記憶に刻まれた曲が代弁する若者たちの心情 『あなたに聴かせたい歌があるんだ』に響くメロディ
けれども、彼/彼女たちがふとした瞬間に思わず口ずさむそのメロディは、彼/彼女たちそれぞれの「今」の情況や心情を、ありありと代弁するように響いてくるのだった。「夢」と「現実」の狭間でたちずさむ、彼/彼女たちの静かな「孤独」や「焦燥」、そして誰にも理解されない「疎外感」を、やさしく包み込むように響く「エイリアンズ」のメロディ。
思うに、「好き」に明確な「理由」があることなんて、実はほとんどないのかもしれない。あったとしても、それは本当に「真実」を言い当てているのだろうか。むしろ、その「理由」を明確に言葉では説明できないからこそ、何度も何度も繰り返し耳を傾けてしまう。挙句の果てには、無意識のうちに口ずさんでしまったり。とりわけ、音楽の場合は、そういうことが多いような気がする。けれども、その言葉にはできない「思い」を、どうにかして大切な「誰か」に理解してもらいとき、僕たち/私たちは多分、こう言うのだろう。「とにかく聴いてみてよ」――あるいはもっと厳かに、「あなたに聴かせたい歌があるんだ」と。
本作の最終回、どうやら特に仲が良かったわけでもない、どこまでもバラバラの同級生たち5人は、ある出来事をきっかけに、再び一堂に会することになる。そして「奇跡」という名の「偶然」が訪れる。彼女の「祈り」が伝わったのか。あるいは、その「呪い」が解けたのか。そこで何が起こったかは、是非本編で確認してもらいところだけれど、そんなクライマックスが訪れたあと、ある登場人物が空を見つめながらひとり口ずさむ、〈そうさ僕らはエイリアンズ/街灯に沿って歩けば/ごらん新世界のようさ〉というフレーズ。それは、「希望」と言うには微かではあるけれど、心持ち顔を上げて次の一歩を踏み出す程度には、確かな「爽快感」を湛えているのだった。そして、遥か空に旅客機(ボーイング)の機影。それは、いわゆるハッピーエンドではないのかもしれない。というか、その瞬間がたとえハッピーだったとしてもバッドだったとしても、それでも続いてゆくのが、僕たち/私たちの日々ではないのか。
映画化もされた小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』で、思いのほか幅広い層の支持を得た燃え殻(そもそも、そのペンネーム自体、「エイリアンズ」の作詞作曲者であり、本作の第7話にカメオ出演も果たしている堀込泰行のソロ曲のタイトルだ)らしい、生き惑う若者たちの「生」を、あくまでも人肌の熱量で、そっと肯定するような青春群像劇だ。
■配信情報
Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』
Huluにて全話独占配信中
主演:成田凌、伊藤沙莉、藤原季節、上杉柊平、前田敦子、田中麗奈
原作:燃え殻
原作協力:萩原健太郎
脚本:藤本匡太、燃え殻、萩原健太郎
監督:萩原健太郎
テーマ曲:キリンジ「エイリアンズ」(WARNER MUSIC JAPAN)
音楽:白戸秀明
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
製作著作:HJホールディングス
(c)HJホールディングス
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/anatanikikasetai/
公式Twitter:@aku_Hulu