john=TOOBOEが今、メジャーデビューを選んだ理由 「心臓」で描いたテーマ、J-POPシーンでの活動も語る

 音楽クリエイター johnのソロプロジェクトとして発足したTOOBOE。yamaを始め、様々なアーティストに楽曲を提供し、昨年12月には1stアルバム『千秋楽』をリリースするなど、すでにめざましい活躍を続けているTOOBOEが、4月20日、満を持してシングル『心臓』でメジャーデビュー。映像制作ユニット“擬態するメタ”の手がけたゾンビ映画のような表題曲のMVも話題となり、YouTubeに投稿された動画は公開後類を見ない勢いで100万回再生を突破し話題となった。大注目の「心臓」、そして、これまでとこれからのTOOBOEについて聞いた。(満島エリオ)

“怒り”という根源が薄れてきた

――「心臓」は愛を求める人が描かれていますが、どうしてこのようなテーマになったのでしょうか。

TOOBOE:この曲を作った時期が、アルバム『千秋楽』の曲を全部作り終わったタイミングで。ボカロPのjohn名義から数えると4枚目のアルバムなんですけど、『千秋楽』でやりたいことがひととおり済んだなと感じていたんです。そういう状況でメジャーシングルを出すことになった時に、曲を聴いてくれる人がいることで気持ちが蘇るというか、自分の中ではやることがなくなったと思っても、待ってくれる人のためにやらなきゃな、っていう気持ちが生まれていて、それが曲になりました。

――具体的にどう「やりきった」と感じたのですか?

TOOBOE:僕の曲の根源は基本的に怒りなんですけど、怒りの種類や出せるものが、曲を出すにつれて減ってきたんです。ありがたいことにリリースやお仕事を続けさせていただいているのですが、気づいたら怒りという根源が薄れてきたなと感じまして。

――その中で「聴いてくれる人がいる」という感覚は、TOOBOEとして活動していて感じたことですか?

TOOBOE:そうですね。ボカロPからシンガーになるケースは結構あるんですけど、リスナーの中にはボカロじゃなきゃ聴かない人もいれば、ボカロだから聴かないっていう人もいる。そういう中で、TOOBOEとして活動を始めてからもブレずにずっと聴いてくれる人がいるのはありがたかったし、そういう人がいることをこの1年でめちゃくちゃ感じました。

――「心臓」は強い愛を歌っている半面、MVでは主人公がゾンビになったり浮気されていたりと、ダークさも含んだ内容になっていますね。

TOOBOE:僕の曲にはハッピーエンドがないんです。だからと言ってバッドエンドでもなく、言いたいことを言って、なんとなく終わるような曲が好き。僕は奥田英朗さんの小説をよく読むんですが、問題が起きてもそれが解決しないまま物語が終わることが多いんです。解決しないけど、主人公は「それでいいかな」って妥協して終わる。その精神性が好きで、影響をすごく受けていると思います。

心臓 / TOOBOE

――MVは映像作品としても見ごたえがありました。

TOOBOE:もともとは自分でMVを描こうと思っていて、その時から「愛情が欲しいけどもらえない人」を軸に考えていました。それで、擬態するメタと打ち合わせした時にみんなでゾンビものにしようと、そこからストーリーを仕上げてもらいました。

――映像が基本的に主人公の一人称視点だったり、ゾンビだけどICカードを使って電車に乗ったり、コミカルな部分も見どころですね。

TOOBOE:そのあたりは擬態するメタのセンスですね。でも、ネットに上げるにはゾンビは刺激が強くなりすぎる可能性があったので、そこはなるべくポップに、ダークすぎないようにしようと話していました。

――TOOBOEさんの楽曲にはいろいろなギミックが仕込まれていることが多いですね。「心臓」では、2番とラスサビの間に三三七拍子が入っていたり。

TOOBOE:曲を作る時はあまり脳みそを使わないような、考えすぎずに感覚で作ってるんですけど、今考えると、あの三三七拍子は心臓の音を表現したかったんだろうなと思います。曲全体も、もともとはシンプルなバンドサウンドの構成にしていたんですが、聴いているうちに「あの音が欲しい、この音が欲しい」ってなって、こういうふうになりました。もともと音がいっぱいあるのが好きですし、聴いてくれる方がガチャガチャしている音がいいって言ってくださったりすると、結構音を足しちゃうんですよね。

――その辺りは、ボカロPとして活動されてきた影響もあるのかなと感じました。ボカロ曲は音数の多いものが多い傾向にありますよね。

TOOBOE:その辺は影響があると思いますね。「心臓」はメジャーシングルとしてこれから邦楽シーンに流通するという側面もありますが、ボカロ曲が好きな人も喜んでくれるような作品にしたかったので、音的にはボカロ作品に近いなって個人的には思ってます。

――カップリングの「ゆりかご」についてはいかがでしょうか。

TOOBOE:表題曲は色々準備があるので何カ月も前にできているんですけど、カップリングは納期のギリギリにぱっと浮かんだものを入れるようにしていて、表題と違って肩の力を抜いて自由にやらせてもらっています。「ゆりかご」は「心臓」とだいたい同じ時期に作ったのですが、なんていうのかな……自由になりたかったんだと思います。

――それは社会とか、今の立ち位置から?

TOOBOE:そうですね。僕は基本的に一秒でも早く仕事を辞めたいと思っているので(笑)。今って、ネット社会でのしがらみがすごく多いじゃないですか。下手な一言を言ったら大変なことになりかねないような環境で、すごく疲れていたんだと思います。自分の今の環境をすごくありがたく感じている半面、今の自分ではない、名前も性別も違うような人生を歩みたいなと思うことも多くて、それで〈名前も性別も全て何処かへ捨て去って〉のような歌詞になったんだと思います。

――「心臓」と比較すると、「ゆりかご」は一転してシンプルなサウンドですが、この曲は、音をもっと足したい!とは思わなかったのですか?

TOOBOE:元々この曲を作り始めた時点で、「音数は増やしすぎない」と決めていて、ドラム、ベース、ギター2本で、4、5トラックでできる曲にしたかったんです。ガチャガチャしているのが個性と言われるのはありがたいんですが、じゃあ音数を減らしたら個性がなくなるのか? とずっと疑問に思っていたので、これくらい音を削いでも自分の曲だと伝わるかどうかということを、カップリングの「ゆりかご」で実験した感じです。

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