烏屋茶房×YASUHIRO、東方Projectやボカロカルチャーが息づくJ-POPシーンの現在 「壁がどんどんなくなってきてる」
「歌詞の作り方も東方アレンジのときに学んだ」(烏屋)
ーーおふたりにとって、東方はネットや同人音楽の入口であったと同時に、音楽制作の土台としても大きかったんですね。
烏屋:それこそ歌詞の作り方とかも東方アレンジのときに学んだかなと思いますね。
YASUHIRO:僕は東方アレンジはインストだったので、東方の段階ではまだ歌詞を書くっていうことをしてこなくて。ボカロで初めて歌詞を書くっていう壁にぶちあたりましたね。
烏屋:でもそのインスト曲を作ってたっていうのが今YASUHIROさんが楽器の使い方がうまかったりとかっていうのに影響しているのかなっていう気がしますね。
ーーYASUHIROさんはボカロで初めて歌詞の壁にということですけど、それはどうやって乗り越えていったんですか?
YASUHIRO:今でも変わらないですけど、好きなアーティストさんとかボカロPさんの歌詞を参考にして、どういう書き方するんだろうなってやってましたね。だから最初は書くスピードもめちゃくちゃ遅かったし。今でも得意分野ではないんですよ。
烏屋:でもタイトルのつけ方にすごく特徴があって格好いいなって思っていました。タイトルとか歌詞を書くのが得意なのかなと思っていたんですけど。
YASUHIRO:実はそうではなく、必死に培ったスキルですかね。烏屋さんはキャラソンも書けますし、場に応じていろんな書き方ができるなと思ってすごく参考にさせてもらってますけど、歌詞で意識されていることとかあるんですか?
烏屋:それこそ、東方アレンジでキャラソンの書き方とか、まずキャラクターのことをよく調べて、どういう世界があるっていうのを広げていって歌詞に落とし込むみたいなのは、東方アレンジから勉強したことかなっていうような気はしていますね。今書いている歌詞の全ての源流は東方アレンジにあるかもしれないです。
ーー歌詞以外では、曲を作るときに意識していることはありますか?
烏屋:自分の場合は、なにかテーマを決めて曲を作ることが多いですかね。東方のときにどうして曲が作りやすかったかっていうと、みんなが知っている物語があって、みんなが知ってるテーマがあって、キャラクターがいて、共通の文脈がある中でものを作っていくっていうことができたから。それが何を書けばいいかの指針になると思っていまして。オリジナルで曲を作る場合、それがまったくない状態だったりとか、文脈を今から作っていくっていう段階のコンテンツの曲を作ることも多いので、そういうときは何かしらひとつ強いテーマを決めて、そこに向けてすべてが繋がるようにイメージを中心においてみたいな感じで制作をすることが多いですね。
YASUHIRO:僕は言葉よりも絵が浮かぶみたいなことが多いですね。どこかに出かけたときの景色だったりとか、ゲームのひと場面とかの景色から作ることとかもありますし。あとは僕の好きなボカロPさんを真似て作るみたいなのもあったりするんですけど。あと自分の一番のこだわりで言うと、めちゃくちゃリズムを意識していて。それで言うと本当に烏屋さんってリズムのつけ方が本当に天才的だと思うんですよね。
烏屋:その流れで自分がでてくるとは思わなかった。
YASUHIRO:今日絶対言ってやろうと思ったんですけど(笑)。なんだろう、歌詞が上手っていうのもあるんですけど、リズムがすごく気持ちいいんですよね。メロのつけ方だったり、後ろで弾いているフレーズやシンコペーションも含めて、本当にノれるというか。なので、自分の曲を作るときも、メロのノートをひとつひとつの長さを調節して、どこまでいいものにできるかなみたいなことはどの曲でも意識してますね。
烏屋:YASUHIROさんは曲の中で大胆にリズムの展開を作るみたいなイメージがありますね。単純に半分になるとかじゃなくて、景色を1度リセットして、最後に元のリズムに戻ってくるみたいな展開の作り方がうまいなって思っていたので、リズムに関するこだわりがあるっていうのはすごく納得できますね。
YASUHIROさんの曲って、ギター以外にもピアノとかストリングス、ホーンが特徴的かなって思うんですけど、そういう編曲をやろうっていうきっかけみたいなのってあったりするんですか?
YASUHIRO:徐々にやり始めた感じです。じんさんの「オツキミリサイタル」という曲があるんですけど、それがじんさんの楽曲ではじめてブラスが入った楽曲なんですよ。それを聴いたとき、すごく衝撃的で。ブラスアンサンブルが入るだけでこんなに華やかになるんだっていう。そこから結構ブラスを入れたりとかストリングスを混ぜていったりしたかなと思います。
烏屋:なるほど。じんさんがきっかけだったっていうことなんですね。じんさんが使ってた8bitっぽいシンセも、YASUHIROさん初期から使ってましたよね。
YASUHIRO:そうですね。ロックオルガン的なものとか。じんさんだったりささくれPさんの影響はかなりある気がしますね。
烏屋:なるほど。じゃあ聴いてた曲にダイレクトに影響を受けて。
YASUHIRO:そうですね。本当に好きなものを吸収して自分のものにしたっていう感じです。
烏屋:そう考えると、東方のメロディを真似するだったり、音の作り方を真似して咀嚼して個性にするっていうのも含めて、東方アレンジのスピリッツみたいなのが息づいているのかもしれないですね。
「僕らより年下のボカロPさんとか、めちゃくちゃ調声が上手」(YASUHIRO)
YASUHIRO:そうですね。烏屋さんはそういうご自分の個性みたいなのって意識されていますか?
烏屋:そうですね。自分はできることがめちゃくちゃ少ないというか、ワンパターンになりやすいので、それを回避しようとしても結局自分にしかならないなとは思います。
YASUHIRO:でも羨ましいかもしれないですね。僕は良くも悪くも器用貧乏なところがあって、統一感ないなっていうのは感じてるんですけど。烏屋さんには烏屋節っぽいのがあるんですよね。
烏屋:でもよく聴くとコード進行全部一緒じゃないかみたいな、色々ボロがでてくる話ではあります(笑)。ただ自分がYASUHIROさんの曲に華やかさとか、明るい曲でもどこか憂いを感じるようなメロディとかコードワークとかの個性を感じるので、個性は十分編曲とかの面ではでてるんじゃないかなっていう感じがします。
YASUHIRO:ありがとうございます。あとメロディのつけ方ってどうされていらっしゃるのかなと思って。僕の場合は鍵盤で打ち込んでいるんですけど、人によっては鼻歌で仮歌を録るっていうやり方もあるじゃないですか。
烏屋:そうですね。自分は鼻歌でなんとなく歌ったやつを一旦打ち込んで、それをいじくって整えるみたいな感じですね。意識していることとしては、同じ音を繋げたりするとキャッチーになるよ! みたいな(笑)。でも同じ音ばっかりだとのっぺりになるから、リズムで遊ぼうね! みたいな、もう教科書に書いてあるようなことしかやってないんですけど(笑)。だから普通のことをしてますとしか言えないんですよ。
YASUHIRO:烏屋さんは人が歌えるメロを書くじゃないですか。僕はそれが苦手なんですけど。
烏屋:自分も昔は人が歌えるメロ、書けなかったんですよ。でも、1オクターブと1、2音くらいでおさめるように頑張ろうって修行した時期がありまして。それがあったから、今は人が歌えるかもしれないです。だからそれをボカロで出すと、「なんかつまらないメロディになったね」って言われたりとかするんですけど(笑)。
YASUHIRO:縛りを作ればいいんですね。僕も修行してみようと思います。ボカロで言うと、やっぱりメインのミクちゃんしかりリンちゃんをどれだけ刻みよく歌わせられるかみたいなものとか調声とかもあったりしますけど、烏屋さんは調声はどうですか? 烏屋さんっぽい、烏屋リンちゃんみたいなのを感じるんですけど。
烏屋:実はそこまでこだわってることはなくて。みんなやってるようなことしかやってないんですけど、子音と母音を分けて発音をはっきりさせて、そのあとにオクターブ重ねて、みたいな。
YASUHIRO:オクターブを重ねてるんですね。だからサビとかでどーんと存在感が出たり。
烏屋:そうですね。そういうことはやってるかなくらいで、あんまり凝ったことはやってないです。
YASUHIRO:僕らより年下のボカロPさんとか、めちゃくちゃ調声が上手ですよね。
烏屋:すごいですよね。
YASUHIRO:本当に人みたいな声。技術の進歩もあるんでしょうけど、僕ら以上に凝ってるのかなって思います。
烏屋:ちゃんと1日かけて調声したんだろうなっていう感じがしますね。