『第六感』インタビュー
Reol、柔軟な変化で生まれた“人と交わっていく音楽” 「先人たちがしてくれたことを自分がやっていくフェーズ」
Reolが『金字塔』(2020年1月)以来のCD作品となる、ニューミニアルバム『第六感』を12月15日にリリースした。ビートやテンポ、アレンジ、そうしたサウンドを乗りこなすボーカルやラップ。どこを取っても多彩な7曲が揃っているが、インタビューでReolも話している通り、「J-POPを意識したメロディのキャッチーさ」が全体に通底している。すなわち、エクストリームかつ洗練された強みを存分に活かしながら、一方でリスナーに対してより開かれた存在として、Reolというアーティストが一段上のステージへ登った作品ということだ。新たなアレンジャーと手を組みながら自身の理想を実現していくReol、その自由でありながらも芯の通ったアティテュードを感じ取ってほしい。(編集部)
「自分のサウンドをJ-POPシーンにもっと持ち込みたい」
ーーCDでの作品リリースは約1年11カ月ぶりになりますね。
Reol:前回のフルアルバム『金字塔』を引っ提げたツアーが、新型コロナウイルスの影響で途中で飛んでしまったんですよ。なので2020年は前作にまつわる消化不良的な部分がどうしてもあったんです。それを踏まえて、じゃあ今の自分は次にどんなものを作品として世に出したいんだろうということを結構じっくり考えて。結果、気づいたら2年近く経っていたという感じでしたね。ーーそこで見えた今のReolさんが目指した方向性というのは?
Reol:今まで以上に開けた作品を作りたい思いが強くなったんです。“開けた”と言っても、そのニュアンスは人それぞれいろいろあるとは思うんですけど、私の場合はよりJ-POPに近いものを作るという意味合いが大きくて。自分の音楽は、割とUSとか海外の文脈を汲んだアレンジをしているとは思うんですけど、その上でしっかり日本人が反応できるメロディを意識したいなと。その中でまず「第六感」という楽曲が生まれたので、それと並ぶにふさわしい楽曲たちでミニアルバムを作りたいと思ったんですよね。
ーー2020年7月に配信リリースされた「第六感」が本作を編む上での起点になったと。
Reol:はい。「第六感」は自分が今まで作ってきたメロディ、コード進行の中でも、かなりJ-POPを意識したものになっていて。それが世の中的に結構はまってくれたところもあったので、この方向を突き詰めてみたい気持ちになったんです。
ーーReolさんが意識したJ-POP観というのは具体的にどんなものなんでしょう?
Reol:ちょっとアンニュイなコード進行であったり、どこか哀愁を感じさせるメロディですね。そういう要素は日本の演歌や歌謡曲に脈々と受け継がれてきたものだし、意識せずともみんなの心に響くものだと思うんです。そこを上手く曲に盛り込むために、今回はかなり試行錯誤しました。曲によってはサビを何パターンも考えた上で、一番いいものを選んだりして。「ミュータント」のサビは元々もう少しフックっぽいニュアンスだったんですけど、もっと歌謡曲的に歌い上げるサビにするために、6回くらい書き直しましたからね。
ーーこれまでのReolさんの楽曲もメロディの良さがひとつの武器になっていたと思うんですけど、J-POPを意識するとまた違ったアプローチが必要になってくるわけですか?
Reol:そうですね。メロディを大事にするという思いは変わらないけど、今まではもっとヒップホップ的なメロディメイクをしていたんですよ。歌い上げるよりは、割とリズム重視のサビが多かったし。だから今回はそこを得意な引き出しとして開けつつも、もう少しメロディアスにするとか、音符を少し省いてみるとか、そういったことを意識的にやったんですよね。とはいえ、それぞれの曲の歌詞の量を考えると、音符の数もそれなりに多いんですけど(笑)。
ーー本作を聴くと、確かにこれまで以上にポップさ、キャッチーさを感じさせる楽曲ばかりだと思います。でも、同時にReolさんならではのエッジの立ったサウンドアプローチもちゃんと更新されているわけで。そのバランスが面白いですよね。
Reol:J-POPシーンのチャートを眺めてみても、私みたいなサウンドをやっている人はあまりいないので、そこの第一人者になりたい感覚がずっとあるんです。サンプリングした音にエフェクトをかけてどんどんクラッシュさせたりとか、そういうサウンドの面白さをJ-POPシーンにもっと持ち込みたいんですよね。
「戦っている人に言葉をかけたい意識が強まってる」
ーー「第六感」で東京ゲゲゲイをフィーチャーしていたことからも、そういった狙いを感じました。アンダーグラウンドとオーバーグラウンドの垣根を取っ払っていくというか。
Reol:そうですね。私は今までアーティストとのコラボをしてこなかったんですけど、今回はMIKEY(東京ゲゲゲイを主宰するダンサー/シンガー)さんのマイノリティな部分が、私のマイノリティな部分にすごく共鳴したからこそできたコラボだと思っていて。初めてデュエットするアーティストがMIKEYさんで本当によかったなって思いました。初めて一緒に歌ったけど、まったく初めての感じがしなかったというか(笑)。
ーーReolさんにもマイノリティな感覚があるんですか?
Reol:MIKEYさんはジェンダー的な意味でのマイノリティですけど、私にもそういう感覚は少なからずあるんですよ。アーティスト活動をする上で、私はあまり性を出したくないというか。女性らしさだけじゃない部分を色濃く出してきているタイプなので、そういう部分ですごく共鳴できた感じがしたんです。あとは背が小さいとか声が幼いとかっていうコンプレックスもあって。それが自分にとっての“なめんな精神”に繋がってるんですよね。そういう意味で私は、マイノリティ側の人間だなと思って思春期を生きてきたんです。
ーーその思いが音楽を作る上でのモチベーションになっているところもある?
Reol:あると思います。ただ、一方ではチャート上位に入っているヒット曲を聴いて「いい曲だな」と思える大衆的な感覚も私にはあるんですよ。「何これ、全然わかんない」とはならないから。そういう部分のバランス感覚は無意識に持っているのかもしれないですね。だから私の曲は大衆に響かせたい思いと同時に、自分が少数派であると感じている人たちに「それでもいいんだよ」って伝えたい気持ちもあって。私と同じような人たちを、音楽を通して肯定したい気持ちはすごく強いですね。そういう感覚になってきたのは年齢的なことによる変化もあるのかもしれないですけど。
ーー聴き手をより意識して音楽を作れるようになったということでしょうか。
Reol:昔は自分のことでいっぱいいっぱいだったから、私が戦っている姿を見てみんなも何かを頑張ってくれたらいいなと思っていたんですよ。でも、今は戦っている人に対して言葉をかけたい意識が強まってるかな。それはきっと先人たちが自分にしてくれたことを、今度は自分がやっていく番だって認識した上でのフェーズなんだと思います。私は椎名林檎さんを聴いて育ってきて、ずっと恋焦がれてきたんですけど、彼女に対して抱きしめて欲しいとは思っていなかったはずなんですよ。とにかく私の感性を突き刺してくれるところが好きだったから。でも、「ありあまる富」(椎名林檎の11thシングル表題曲)を聴いたときに、愛情を持って抱きしめられたような気がしたんです。
ーーなるほど。
Reol:だから私も、そんな体験を今度は自分の音楽でみんなにも届けられたらいいなって、いつしか思うようになったんですよね。自分本位な音楽ではなく、他人に対してもっと寄り添う音楽、言葉を紡いでいきたいなって。そういった部分が今回の作品にも少しずつ出てきているような気がします。歌詞についても、身勝手な言葉をあまり使うことがなくなったというか。今まで以上に客観視しながら、丁寧に“undo/redo”を繰り返し書いていく感じですね。私も優しい人になりたい、みたいな意識が強くなってきているのかも。
ーーそういう願いは素晴らしいことですよね。
Reol:私は割と狭く深く人付き合いをするタイプなんですけど、せっかく音楽という多くの人と交われるものを使ってエンターテインメントをしているわけだから、それを介してたくさんの人と交わりたいんですよね。そういう気持ちはどんどん強くなってきています。プライベートではまだ全然、狭く深いタイプではありますけど(笑)。
ーー本作の起点になったという「第六感」と、「Q?」「Ms.CONTROL」の3曲は、おなじみのGigaさんと作られたナンバーですね。
Reol:Gigaとは付き合いが長いんで、「これをこうして」みたいな感じでも意思の疎通がすぐできてしまうというか。もはやひとつの生命体みたいになってきた感覚がありますね(笑)。「Ms.CONTROL」なんかは、「デジタルに攻めよう」「壮大なコーラスを入れたい」「ここではオートチューンを使おう」とか私からのイメージを伝えた上で、あとはもう好きに作ってもらった感じです。
ーーアニメ『MUTEKING THE Dancing HERO』(TOKYO MXほか)の挿入歌として何かオーダーもあったんですか?
Reol:アニメの中で踊るシーンで使いたいというオーダーがあったので、「じゃあドロップを入れようか」みたいな感じでした。全体的にサクサクとスムーズに制作は進みましたね。