乃木坂46「きっかけ」に刻まれたグループの歴史 10周年イヤーの『紅白』歌唱曲に選んだ理由

 そして、もう一つ。この「きっかけ」は後輩へと歌い継がれてきた楽曲でもある。「きっかけ」の発表時は、まだ乃木坂46が1期生、2期生だけの頃。先述した『5th バスラ』が3期生の初参加したコンサートだった。その後、開催された3期生にとっての初の単独ライブでも、2019年に横浜アリーナで行われた4期生の初めての単独ライブでも「きっかけ」は披露されている。特徴的なのはメンバー一人ひとりが各パートを歌い繋いでいくリレー形式だということ。そこにはセンターやポジションといった概念を取っ払った、全員が歌い継ぐという明確な意志が見て取れる。

乃木坂46 - きっかけ / THE FIRST TAKE

 今年9月には再び注目される強力なコンテンツが登場した。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で、4期生の遠藤さくらが「きっかけ」を歌唱したのだ。THE FIRST TAKEは、乃木坂46ファン以外の視聴者を大勢抱えるとともに、チャンネル自体に絶大な信頼を置いている特殊な場である。そんな険しいハードルを超えて、遠藤のパフォーマンスは絶賛された。どこまでも透き通っていて、柔らかくも芯がある歌声。27thシングル『ごめんねFingers crossed』で2度目のセンターを務めたばかりという物語性。観る者を惹きつけるポイントはいくつもあるが、万人に届いたのはヘッドホンを反対に装着してしまうくらいにど緊張している遠藤が、まっすぐに「きっかけ」を歌い切る姿だろう。アウトロでは安心しきった遠藤が「ふふふ」と満面の笑みを浮かべる。そして、特筆したいのはこれからの乃木坂46を担っていく存在の遠藤が、「きっかけ」を「THE FIRST TAKE」という場で歌い紡いでいるということだ。

 今年11月に開催された乃木坂46にとって2度目の東京ドーム公演では、3期生、4期生による決意の言葉が述べられた後、キャプテンの秋元真夏が「10年の感謝の気持ちを込めてこの曲を送りたいと思います」と話し、「きっかけ」が披露された(※1)。1期生から4期生の一人ひとりが順に歌い繋いでいくという、言わばこれまでの集大成的パフォーマンス。齋藤飛鳥からスタートしたリレーは、久保史緒里の〈ほら 人ごみの 誰かが走り出す 釣られたみたいにみんなが走り出す〉、生田絵梨花の〈自分のこと 自分で決められず 背中を押すもの 欲しいんだ きっかけ〉という落ちサビで感動のクライマックスを迎える。

 『紅白』がどのような演出になるかはいまだ明らかになっていないが、グループを卒業する生田のラストステージということを考慮すると、東京ドームでのパフォーマンスがベースになりそうだ。しかし、『紅白』の尺を考えると全メンバーが1パートずつソロで歌い繋いでいくのは難しそうでもある。なにはともあれ、乃木坂46が結成10周年を迎えた記念すべき2021年のラストが『紅白』の「きっかけ」で締め括られることは、グループの未来へと繋がる意義深いことだ。

※1 https://natalie.mu/music/news/454429

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