MASH、40代で下した上京という大きな決断 “ミドルエイジクライシス”を経て辿り着いた音楽

MASHが下した、40代での決断

感動したものを届けたいという気持ちは、ずっとピュアなまま残っている

「壊れたJukebox」Music Video

ーーそうした中で完成したのが、新曲「壊れたJukebox」です。ご自身を「壊れたJukebox」に例えるなど、とても衝撃的な内容でした。

MASH:まず情景が浮かんだんです。古くて小さなバーの片隅に昔のジュークボックスがひっそりと置かれ、訪れた客が時おり思い出したかのようにお金を入れて好きな曲を流しているシーンが。「衝撃的な内容だ」と色々な人から言われますけど、自分としては「大きな古時計」みたいな、ちょっと寓話的な暖かいイメージなんですよね。

ーー言われてみれば、サビで歌われる〈でも今の俺は 壊れたJukebox〉というフレーズの持つ響きが、曲が進んでいくに連れて徐々にポジティブな印象に変わっていくんですよね。ありのままの自分を受け入れていく「物語」になっている。そこがとても秀逸だなと思います。

MASH:ありがとうございます。おっしゃる通り、「たとえ壊れたジュークボックスであっても、たった一人のために曲を届けることができればそれでいい」というところに立ち戻っていくストーリーを描きたいと思いました。「たった一人」というのは、目の前にいる大切な人なのかも知れないし、もしかしたら自分自身なのかも知れない。

ーー確かに、MASHさん自身に向けて書いた曲なのかなとも思いました。だとすると、〈四十過ぎて惑わずって ほんとは後戻りできんだけ〉、〈生き方まず変えろ そうすりゃ明日は七色 簡単にそんなこと言うな 俺はまだここにいたい〉というフレーズを生み出すまで自分と向き合う作業は、かなりキツイだろうなと。

MASH:辛かったです(笑)。「三十にして立つ。 四十にして惑わず。 五十にして天命を知る」とか、これまで散々語られてきて、自分自身の地肉にもなっている哲学を壊していく作業だったので。

ーー〈生き方まず変えろ そうすりゃ明日は七色 簡単にそんなこと言うな 俺はまだここにいたい〉個人的に「ここまで言うか」と思いましたね。「生き方や考え方次第で世界は変わる」という言葉を信じている者としては、「それさえも疑ってかかるべきなのか」と(笑)。

MASH:(笑)。僕もその言葉は信じているんですよ。実際にそういうことを歌っている曲は今たくさんあるし、それはそれで否定するつもりはないんですけど、でも自分がそういう状態じゃないときにその言葉を聞くと「嘘ばっかり言うんじゃないよ」と思う自分もいるし、「そんな簡単な話じゃないだろ、何がわかるんだ」という気持ちにもなる。そういうところから出てきた言葉ですね。自分自身に言い聞かせているようにも聴こえるし、そういう意味では自分に十字架を背負わせているのかも知れないですね。

ーー〈夢追い人の寿命は短い セカンドライフは充実させたい〉や、〈今その気持ちちょっとわかるっていうか生きてくのには金がかかる〉というラインも強烈です。

MASH:そこは一気に書きました。自分では普段思ったことをそのまま書いたつもりなんですけど、周りはそこが結構「響いた」と言われる。だから、歌ってやっぱり「共感」なのだなとも思いましたね。ひょっとしたら「共感」でしかないのかも知れない。個人的にはその先にある〈土砂降りの後の水溜まり 星空を映して見せてんだ〉というラインの方が、我ながら上手く書けたなと自負しているんですけど(笑)。

ーーいや、そこも確かに素晴らしいのですが、そこをより美しく際立たせているのが前半の歌詞じゃないですか(笑)。

MASH:まあ、確かにそうですね(笑)。徐々に光に向かっていくというか。

ーー〈ガキの頃聴いてた音楽が街で流れてた 俺は思わず立ち止まり 動けなくなってた〉〈懐かしい歌も 悪くねえよな〉と歌っています。MASHさんはノスタルジーについてどんな見解を持っていますか?

MASH:最近、自分が音楽に目覚めたきっかけについて色々思い出していたんです。これまではインタビューなどでも「Sex Pistolsで音楽に目覚めた」とかカッコつけて話していたんですけど(笑)、よくよく思い出してみると原点は『刑事貴族』(日本テレビ系)なんです。水谷豊さんが主演のドラマシリーズで、情けない中年の刑事がもがいている姿を描く作品なんですけど、その主題歌だった「空よ」で陣内大蔵さんのことを知り、中でも「新しい風」がすごく好きで。当時の僕は小学生だったのですが、ラジカセに録音してそれをフルボリュームでベランダから外に向かってまき散らしていたんです。「なんでこの曲の良さが、みんな分からねえんだよ!」みたいな気持ちで。

ーーあははは!

MASH:今考えたらかなりイカれた行動ですけど(笑)、自分が今やっていることってそれと変わってないなと。要するに、自分が「いい」と思ったもの、感動したものを多くの人に届けたいという気持ちは、ずっとピュアなまま残っているんです。それがジャマイカに行けばサウンドシステムになるのかも知れないし、街中だったらストリートミュージックになるのかもしれない。「自分の感動を世に広めたい」という意味では、ライターさんになるモチベーションとも一緒なのかもしれないですよね。

ーー分かるような気がします(笑)。

MASH:なので僕にとっての「ノスタルジー」とは、あの頃のピュアな気持ちをそのまま持ち続けているということなのかも知れない。それに、思春期や青年期のノスタルジーを描いているのは若者ではなく、例えば浅田次郎さんの小説や、北野武さんの映画『キッズ・リターン』『菊次郎の夏』などもそうですが、その時代をとっくに過ぎたおじさんたちなんですよね。

ーーノスタルジーといっても、「昔は良かった、それに比べて今は……」みたいな「懐古主義」とは違うのでしょうね。今という時代を生き抜くために、昔の自分を取り戻すみたいな感覚なのかもしれない。

MASH:そう思いますし、その頃の自分がずっと心の中に住んでいるような気がします。誰かを好きになったり、素晴らしい音楽に出会ったりした瞬間に、そいつがまた素直に出てきてくれるというか。

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