映画の新たな楽しみ方を発見 竹本泰蔵×CHIAKi×松下久昭が語る『日本映画音楽の巨匠たち』の魅力

 映画本来の顔であるメインテーマや劇伴にスポットを当て、名作映画の音楽をオリジナルスコアで再現した人気シリーズ『シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー』の第12弾、『日本映画音楽の巨匠たち』が9月29日にリリースされた。同シリーズのプロデュースを手がけるキングレコードの松下久昭、同シリーズの多くの作品に携わる指揮者・竹本泰蔵、そして本作のレコーディングに参加したピアニストのCHIAKiに、本作の持つ歴史的価値や昔の日本映画音楽の魅力、本作を制作する上でのエピソードを聞いた。(榑林史章)

オリジナルスコアを発掘し、幻の名曲を再現

『日本映画音楽の巨匠たち シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー 12』
『日本映画音楽の巨匠たち シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー 12』

ーー『日本映画音楽の巨匠たち シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー12』という作品について、どんなものなのか教えてください。

松下久昭(以下、松下):このシリーズは、昔から人気の映画のテーマ音楽や劇伴を含め、その中でもオーケストラの魅力が出ている楽曲を集めています。第12弾となる今作は、黒澤明監督の作品など少し古い日本映画の音楽が海外でも非常に評価が高いということもあって、特に日本映画にスポットを当てさせていただきました。できる限り当時のスコアをそのまま再現するということをコンセプトとしたため、映画に収録された時のスコアを探し回って制作しました。

ーー小津安二郎監督の『東京物語』、黒澤映画から『赤ひげ』『影武者』『乱』、伊福部昭が音楽を手がけた『ゴジラ』シリーズの作品が多数。これらラインナップは、どのように選ばれたのですか?

松下:今作で最も重要だったのは、スコアが現存するかどうかというところでした。1940年代~1970年代の映画では、音楽を録音し終わった楽譜はすぐ捨てられてしまうことが多く、オリジナルのスコアが残っている曲は多くありません。そこで、たとえば、東宝さんの倉庫から当時の映画音楽の資料が入った段ボールをいくつも見せていただいたりして、その中から楽譜を探し出すところから始め、編成的に再現可能なもの、その上で演奏して面白そうなものを選びました。

ーー当時は、楽譜を捨ててしまっていたんですね。

竹本泰蔵(以下、竹本):ハリウッド映画でも、“1960年代問題”というのがあって。映画のセットを拡張するために倉庫が取り壊されて、その中に保管してあった資料が全部捨てられてしまって大問題になったんです。それくらい映画音楽の楽譜は、軽く扱われていたんです。当時は映画に収録されれば、楽譜はそれで用が済んでいた訳ですから仕方のないことですが、後々になって、こうして音楽だけが聴かれるようになることまでは、想定されていなかったんでしょうね。

竹本泰蔵

松下:今作に伊福部昭さんの曲が多く収録されているのは、東京音楽大学が管理していることもあって、比較的楽譜が残っていたからというのもあります。本来なら、伊福部先生と同じ年齢の作曲家で黒澤映画の『七人の侍』など数多くの映画音楽を作られた早坂文雄先生の曲も入れるべきだったんですけど、すでに別の企画で録音を行っていたため、残念ながら今回のタイトルには入れることができませんでした。

ーー竹本さんはオーケストラを率いる指揮者として、オリジナルを踏まえつつ、その上でどんなことを意識したのでしょうか?

竹本:まずオリジナルの映画をご覧になっている方が、違和感を持たないことがひとつ。「自分が知っている音楽と違うじゃないか!」となってしまっては本末転倒なので、「あのシーンだ!」と思い出してもらえるものにしないといけない。そのために僕自身も、その映画を何度も見返してオリジナルの楽曲を勉強するところから始めました。それと同時に、当時の演奏技術では表現できなかったものは何なのか、映画の中ではよく聴こえないけど実は鳴っている、ディティールの部分をどれだけ引き出せるかを考えました。そういう部分まで再現するために、オリジナルスコアが必要なんです。

松下:1960年代の映画には、光学録音で録音していたものも多く、光学録音というのは、フィルムの脇に光を当てながら音を再生する録音技術なんですけど、正直あまりいい音ではないんですね。それを現代の録音方式で録音し直すと、純粋に音楽としてすごくいいものになって新しい発見がある。もともとこのシリーズでハリウッド映画を手がけるなどしていくうちにそのことに気づいて、日本映画でもそれが当てはまるんじゃないかと思って、今回挑戦したわけです。

ーー収録曲についてですが、まず市川崑監督、黛敏郎作曲の映画『東京オリンピック』の「エンディング」という曲が収録されています。

竹本:私自身、小学校3~4年生の時にちょうど東京オリンピックがあった世代で、映画も見ていたので非常に懐かしかったです。その頃の黛さんは作曲家としてバリバリ活躍されて、すごく波に乗っていらした時期なので、その頃のサウンドが再現できることも、とても嬉しかったです。

松下:実は、この「エンディング」は、実際の映画では使われなかったんです。じゃあなぜ収録したかと言うと、この「エンディング」に『東京オリンピック』の中で使われている音楽が凝縮されているからです。曲を作ったものの、結果的には使われなかった。サウンドトラック集があったとしても入らなかった曲というところでは、非常にレアだと思います。

ーーその『東京オリンピック』とも少し関係があるのが、小津安二郎監督映画、斎藤高順作曲の「東京物語」です。

松下:はい。今年行われた東京オリンピックの閉会式で、国旗入場の時に流れていたのがこの曲です。きっと日本という国の古き良き雰囲気が、すごくよく現れている曲だからということだと思います。そういう点も含めて、今ぜひ聴いていただきたいですね。

竹本:『東京物語』は「テーマ(主題曲)」と「ノクターン(夜想曲)」の2曲を収録しているんですけど、収録の合間に時間があったので、オーケストラ団員の皆さんに「この曲は、姑さんとこういう話をする場面なんだよ」と、話をしました。白黒の昔の映画で、物語の中で気持ちの触れ合いがあってという映画の雰囲気を、オケの皆さんに少しは感じていただけたんじゃないかと思います。やはり知っているのと知らないのでは、演奏がまったく変わりますからね。

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