Spotify日本法人新代表取締役 トニー・エリソン氏に聞く、「音声・音楽コンテンツの次」への可能性

スポティファイジャパン新代表インタビュー

Spotifyをクリエイターとファンから一番愛されるサービスに

ーーここ2年は、新型コロナウイルスの世界的な流行により、エンターテインメント業界は変革を余儀なくされました。トニーさん自身は、この状況がサービスに与えた影響について、どのように分析しますか。

トニー:よく新型コロナウイルスによって配信系のサービスが伸びたから、会社としては良かったのではないかと言われることがあるんですが、僕は決してそうだとは思っていません。コロナがあって良かった、とはもちろん思えないですし、テレワークの導入などで通勤・通学時間がなくなり、Spotifyでもよく利用される時間帯などに変化が見られました。このあと状況がどうなっていくかは予測が難しいですが、今後再びライフスタイルがアクティブになった際に、どういう風にストリーミングサービスが利用されるだろうかとは考えています。

 ストリーミングサービスの魅力とは何か、と聞かれたとき、僕はリスナーの毎日を彩る「パーソナルなサウンドトラック」だと答えるようにしています。例えば人と会った時に「最近この曲を聴いてるんだ」と相手に聴かせたり、SNSなどで共有したり。仲間とそれぞれの好きな音楽を持ち寄って、どういうプレイリストができるのかを楽しんだり。そういう各々のパーソナルなサウンドトラックを使ったコミュニケーションツールとしてもストリーミングサービスの利用はもっと広がっていくと思っているので、人と人が対面でコミュニケーションを取れる世界が早く戻ることを期待しています。

ーー音声コンテンツの領域では、グローバルにおけるPodcast施策の強化も目立ちます。日本でもこのあたりは推し進めていくのでしょうか。

トニー:はい。オリジナル番組をはじめとするコンテンツの強化と、クリエイターのサポートに力を入れていきたいと思っています。語りというのは、映像や文字を介したコミュニケーション以前からあったもので、ある種人間の本質的な伝達手段ともいえます。音声を介して提供するエンターテインメントは、それくらいあらゆる人が挑戦できる分野だと思っていますし、伝えたいメッセージを持っていれば、一人でも多くの人にチャレンジしてほしい。僕らは、そうした意思を持つクリエイターとユーザーを繋げることをミッションのひとつに掲げています。Spotifyとしてオリジナル番組を作ることも、音声への新たな需要を喚起するだけでなく、ある意味ではクリエイターの皆さんに対し「こういう風に作ったら面白いよ」という雛形を提示する意味合いもあるんです。我々の持つ「Anchor」というプラットフォームを使うことで誰でも気軽に音声コンテンツを制作・配信できますし、また日本でも今年スタートした「Sound Up」というプログラムでも、自分が表現したいことを音声で発信できるようになれるようにポッドキャストを企画・制作する方法を提供しています。

ーーあと、これはトニーさん自身の話になると思うのですが、リーダーとして組織を率いていくにあたり、大事にしている価値観を教えてもらえますか。

トニー:僕が一番大事にしていることは、とにかく楽しく仕事をすること、楽しい職場にすること。楽しく真面目にやること。だからこそ、やりがいがあって、自分のやりたいことが実現できる、ある意味「夢が叶う空間、環境」というのがいい会社だと思っています。そのうえでミッションがハッキリしていることは大事だと思いますし、そのミッションに賛同している人が集まり、そして自分がそのミッションにどう貢献するのかという像が明確だからこそ、見える景色があると考えています。僕はビジネスとスポーツをよく例えに出すことがあるのですが、勝つスポーツチームはお互いに信頼し合っているし、「本当に良いチームはあまりスコアボードを見ない」なんて話もあったりするくらい、うまくプレイすれば結果がついてくるんです。自分がいままで勤めてきた会社も、自分のクリエイティビティと発想と会社が目指しているものが合致して、自発的に動いて、それが実るという環境でしたから、Spotifyにもそのような組織であってほしいし、そうしていくつもりです。

ーー実際に就任されて以降、オンライン・オフラインとハイブリッドな形式のうえで、それらのミッションはどこまで浸透しているように感じますか?

トニー:就任してから8カ月になるのですが、まだ全員とはフェイス・トゥ・フェイスで会えていません。その感覚を打破するために、隔週月曜日の全社ミーティングでは2〜3人のグループを作って、3分間のトークをしてもらっています。3分間だと短いと言われるのですが、それがきっかけになって色んな人とつながり、その続きを別のところで話し合ったり、実際に会ったことがない人の性格を知る機会になればと思ったんです。先ほど話したような会社にしていくためには、個人での業務活動だけではなく、社内で仲間を作ること、賛同してくれる人を見つけることが、すごく重要だと考えています。このような取り組みをきっかけに、小さなプロジェクトチームが自発的に生まれることをまずは目指していきたいです。

ーーSpotifyは日本に上陸して丸5年になりました。10年目に向けて、どのような形でサービスをスケールさせていきたいですか。

トニー:大きな目標としては、クリエイターとファンから一番愛されるサービスになりたいです。また海外にもっと日本のコンテンツを届けていきたいと思うし、それをムーブメントにしていきたい。こうしたことを容易にするのがSpotifyだと思っています。僕は生まれた時からずっと日本とアメリカを行き来し、幼い頃はアメリカ・日本のいずれでもインターナショナルスクールには通わず、現地の学校に通っていました。だからこそ、どちらの文化も大好きになったし、それらがいかに違うのかも分かっているつもりです。こうした経験も活かせればと思います。日本のクリエイターやコンテンツ業界から、新たな可能性がここにあるというのを感じてもらって、一緒に成功例をたくさん作っていければと思います。

Spotify オフィシャルサイト

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