androp、初の試み“ライブ×演劇”で伝えたメッセージ 恵比寿ザ・ガーデンホール公演を振り返る

 約3年9カ月ぶりの6thアルバム『effector』をリリースしたばかりのandropが、12月23日、24日恵比寿ザ・ガーデンホールで『androp“musicstory”act1〜ChristmasRadio〜』と題したライブを開催した。ライブ×演劇を組み合わせた、androp初の試みとなるこのステージ。創りだす音楽はもちろん、映像作品やアートワーク、そして様々な形態でのライブと、自分たちがワクワクする探究心や遊び心を大事に新たな挑戦を続けてきたandropならではのコンセプトライブだ。この“musicstory”をともに作ったのは、andropが主題歌「Hikari」を書き下ろしたドラマ『グッド・ドクター』(2018年)のプロデューサーでコンテンツプロデューサー/storyplannerを手がけた藤野良太(storyboard)。藤野はandropの曲を元にストーリーを書き、松風理咲(ドラマ『グッド・ドクター』にも出演)、中島亜梨沙の俳優ふたりを迎えて、バンド演奏と演劇で構成する新しいライブを作り上げた。

 観客にとっても未知の体験となるコンセプトライブ。まず会場に入って観客が目にするのは、イルミネーションがファンタスティックな花や木々で装飾されたステージと、フロアに設置されたもうひとつのステージ。こちらはラジオの収録スタジオを模したセットになっている。会場内にはクリスマスソングがゆったりと流れていて、自然と気分が高揚してくる。コロナ禍で、まだまだライブという場が少ない2021年。ここで何がはじまるのか、いつも以上に期待が募る舞台装置だ。

 暗転したステージにandropとサポート佐藤雄大(Key)が登場し、まず演奏されたのはニューアルバム『effector』収録の「KnowHow」。新しい生活、環境にうまく馴染めず、平静を装うような器用さを持ち合わせていない。心のひずみが徐々に大きくなる狂気的な瞬間をも、クールでわずかに跳ねたアンサンブルで聴かせるのがニヒリスティックだ。頭からぐっと引き込む演奏で観客が固唾を飲んで見るなか役者が登場し、もうひとつのステージ、謎のラジオブースで松風演じる女性DJが明るく番組をスタート。そこに紛れ込んだ記憶をなくした女性(中島)が、なぜか突然ゲストとして招かれる。不安におののく女性とDJとが軽妙な掛け合いをしながら、女性が今ここにいる理由や、ふたりの関係性がandropの曲とともに明かされていくというストーリーだ。曲だけでなく、ラジオ番組のテーマ曲やジングルなどもandropが生演奏で聴かせたり、またDJが観客に語りかけ声の代わりに拍手で返したりと、和やかなラジオの公開収録のような雰囲気で包まれる。

 そこで演奏されるのは懐かしの「Hana」や、ニューアルバム収録で今回が初演奏となった「Iro」。他人と比べることはない、自分の色を大事にしようという思いが込められた曲とDJに紹介された「Iro」の世界はとても美しいものだった。内澤崇仁(Vo/Gt)、佐藤拓也(Gt/Key)、前田恭介(Ba)、伊藤彬彦(Dr)、そして佐藤雄大それぞれが仄かに灯ったピンスポットの元で演奏をスタートし、サビで一気にその照明がカラフルになって会場を照らし出す。ソウルフルで、ゴスペルのように感情を解き放って、美しく昇華していく多幸感が観客の心を震わせる。しかし、ストーリーは急展開を迎えていく。そこで演奏されたのは「BeautifulBeautiful」と「Moonlight」というニューアルバムからの2曲。とくに「BeautifulBeautiful」のテンションは凄まじく、デジタルなビートとミニマルな生ドラムがヒリヒリとした不穏な空気を生み、微細なノイズを孕んだサウンドと内澤の切迫したラップ、苦しさにとめどなくあふれ出す言葉が観客の体を拘束する。鋭い曲だが、コロナ禍やニューノーマルの世界でもがき生きる人に温かな手を差し出し、また一筋の光を見せる「BeautifulBeautiful」と「Moonlight」は、このステージでより力強く響いた。

関連記事