9thシングル『パスタ』インタビュー

伊藤美来、5年の音楽活動で確立した“自分らしさ” ゼロから試行錯誤で進めた初作曲の苦労も

「『誰だよ、この曲作ったの?』って思った(笑)」

ーー初めて作曲をするって自分が好きなものをなんとなく真似たり、意識的になって作ることが多いと思うんですけど、今回の場合は伊藤さんの中で「こういうメロディの流れが気持ち良いな」「こういう節回しを歌っていると気持ち良いな」と自然と出てきたものなのかなという印象を受けました。

伊藤:そう……だと思いたいです。でも、そこは自分ではあまり気づけていないところかもしれないです。好きな音とかフレーズを並べて作っただけなので、もしかしたらこの5年間でたくさん歌ってきた曲、聴いてきた好きな曲が刷り込まれていたのかもしれないです。実際、「伊藤さんが好きなメロディだけつないでもらえれば、最終的に形になると思います」みたいな感じで、作曲家さんたちの中にあるセオリーに縛られず、好きに作ったらこうなっていたので。

ーーそのセオリーに縛られていない感も伝わりつつも、今まで伊藤さんが歌ってきた楽曲の流れがちゃんと踏襲されていて、この5年間動の経験がしっかり詰まっているんだなと実感できました。これがご自身で歌っていて一番気持ち良いメロディということなんでしょうか?

伊藤:というか、聴いていて心地よいメロディですね。やっぱり自分のやってきた活動の楽曲が一番好きで、自分が歌っているジャンルが一番好きだと思って活動してきたからこそ、なのかなと思います。でも、実は歌うのがめちゃめちゃ難しくて、レコーディングはだいぶ苦戦したんですよ。「誰だよ、この曲作ったの?」って思ったくらいですから(笑)。

ーーそうなんですね(笑)。レコーディングの話題に入る前に、アレンジと歌詞について伺います。伊藤さんからはアレンジに対してどんな意見を出しましたか?

伊藤:今回はデビュー当時からお世話になっている水口浩次さんがアレンジしてくださったんですが、歌詞とメロディを送るときに「日常に溶け込むような曲にしたいです」と伝えたら、「じゃあ何パターンか作るので、意見を聞かせてください」ということで4、5パターン作ってくださって。その中から直感で良いと思うものを2つ選んで、「この2つをミックスした形にできますか?」と伝えました。

ーー先ほど「今回は先に作詞をして、そこにメロディを付けていく形」とおっしゃいましたが、歌詞のテーマにパスタを選んだ理由は?

伊藤:まず、5周年記念の曲だし、ファンの皆さんに感謝を伝える曲が王道でいいかなと思ったんですけど、今まで作詞してきた中で結構それをやってきていて。というか、全部それについてなので違うことを書こうと。そこで、ディレクターさんから「今までは自分の気持ちを書いたものが多かったけど、今回はストーリー仕立てで、自分がほかの何かになって書いてみたらどうですか?」と言われて、じゃあそうしましょうと決まりました。

 でも、いざ決まったものの、そこから何目線で書いたらいいかなかなか進まなかったんですよ。よくあるのだと動物とか書きやすいのかなと思ったんですけど、考えすぎたら何も出てこなくなっちゃって。「なんでもいいですよ? 書きやすいとかメッセージ性がどうとかじゃなく、伊藤さんが今なりたいものは何?」と言われたときに、おなかが空いていてパスタが食べたくて「パスタ!」と言ったら笑われて、「それでいきましょう!」という経緯でした(笑)。本当は打ち合わせのとっかかりになればいいかなぐらいのつもりで言ったんです。「そういう意見も面白いね。じゃあどうしようか?」みたいな感じで始まるかと思ったら、「じゃあそれで書いてみてください」と決まって、難しいことになってしまったなと(笑)。でも、パスタは本当に大好きなので、「パスタについて書けるというのはうれしいかも?」というマインドに切り替えて取り掛かりました。

ーーなるほど。好きなものについて歌詞を書くことはありますけど、パスタ目線で物語が進み、広げていくのは、なかなか……。

伊藤:難しかったです。シングルの表題曲になる楽曲で私が作詞作曲をするので、プレッシャーもあったし、今まで歌ってきたから自身の方向性みたいなものもわかっているから、パスタだからといって「ミートソース」「カルボナーラ」みたいに名前を並べるのも違うよなと思って(笑)。そこから「湯掻かれているとき、パスタはどういう気分なんだろう?」とかそういうことを考えている自分が面白くなっちゃって、気づいたら楽しく笑いながら書き進めていました。

ーーそういえば、この歌詞にはパスタの料理名はおろか、パスタというワードも一切出てこないですものね。

伊藤:そうなんです。パスタパスタ感を出すのは、私の中でのナンセンスだったんですよね。歌詞だけ見たらちょっとなんのことかわからないけど、タイトルが「パスタ」なのでパスタの歌なんだと気づいてもらえるし、パスタが美味しいことをただ歌って「ああそうなんだ」と思われるより、パスタ目線だけど共感してもらうような歌詞にできないかと思って、パスタを擬人化して聴いている人の気持ちに届くような歌詞にできたらなと思って書きました。

ーーパスタというワードが出てこないから、いろんなことに重ねることもできるんですよね。だから、最初に歌詞だけを読んだときは「実は深い意味が込められているんじゃないか?」と深読みをしていたんですよ。

伊藤:それこそパスタを作りながらお休みの日にダラダラ聴いてもらえる曲にしたかったので、深い意味はまったくなくて。シンプルに「簡単って幸せ」ってことだけ伝わればいいかなと思っていました。でも、確かに「パスタ」ってタイトルを知らなかったら、いろいろ深読みできる歌詞かもしれませんね。

ーーシンプルにも受け取れるし深読みもできる、そこがポップスの面白さですよね。そうやってご自身で作詞作曲された楽曲をレコーディングで歌うわけですが、さっきもおっしゃったように難しかったと。

伊藤:本当に「なんでこんなに難しい曲なの? 作ったの誰だろう? ここのリズム感、苦手だってば! 歌う私のこと、全然わかってない!」と思いつつ、苦戦しながらレコーディングしました(笑)。

ーー(笑)。そういうメロディ、節回しがご自身の中から出てくるのが面白いですよね。

伊藤:たぶんパスタに思いを寄せすぎて、自分が歌うことをあまり考えていなくて(笑)。普通に聴く人の立場で作ってしまったんだと思います。そこは1作目の反省点ですね(苦笑)。聴いていて好きなメロディ感とか心地よさを詰め込んじゃって、実際に歌ったら「違うんだよ! もっとこうやって歌ってほしいんだよ!」って私が私に思うみたいな(笑)。

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