香取慎吾、ジャズを取り入れた2ndアルバムがチャート好調 ポップスへの昇華から見える“アイドルの底力”

参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2022-04-25/

 今週のアルバムチャート。まずは藤井風の『LOVE ALL SERVE ALL』が4月4日付で初登場1位を記録してから8位→9位→今週6位と、4週連続のロングセールスを記録していること。さらには、30年前に発売されたTHE YELLOW MONKEYの1stアルバム『THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE(夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)』のDeluxe Edition盤が5位に食い込んでいることに触れておきましょう。新旧世代を代表する美形アーティスト。目線を伏せたジャケットもなんとなくシンクロしています。

 今週俎上に載せたいのは、香取慎吾の『東京SNG』(読み:トウキョウエスエヌジー)。初登場2位で約2.8万枚のセールス。ジャケットに見る赤の背景と白抜きの文字デザイン、モノクロの写真の組み合わせがなかなか斬新です。一瞬、“脱アイドル”、タキシードに着替えたアーティスト宣言作品なのかと思いました。だってスタートの瞬間から聴こえてくるのはドラムのシンバルレガート。続いてホーンセクションとウッドベースが絡んできて……一斉に激しくスウィング。そう、驚くことに今回のアルバムはジャズがテーマなのです。

 ジャズ=大人の音=イメージ脱却に最適。ものすごく安易ですが、人気アイドルや人気歌手が何かの転機でジャズに挑戦した過去例は枚挙にいとまがありません。スタンダードのカバーだったり、代表曲のジャズアレンジだったり、ジャズ界の巨匠との共演だったり、手法はさまざまですが、それだけ我々は「ジャズ=やや難しい大人の世界」という固定概念にとらわれているのでしょう。いや、実際音楽家に聞いてもジャズは難しいと答える人が多いので、これは概念ではなく事実と言うべきでしょうが、その音楽に挑戦する=何か変化の表れであると見るーーそのことが固定概念になっているのです。

 さて、香取慎吾は“脱アイドル”宣言をしたのでしょうか。1曲目のタイトル曲を聴くだけで否だと理解できました。向井秀徳が作詞作曲で参加している派手なスウィングナンバー、その歌い出しは〈時は少年時代/オイラとオイラが戦争中〉。大人どころか、思いっきり少年時代に戻って、威勢よくはしゃぎながら彼はこれを歌っています。笑ってしまうくらい「香取慎吾くん」(くん付けが、これほど似合うアイドルもいないと思います)。古い例を引っ張り出しますが、慎吾ママで〈おっはー〉と言っていたのと同じ感覚でジャズと遊んでいます。

 2曲目「こんがらがって」は、H ZETTRIOをフィーチャリングしたナンバー。“ヒイズミ印”のクールなピアノが耳を心地よくくすぐりますが、これまた歌詞がとっても彼らしい。なんたって二番の歌詞は〈「大人でしょ?」 そうだけど/今ボクはオトナ何年生?〉。おそらく彼はジャズを固定概念で捉えていないし、年齢や職業にも固定概念を持ち込んでいない。まず自分らしさを全面に出し、背景が何であれ自分のチャームは変わらないことをにっこりと証明している。だから、本格的なジャズでも何も難しく感じないのです。ポップスとしての強度は、アイドル・香取慎吾のブレのなさから生まれたものでしょう。

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