「蜘蛛の糸」「吾輩は猫である」……文学の名作を言葉・メロディ・映像で描く 音楽ユニット Lazuli Codeが創造するもの

 全作詞・作曲・編曲を手がけるのは、謎の人物“Creekfield Trunkman”。楽曲に合わせて曲調やジャンルを変化させながら、その根底にはスタイリッシュなものを感じさせる。しかし決してマニアックには陥らず、あくまでもJ-POPとして誰もが楽しめるものになっているのがポイント。物語を現代に例えた比喩のセンス絶妙で、「吾輩は猫である」は、朝起きたら猫になっていたというあたりが、カフカの『変身』も想像させ、もしかすると別の文学が随所に隠されているのではないかと、思わず何度も歌詞を読み返してしまう。

 ボーカリストが、楽曲によって変わるのも同ユニットの魅力。「蜘蛛の糸」の“みへる”は、淡々としたクールさがありながら、どこか幼さも感じさせる歌声は、薄氷のような透明感と儚さを感じさせる。「吾輩は猫である」の“しゅな”は、甘さを携えた可愛らしさのある歌声で、地声と裏声の移り変わりのニュアンスが印象的。「クローディアの秘密」の“湊己”は、実に軽やかで明るさと元気さが魅力。3人ともみずみずしさに溢れていて、青春を題材にした純文学という楽曲の題材にもマッチしている。誰々の声で次はこんな曲を聴いてみたい、次はどういう文学でどういうボーカルなのかなど、次への想像と期待が広がる仕掛けだ。

 MVがすべて絵師、動画師による作品というのは、今の音楽シーンのトレンド。「蜘蛛の糸」はイラストレーターゆのが手がけ、手書きの線と絵の具が滲んだようなタッチは、シンプルだがインパクトが強い。赤く垂れた1本の線は蜘蛛の糸を表しているようでもあり、血が流れているようにも見えてドキッとさせる。

 「吾輩は猫である」と「クローディアの秘密」は、MVをOTOIROが手がけた。「吾輩は猫である」は、実に細かな描写で、まるで映画のようなクオリティ。ひとつの建物を上から下へと映したものを繰り返しただけなのだが、少しずつ変わっていて思わず何度も見直してしまう。一階のパン屋が“LAZULI BAKERY”とユニット名にちなんでいたり、そのパン屋の前で主人公らしき猫が出てきて、最後は女の子が出てくるなど、実に考察しがいのある内容。また「クローディアの秘密」は、星座表を地図に見立てて、少年少女がその中を駆け回る。2人が見つめ合うような表情が実にかわいらしく、恋も冒険なんだと感じさせる。最後には、このお話が実は……と明かされ、そのオチも実に微笑ましい。

 J-POPは時として、非常に優れた文学として機能してきた。古くははっぴいえんどや松任谷由実、そしてDREAMS COME TRUEや桑田佳祐、Mr.Childrenなど。近年であればRADWIMPS、クリープハイプ、米津玄師、YOASOBI。小説よりも文字数が少ないことで、行間によって想像力をかき立てられ、メロディやオケがそのシーンをよりドラマチックに輝かせる。言うなれば、一緒に歌える文学がJ-POPなのだ。

 Lazuli Codeの面白い点は、純文学を現代に置き換えて新たな物語を創造しているところにある。誰もが馴染みのあるものばかりで、より楽曲の物語へと入り込みやすくしている。また、今っぽさを感じさせるキャッチーな音楽、みずみずしく新鮮なボーカルなどで楽曲に興味を持ち、そこから元ネタとなった文学を読んでみようというリスナーもいるだろう。音楽から小説へ、スマホから紙へ。今までありそうでなかった、新たな流れを生む音楽カルチャーの起爆剤となり得る存在だ。

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