ライブでの声出しに対する意識に変化も コロナ禍以降、セットリストや楽曲に与えた影響

 5月14、15日に日産スタジアムで行われた乃木坂46の『10th YEAR BIRTHDAY LIVE』。デビューからの10年を総括する充実の内容に、会場は大盛り上がりとなった。

 一方そこで様々な意見が聞かれたのが、ライブ中の声出しについてだ。ここ最近はフルキャパシティで行われる公演が増え、ライブ市場にも活気が戻りつつあるが、未だ声出しの全面解禁には至っていない。今回のライブでも歌唱やコールなどは予め禁止となったものの、「思わず出てしまう一時的な歓声等」については必ずしも禁止事項には当たらないという方針が発表されていた。これは政府によるイベントガイドラインを踏まえたもので、そこでは大声について「通常よりも大きな声量で、反復・継続的に声を発すること」と定義している(※1)。

 特に今回は卒業した人気メンバーがサプライズで登場したこともあり、多くの歓声があがること自体はある程度想定されていたのだろう。今回のライブは複数のプラットフォームで生配信されたため、現地で参加していないファンからもリアルタイムで様々な意見が挙がっていた。

 確かに声出しといっても、思わず出てしまうものと意図的なものがある。前者は主に感情表現だろう。笑う、驚く、喜ぶなどの場面で声が漏れ出るのは人間として自然なことであり、声出し禁止によってこれが封じられるのは辛い。一方、後者としては会場全体での合唱やアイドルソングにおけるコールなどが挙げられる。ここでのメリットは「一体感」だろう。コロナ禍で広まった配信ライブでも、これを得るのはなかなか難しかった。ライブ会場で観客同士同じ振りや掛け声を上げて、一体感を得るのが好きな人も多い。揃いの振り付けだけでなく、サビで腕を高く挙げる、左右に揺らすなど、定番とも言えるアクションが多数存在する。こうした習性は大人数で同じように踊って盛り上がる盆踊りにルーツがあるとも言われており、一種の国民性でもあるのだろう。声出しに関しても、サビの部分を合唱する、特定のタイミングでコールを入れるといった「みんなで合わせること」に自然と重きが置かれている。

 声出しの是非は人によって大きく分かれるのが現状だ。それはコロナ感染に対する警戒感の温度差だけではない。各アーティストのライブの雰囲気や、そのファンがどう盛り上がりたいかによって大きく異なるのではないか。声を出して盛り上がりたい人もいれば、じっくり堪能したい人もいるだろう。特に後者にとっては、今後声出しが解禁されることを必ずしも望まないようにも思える。実際に、声を出せなくなったコロナ禍以降のライブにおいて、楽曲やパフォーマンスに集中できてよかったというポジティブな意見もしばしば目にする。他にも、静かにライブを楽しむ空気感から、演奏中の客席での会話といった迷惑行為が減少する可能性も考えられるだろう。またコールなどもなくなるため、ライブのノリが分からない初見の人でも周りを気にせず楽しめるようになるケースもあるかもしれない。

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