music Video

ーー「ニュー・マイ・ノーマル」を大森さんから受け取った時、若井さんと藤澤さんはどのように感じましたか?

若井:何よりも「自分たちの曲だな」と感じました。歌詞も全部自分にあてはまるし、この曲でデビューできるなんて……あ、デビューじゃなかった(笑)。

藤澤:でも今の言い間違いはめっちゃ分かる(笑)。

若井:ね。本当にそういう気持ちなんですよ。この曲で再出発できるなんて嬉しいなと思いました。

藤澤:僕も聴いた時に「あ、同じ気持ち!」と思いました。フェーズ1の時って元貴から送られてくる楽曲一つひとつが僕にとっては戒めだったんですよ。

ーーそもそもミセスは友達同士で結成されたバンドではなく、音楽で生きていこうという明確な目的やビジョンの下に結成されたバンドだから、全体の舵を取る大森さんの作る曲がハードルのように感じられたという感覚は理解できます。

藤澤:極端に言うと、曲に怒られているように感じることもあったしーー。

大森:え、今回はない?(笑)

藤澤:もちろん歌詞から学ぶことはいっぱいあるよ?(笑)。でも、「そうだよね」とまず共感できたのが嬉しかったし、それをどう表現したいかと素直に考えられるようになったのは昔とは違うポイントです。

ーーおそらく大森さんは、メンバーと同じ感覚を共有していたいという気持ちが強い人だし、そういう関係性を求めてバンドをやっているのではないかと思いますが。

大森:その通りです。

ーー若井さんと藤澤さんが「自分の曲だ」と感じている現状は嬉しいものですか?

大森:フェーズ1の終盤はどこか孤独だったので、活動休止した意味があるなと思います。僕らは元々「スタジオに入るの楽しいね~」という感じで始まったバンドではないから、独特な関係値があるんですけど、そこに対するジレンマからは解放された気がしますね。

ーーそんな曲を収録したアルバムのタイトルが『Unity』というのも美しいです。

大森:『Attitude』然り『ENSEMBLE』然り、今までは“この言葉に見合うような演奏をするんだ”という戒めとしてタイトルを掲げていたし、それは僕からメンバーへの愛情でもあったんですよ。だけどさっきも話したように、この2年間でもう一度ミセスを見つめ直さなきゃいけないと思わせられる出来事が起きて、挫折を味わったあと、“どういう曲を書いていったらいいんだろう”と考えながら作ったのが今回のアルバムで。今の自分たちからしか出てこないものをナチュラルに出しきったあと……つまり曲が出揃ったタイミングでタイトルをつけたんですよね。だから今までとニュアンスが違います。

ーーアルバムを締めくくる「Part of me」は“なぜミセスは音楽を鳴らすのか”という根源を歌った曲ですが、“今こういう曲を書かなければならない”という想いがあったのでしょうか?

大森:タイアップ曲が3曲あるし、一聴すると華やかに聴こえる曲が多いアルバムだからこそ、こういう曲を書かなきゃいけないなと思いました。僕、この曲で初めてレコーディングスケジュールを飛ばしたんですよ。純度を大事にするべき曲だと思ったので、歌詞もフレーズもメロディも構成もベストを尽くそうと思ったものの、作り始めのタイミングからそういう想いを掲げることってあんまりなかったから、書けなくて……いや、書けないっていうのは違うか。書けるけど、僕を削って曲にしていく作業でしかないから、僕がやられるのが先か、曲ができるのが先かというバトルが始まった。「まずい。一人で書くとおかしくなる」と思ったから、レコード会社に行って、人についてもらいながら曲を書くということを初めてしました。

藤澤:デモを作る段階からこんなに時間をかけていたのは初めてだよね。元貴がそれだけ大切に歌詞と音を並べているのであれば、当然僕らも半端な気持ちでは演奏してはいけないなと思いました。

若井:この曲は演奏していてもまた別の気持ちになるし、今までとは違う難しさがあるよね。

藤澤:うん。フレーズがどうこうではなく、“言葉に寄り添う弾き方ができているだろうか”という部分がすごく難しい。

大森:さっき純度を大事にしたと言いましたけど、バンドって不純物だからこそ美しかったりするじゃないですか。たぶん2人には“邪魔しないように”という気持ちがあるだろうけど、そう思いながら挑むことがバンドにとって美しいかというとそうではない。その塩梅が難しいんだと思います。

ーーなるほど。例えば『Attitude』の「クダリ」など、自分の内面を深堀りしていった結果、自己犠牲的な歌詞に辿り着くケースはこれまでにもありましたが、「Part of me」の歌詞には、誰かとの繋がりや愛情を確かに感じられている様子も描かれていて、少し希望があるように感じました。その上で人はやっぱり孤独だと歌っているので、寂しい曲であることには変わりないんですが。

大森:誰かとの繋がりは人生においてもちろん重要なものだけど、とはいえ“結局みんな孤独だな”というところに落ち着くし、それをはっきり歌っている曲ですね。結局何にも干渉できないし何からも関与されない。そう悟った時に、自分は何を信じてどういうふうに一歩踏み出していくのかということを歌っているんじゃないかと、書き終えた今思います。

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