Spotify日本法人新代表取締役 トニー・エリソン氏に聞く、「音声・音楽コンテンツの次」への可能性
オーディオストリーミングサービス・Spotifyの日本法人であるスポティファイジャパン株式会社。同社の新たな代表取締役に、トニー・エリソン氏が就任した。
トニー氏は、MTVや任天堂、YouTube、ディズニーなどでキャリアを積み、「Disney+」の日本ローンチなどにも携わった経験を持つ。今回は、そんな世界とアジアのエンタメビジネスにも明るい同氏に、Spotifyに関することや、これからのエンタメ業界について話を聞いた。(編集部)
ストリーミングサービスはまだまだ伸びる余地がある
ーーまずはトニーさんがSpotifyに入るまでのキャリアについて聞かせてください。トニー:アメリカの大学を卒業して、腕試しをしてみたいという気持ちで日本のコンサルティング会社に就職しました。コンサルティング会社に入ると、ほとんどの人は2〜3年でMBAを取りに行くんですが、僕はメディアとエンターテインメントに興味があったので、MTVに行きました(笑)。その後、任天堂のアメリカ法人に転職して8年在籍し、そのうちの2年間を東京で仕事をしました。そこからYouTubeでアジア地域の音楽担当として「YouTube Music」の立ち上げを行い、次のディズニーでは「Disney+」の日本ローンチに携わりました。さまざまな企業に籍を置きましたが、「次のメディア」「次の時代のエンターテインメント」に常に関わってきた点と、欧米と日本の架け橋になってきた点では一貫しています。
ーーそんなトニーさんが「次のメディア」「次のエンタメ」として選んだのがSpotifyということですね。ほかの会社に在籍中、Spotifyに対してどういうイメージを持っていましたか。
トニー:一人のユーザーとして、進歩的で格好いい会社だと思っていました。僕は幸い、YouTubeや任天堂やディズニーと、世界的に広く知られたブランドに携わらせていただきましたが、Spotifyも憧れのブランドのひとつでした。音楽という、日常になくてはならない、人間として必要なものを格好よく提供している会社だと思っていたんです。
ーーMTV、YouTube、ディズニーといわゆる映像コンテンツの領域でご活躍してきたトニーさんですが、音声・音楽コンテンツについて、どのような可能性を感じていますか?
トニー:音楽や音声などのオーディオは、人間のコミュニケーションの原点。パーソナルであり、人の心を動かす大きな力を持つ。「ながら」でも楽しめるので、多様な場面やライフスタイルにフィットし、生活や人生に彩りを加える。Spotifyはこうした音の持つ魅力や価値を再定義し、提案することができるオーディオ・エンターテインメント企業。「音楽やストーリーテリング」をさらに進化させるために取り組んでいる。
ーージョインしてあらためて感じたSpotifyの強みを教えてください。
トニー:いくつかありますが、一番は、同じ理念に共鳴する社員や仲間が集まり、クリエイターとファンをつなぐ、というミッションの実現に向かい一丸となって取り組んでいること。音楽と音声文化を進化させ、それらのコンテンツを生み出しているクリエイターたちが創作活動を持続できる環境を創ることに、情熱を傾けている。「次はこれがあったら楽しいんじゃないか、これがあったら面白いんじゃないか」ということを常に提案して、実験する、冒険心を持った組織であることも強みだと感じます。ほかには、非常に大きなグローバルリーチを持ったプラットフォームであること。ユーザー数は4億人に迫っており、日本のクリエイターも、こうした世界中のリスナーにこれまでにない方法でリーチできるのは、やはり面白いと思いました。
ーーここまでの短い間でも、トニーさんの口からは「次の〇〇」という言葉が多く出ていたことが印象的なのですが、トニーさんが考える「音楽の次」「音声コンテンツの次」とは?
トニー:僕には15歳と17歳の子どもがいるのですが、自分とは音楽の聴き方がまったく違います。共通の趣味で会話が弾むというのはどの時代にもありますが、その一方でデジタル化によって興味が細分化され、共通の会話が生まれにくくなってきたという話もよくされていますよね。でも、こうした趣味の異なる人たちが一緒に音楽を聴くことで、新たな世界が広がることもある。Spotifyの「Blend」という機能を使えば、70’sディスコが好きな妻とヒップホップが好きな息子の趣味趣向を掛け合わせて一つのプレイリストを作ることができる。こうしたことから、また新たな発見や理解も生まれると思うんです。また、時に一人でゆっくり集中して聴きたいというニーズもあれば、よりその音楽の裏話が聞きたい、作品にまつわるストーリーが聞きたいという需要もある。ヒーリング系のサウンドエフェクトを聴きながら勉強や作業に取り組みたいという人もいますよね。「音楽や音声コンテンツの次」とは、このようにさまざまな生活の場面やライフステージ、いつ誰と過ごすかなどのシチュエーションに応じて、それぞれに最適ないろんな楽しみ方を提案するサービスだと思います。
ーーストリーミングサービスが出てきた当初は「人々の聴き方を変える、音楽の聴き方を変える」ことが至上命題にあったと思うのですが、いまはそれが当たり前になっていて、今度は生活の中にどう浸透していくか、どう生活をサポートしていくかが次の課題なのですね。
トニー: Spotifyをきっかけに、新しい音楽との出会い方が大きく変わった人は多いと思います。ストリーミング以前の世界では、聴きたい音楽を1曲あるいは1作品ずつ購入する必要がありましたが、ストリーミングサービスでは、無数のカタログのなかで、点がつながり線になり、新たな世界がどんどん広がっていくような体験を得ることができます。この5年間で日本でもストリーミングの利用は急速に広がりましたが、まだまだ伸びる余地があると思います。まだ使っていない人たちに対して、音楽や音声の配信は皆のものであり、ストリーミングは一人ひとりのニーズやライフスタイルにあったリスニング体験を提供してくれることを知ってもらい、これがあるとあなたの毎日がさらに充実しますよ、という提案をしていくことが重要になってくるでしょうね。
ーー音楽はいま、音楽ストリーミングサービスで聴くだけではなく、TikTokや『Fortnite』でのライブをはじめ、音楽とプラットフォームが作用し合う関係も目立ちます。この辺りについてはどう思いますか。
トニー:新しい音楽に出会う手段やチャネルが多様化していると思います。SpotifyはSNSやゲームと親和性が高いのが特徴です。プラットフォームを使っているときに気になった音楽は、いつでもその場で、興味を持ったその瞬間にSpotifyで聴くことができ、楽曲やアーティストを知り、新たなファンになっていく。世界の中で音楽との接点が増えていくということは、アーティストたちの作品がさらに聴かれるようになることとイコールなので、とても喜ばしいことだと思っていますよ。