TAKU INOUE×DECO*27、VTuberシーンの音楽はどう発展する? 星街すいせい&Mori Calliopeとの制作で実感したポテンシャル
「(星街すいせいは)自分の好みのタイプの歌詞を書く方」(TAKU INOUE)
ーー「CapSule」では星街さんもラップをやっていて、すごく格好良くて新鮮でしたね。
DECO*27:それも新たな一面というか、リスナーにとって新鮮に映る要素を入れたいなと思ったんです。それでカリオペさんとの掛け合いでラップをやってもらいました。
ーーレコーディング現場では本人たちに「こう歌ってください」とボーカルディレクションをすることは少ないんですか?
DECO*27:僕の場合は、こう歌って欲しいというイメージがあるので、ディレクションはさせてもらっています。例えば「CapSule」の時は、早口の英語ラップのところは、ちゃんと言えていたのかどうなのかが僕には分からないので、ニュアンス的な部分で「ここはちょっとオトしてみましょう」とか、そういう感じです。星街さんは、「じゃあちょっとチェックを兼ねて試しに歌ってみましょうか」という感じで歌った一発目で、もう完璧に仕上がっていました。
TAKU INOUE:説得力がありますよね。「これだな!」って思わせる感じがあるから、僕もディレクションはすごく少ないです。「うまっ!」しか言ってないもん(笑)。
DECO*27:そうなりますよね。
TAKU INOUE:ここは伸ばすのを少し短くしましょうかとか、それくらいです。カリオペさんとも、「3時12分」と同じアルバムで「Yona Yona Journey」という曲を作ったんですけど、ちょうどコロナ全盛期というのもあったのでレコーディングもリモートだったから、歌ったものを送ってもらうという感じだったんです。彼女にしてもやっぱり音楽的な勘がすごくある方だなと思いました。実際に上がってきた歌も、「ここはこうしたい」と思っていたものの通りになっていたから、それも実質的にディレクションは全くしていないに等しいです。
DECO*27:お二方とも、音楽に対する理解力が高いし、それを自分がどうしたら上手く表現できるかも分かっている。ちなみに「CapSule」の2サビ終わりのドロップで、セリフっぽいのが入るんですけど、星街さんの分はレコーディング当日に考えたんです。カリオペさんのパートは自分で考えてくれたものがあったから、それに合わせてその場で書いて星街さんに渡したんですけど一発OKでした。「こういう譜割りで」と簡単に説明しただけで、「はい。分かりましたー」と言って初見のフレーズを一発OKですから。
ーーそういうポテンシャルの高さは、星街さんとカリオペさんが特別なんでしょうか。それともVTuberで歌っている方は、全般的に高いんでしょうか?
DECO*27:他にも上手い方はたくさんいるので、全般的に高いと言えるんじゃないでしょうか。それに思うのは、自身で配信をやられているVTuberの方は、総じてマイクの使い方と声の使い方が上手い。どうやったら自分の声がより良く聴こえるかとか、上手く見せられるかとか、操ってると言うとあれですけど。
TAKU INOUE:うん。分かる。僕もそういう印象はあります。
ーー先ほどTAKUさんが、星街さんは自分の声の魅力を理解しているとおっしゃっていて、それも含めて自己プロデュースがしっかりできていると。
TAKU INOUE:そこがVTuberの強いところですよね。歌に限らず配信の内容も考えているし、どういうことを歌いたいか考えて、発注するのも本人が率先してやっていることが多い。自己プロデュース力という面では、普通のアーティストに比べると結構強いところなんじゃないかと思います。
ーーカリオペさんは自身でトラックも作るので、クリエイターという面もすごくありますよね。
DECO*27:カリオペさんの「DEAD BEATS」なんか、めっちゃ格好いいですよ。ご自身でここまで格好いいものを作れちゃったら。
TAKU INOUE:そろそろ我々の出番がなくなりそうだなって(笑)。
ーー星街さんも、ご自身で歌詞を書かれますよね。
TAKU INOUE:歌詞も自分の好みのタイプの歌詞を書く方なので、今星街さんとやっているMidnight Grand Orchestraでも歌詞をお願いしています。面白いところで韻を踏んだり、意識的にやってくるので、すごくセンスがあるなって。実際に本が好きでたくさん読んでると言ってました。「Stellar Stellar」に〈あえかな〉というフレーズが出てくるんですけど、あれはなかなか出てこないです。
DECO*27:形容詞の引き出しがすごいですよね。そういう引っかかるワードって、気になっちゃうから。
「ファン向けのコンテンツだけでは収まらないようにしたい」(DECO*27)
ーーVTuberに向けて楽曲を作るという部分で、何か意識するところはありますか? 例えばVTuberは容姿のデザインも要素として大きいので、視覚的なインスパイアもあるんじゃないかと思いますが。
TAKU INOUE:視覚的なものは、無意識ですけど入ってきちゃっていますよね。自分は見た目を思い浮かべながら作るので、おのずとそうなります。
DECO*27:僕が気を遣うようにしているのは、あまりキャラクターソングっぽくなりすぎないようにということです。普通に音楽として、初めて聴く人が「好きだな」って思ってもらえるバランスで作るようにしています。語弊があるかもしれないけど、書いた曲がファン向けのコンテンツだけでは収まらないようにしたいと思っていて。例えば僕の曲を好きな人が聴いて、「めっちゃいい」となってその人の他の曲も聴きたくなって、さらに配信にも興味が沸いて。“沼”への動線の入り口として、「見た目が可愛いから」とか「話が面白いから」とかとは別軸で、「歌がいいから」というきっかけで入ってもらえるように、曲を書く時はいろんな人が入ってこられるように考えています。
TAKU INOUE:あまり内輪向けっぽいネタばかり入れてしまうと、閉じちゃいますから。
DECO*27:せっかく素晴らしい人たちがたくさんいるので、自分きっかけで観たり聴いたりしてくれる人がどんどん増えたらいいなと思っています。
ーーそのバランスの取り方って、すごく難しいですよね。その場合、ファンの楽曲に対する意見やコメントも気にしますか?
DECO*27:「Q」は作ってる時点で、ぐらさんの日本語がめちゃくちゃ可愛いから、それを絶対に推したいと思っていたんです。でも所属がホロライブEnglishなので英語圏のファンが多いから、「日本語が分からない」という意見も結構あって。でもそれはリアクションとしてくるだろうと想定していたことではあったんですけど、それも一定数だったので、「なるほど」という感じでした。対日本のファンということに関しては、カリオペさんを筆頭に皆さん日本語がお上手ですし、日本語も完璧に歌えちゃうので、そこは他のVTuberさんとあまり変わらないと思います。