超学生、sekai、ロス……声や歌唱力だけでは語れない、セルフプロデュース巧みな歌い手たち
ロス
最後に紹介するのは、ロス。2019年よりYouTubeでカバー動画を上げ始めたが、オリジナル曲「自主」のヒットなど、最近はシンガーソングライターとしての活躍も目覚ましい。2021年8月には、ボカロP なきその楽曲「げのげ」のゲストボーカルに起用され、そのハスキーな歌声と、曲の可能性を極限まで高める豊かな表現力が、各所で重宝されている。
“両声類”(男声と女声どちらも出せる歌い手を形容する言葉)や、“ウィスパー系”など、大抵の歌い手は大まかなジャンル分けができるのだが、ロスのような「後ろ乗りのグルーヴを踏襲した洋楽ルーツのウィスパーボイス」は前例がなく、瞬く間に多くの視聴者を虜にした。
また、Twitter上に“#ロスを許すな”というファンアート(ファンによるアーティストの二次創作。主にイラスト)を投稿するためのハッシュタグがあり、その中でロス本人が気に入ったイラストをカバー動画やオリジナル曲のMVに使用しているのだが、「好きな歌い手とコラボできる可能性→ハッシュタグが盛り上がる→イラスト自体が一人歩きし、ロスの名前が広まる」という循環が、加速度的にファンを増やしているのである。どこまで意図的に行っているかは不明だが、そのセルフプロデュース力も紛れもないロスの強みだ。
ライブが物販や映像演出込みのエンターテインメントに成長したように、歌い手もセルフプロデュース力があってこそ輝く存在になりつつある。純粋な歌唱力の高さや声の個性があるのは言わずもがな、当コラムで紹介した3名は、他の歌い手にないフックで曲を聴く心理的ハードルを下げていることが見て取れる。カバーはあくまでカバーで、一次創作ではない。しかし、より多くの人に届けるための創意工夫は、もはや“クリエイティブ”と呼んでいいのではないか、と私は思う。