STRT×cloline トークセッション『SCENE#A36786』レポ 日韓音楽シーンの違いや注目アーティストが明らかに
そして、日韓のヒットチャートを軸に両国の違いについても語り合うことに。はろーは「韓国のチャートを見るとBTSをはじめグループ、あとはOST=オリジナルサウンドトラック、HIP HOPが中心となっている。サウンドで言うとさっきも映像の中でそうだったんですけど、スムースな音とミドルチューンとバラードが多い」とコメント。Shinji Kohも「ざっくり見ている感じ、10曲中4曲がバラードですね」と同意した。さらに日本のチャートについてはろーは「噛み締めるようにゆっくりな曲を聴いていられなくなってきたんだなということが、チャートから見えるくらい速い曲が多いです」と違いについて語る。そして韓国の音楽については、全幅の信頼を置いて情報をキャッチしているというBUZZY ROOTSさんの記事で見かけたタイ語の「สบาย(サバイ)」=メロウ、しっとりという言葉がマッチする事について紹介し、続けて「韓国は歌詞を大事にして聴く傾向があるのか?」と質問。Shinji Koh は「バラードがめちゃくちゃ多いです。韓国のカラオケチャートの上位は常にバラードだらけですね」と頷き、「“歌詞を大事にする傾向”が見えるものとして言語があると思うのですが、日本で売れているアーティストでは全英語詞の曲もあると思うんですけど、韓国で全英語詞の曲ってほぼないんです。BTSの『Dynamite』とか『Butter』はかなり異例な曲。韓国語が入っていない曲歌ってほぼないくらい、自分たちの言語で音楽を表現するというシーンの動きはあるのかなと思います」と語った。さらに、「韓国はどちらかというと西欧寄りの感情表現でストレートだし、愛に溢れている。僕も親によく言われるんですけど(笑)、すぐに「사랑헤요(サランヘヨ=愛してる)」と言ったり。バラードってストレートに愛を伝える"求愛"だから、そういうところにも紐づくのかなと思います」と文化の違いにも触れた。
続いてはろーが日本ではメインチャートに上がる機会の少ないHIP HOPの受け入れられ方に言及。Shinji Kohがオーディション番組『LOUD(ラウド)』で、PSYが「HIP HOPなしの音楽をやるやつはいらない」と言うくらいヒップホップシーンが巨大化していると解説し、「火付け役は『SHOW ME THE MONEY』。それともう一つ、『高等ラッパー』という高校生だけを集めたラップのオーディション番組があるんですね。これもものすごくハイレベル、かつ高い人気を誇っていて、YouTubeの再生回数がめちゃめちゃ回るんですよ。リスナーへの歌詞の伝え方について一般人がコメントし合うくらい、HIP HOPは身近な存在になっています」と答えた。番組がどう観られているのかという質問には、見逃し配信の充実により、リアルタイムでテレビで流れているものとYouTubeのコンテンツの差異がないため、どこが火付け役になっているのか特定することが難しいほどだと語る。
そしてはろーが、「日本はインディーからメジャーシーンに乗っかっていく可能性が大いにあり、シーンは地続きだと思うんですけど、韓国に関してはそれが難しそう」と指摘。Shinji Kohは、「インディーズシーンがチャートに食い込むハードルはかなりあります」と認めながらも、「『SHOW ME THE MONEY』や、いわゆるバラエティ番組内でも音楽を起点にした番組が韓国には多い。例えばJANNABIは歌の企画をきっかけに有名になって、そこから人気バンドになっていったという経緯がある。だから『SHOW ME THE MONEY』で優勝するなどがエンタメ起点でメジャーにあがってこられるチャンスなのでは」と可能性は0ではないと語る。一方で中堅アーティストが、自分たちの規模に合った活動をするのが難しい状況にあると問題点も明かした。
最後の話題は、これからの日韓アーティスト像やインディーの可能性について。はろーは「さらなる自己プロデュース力が求められる時代になった。今インディーズで活動している方って自分で映像を作ったり、友達に撮ってもらう選択を取る方も増えてきた。もちろん予算繰りの難しさを配慮してという場合も。メジャーレーベルや事務所に入ると、アーティストの持つ世界観と合わせてピックしてくれるクリエイティブに長けた目利きの方がいたりとか、予算を作ってくれたりもする。したがって、” 今すぐ成功するための準備をどこまでできるかが大事 ”」とコメント。そしてもう一つ大切なことにはSNSを挙げ、「私が音楽キュレーターとしてお仕事をいただくようになった経緯もSNS、Instagramで自己発信を続けていたからということに帰結するので。SNS運用とバズは本当に大切だと思っていて、いま自分だったら30秒くらいのリールが流行ってきた事に合わせ、解像度を上げたシネマティックな映像と、素敵な出演者の方を起用した短いミュージックビデオを投稿したいと思っています」と自身の経験も踏まえ、鍵を語った。
Shinji Kohはカルチャーの無国籍化が進むと予想し、「例えば、J-POPとかK-POPとか規定している時点で、“そこの国発のもの”みたいなことになってると思うんですよね。でも果たしてその恩恵ってなんだっけ? とは常々思っていて。国の垣根って無意味なものというか、そこには正直あまり差異がない。例えば、音だけを聴いた時にBTSがどこの音楽なのかわからないし。ファッションだろうが音楽だろうが、バックグラウンドで勝負をするのではなく、それぞれが自分の個性を持って、より無国籍的な動きが加速化していくと、カルチャーシーンやクリエーションの質というのは上がっていくんじゃないかな」と希望もこめて語った。また前日のイベントでの「自分らしくいたい」と「みんなと一緒でいたい」の間に戦いが常にあるというアーティスト さらさのMCに感銘を受けたと言い、「自分を肯定していく音楽がどんどん広がっていってほしい」とも話す。
この話を受けはろーは、サブスクリプションサービスSpotifyの「RADAR」や国に関係なく音楽を入れたプレイリスト「borderless」があることに触れ、「音楽業界の方もSpotifyやApple Musicでプレイリストを作っている方々も、(グローバル化を)大切にされているんだなと思います」と期待を込めた。さらに「プレイリストで世界に見つかることや、SNSからのバイラルヒットの件もありますし、自分の音楽に磨きをかけて続けていれば、誰かが見つけてくれると思っています」と力強くコメントしてイベントは終了した。
■登壇者プロフィール
・はろー
Instagramとテレビ出演を中心に、【感覚を大切に、音楽をやさしく言葉に。】をテーマに国境もジャンルも飛び越えた一曲を紹介する、音楽キュレーター。
テレビ朝日系列『BREAKOUT』コーナーナビゲーター、Podcast番組『リビングへようこそ』メインパーソナリティ。その他、アーティストインタビュー、執筆、店舗音楽ディレクション等。話すこと書くこと、多岐にわたって活動中。
・clolineプロデューサー Shinji Koh
日韓カルチャーの架け橋を目指すスタートアップ「cloline」のプロデューサー。
自身が日韓ダブルアイデンティティを持ちながら、韓国クリエイターとの事業展開で、韓国カルチャーに精通。