特に、Spotifyで聴くことができる3曲は、すべて曲調やジャンルも違い、ラップ調のメロもあれば、うなるようにこぶしを回す歌い方をしている部分もある。それなのに、わざとらしさがまったく感じられないのは、汐れいらが楽曲やアレンジに合わせて感覚的に自分の歌声を選んでいるからではなかろうか。ゆえに、安定していながらも、例えば“ライブでは違う歌い方になるのではないか”という余白が感じられ、そこが最大の魅力になっていると同時に、もっと聴いてみたいという中毒性につながっている。

　「センチメンタル・キス – Acoustic ver.」は、アコースティックギターの柔らかな音色と、汐れいらの声だけで聴かせるバラード。彼女の多彩な母音の抜き方が、存分に堪能できる1曲だ。一音の中で見せるビブラートのかけかたも多様なら、フレーズ毎の歌い出しも少しディレイしたり、ためたり、ジャストにしたり、早めにしたりと、いろいろなパターンで夢中にさせてくれる。さらに、余韻を大事にした歌い方は、エコーがかかっていないのにかかっているようなニュアンスまで醸し出している。

　歌声で空間を作り出すシンガーソングライター、汐れいら。これからどんな曲をどんな風に歌うのか、非常に楽しみである。