「愛のけだもの」 インタビュー

神はサイコロを振らない×キタニタツヤ対談  同世代コラボで描く、“ただれた恋愛”の愚かさと美しさ

「キング・オブ・クズ」に翻弄される女性側の気持ち

キタニタツヤ

ーー歌詞はどのように作っていったのですか?

キタニ:事前に何かテーマを決めていたわけじゃなくて、即興で出てきたフレーズに後から物語を加えていったというか。

柳田:まずは、サビメロに乗せた歌詞から全体のテーマや内容が生まれていった感じだったよね。

キタニ:〈あなたが汚して、濡らして、傷をつけて〉のところがまず思い浮かび、それをもとにAメロとBメロの歌詞を柳田に考えてもらって。それにインスパイアされて、今度は自分が歌う2番のAメロとBメロの歌詞を考えていく……みたいな流れで作っていきました。

柳田:そういえば、最初にキタニから歌詞のついていないデモが送られてきたときには「意外と爽やかな曲だな」と思ったんだよね。さっきも言ったように、今回は「エロティシズム」をテーマにしたかったので、ちょっとイメージが違うかなと思ったんですけど、あえてこの疾走感のあるライブ映えしそうな楽曲にエロい歌詞を乗せてみたら、神サイらしさやキタニらしさが出るんじゃないか? と。

キタニ:今思い出したけど、柳田が「最近はBTSにハマっている」みたいなことを最初に話してくれて。それこそ彼らの「Dynamite」みたいな、ちょっとファンクっぽくて爽やかな夏っぽい感じにしようと思ったんだよね、「真夏の開放的なエロ」というか(笑)。最終的には歌詞が内包する「じめっとしたエロ」に引っ張られ、アレンジもどんどんそっちに寄せていったんですけど。

ーー「エロ」にも種類がいろいろあると思うのですが、ここではどんなエロを歌おうと思ったのですか?

柳田:「エロ」の解釈についても2回目の顔合わせでいろいろ話し合ったよね、「どういう『エロ』でいく?」って。それで今回は「キング・オブ・クズ」みたいな男に翻弄される、女性側の気持ちを歌おうと思いました。

キタニ:柳田の過去の恋愛遍歴や、吉田の周囲の恋愛エピソードを聴いて、そこからヒントを得て書いたフレーズもいくつか散りばめられています。

吉田:ミーティングの時にずっと「『シャバい恋愛』を歌詞にしようぜ」って言ってたもんね(笑)。

キタニ:成熟していない人たちの恋愛って、かなり残酷なケースが多いじゃないですか。そういう歌詞の方が、若い世代のリスナーにも刺さるんじゃないかなという思いもありました。思い当たるフシのある人たちが、たくさんいてくれたらいいなと思いますね。

柳田:例えば和ぬかさんの「寄り酔い」とか、TikTokでものすごくバズってるらしいんです。それって中高生に刺さっているということだと思うんですけど、「今の10代どんだけマセてんの?」と思いますよね(笑)。ちょうど女子高生の恋愛相談に乗る企画があって、なぜか俺と吉田が相談を受ける役になったんですけど、そのときもびっくりしました。「愛のけだもの」の歌詞じゃないけど、今の女子高生ってこんな“ただれた恋愛”してんのか、「寄り酔い」みたいな歌詞が刺さるはずだわって。

若者が“ただれた”恋愛ソングに惹かれる理由

神はサイコロを振らない × キタニタツヤ「愛のけだもの」 【Official Audio】

ーーそういう歌詞が共感を得るようになった背景はどこにあると思いますか?

柳田:やっぱり、SNSが発達したことも関係していると俺は思っていますね。今話した女子高生が、「最近いろんな人から告白されて困っていて」と言うんですよ。しかも数人じゃなくて、「十数人から告白される」と言うから、「え、学校でモテモテじゃん!」と返したら「いや、学校じゃなくてインスタのDMなんです」と言われてびっくりした。同世代じゃなくて、うんと年上の男性から誘われたりするらしく。そりゃ、“ただれた恋愛”が蔓延るわけですよね。

キタニ:しかも今は、コロナ禍で健全なコミュニケーションがとりづらいし、学校で思うような青春ができないもんね。個人的にはSNSがあろうがなかろうが、コロナ禍だろうがそうじゃなかろうが、若い時は多かれ少なかれしょうもない恋愛はするもんだとも、一方では思っていますけど。

ーー歌詞の後半では、そんな“ただれた恋愛”について、〈それは確かに愛だったんだ〉と歌っていますよね。

キタニ:あそこは〈愛〉にするか、〈恋〉にするかですごく悩みました。それによって曲の印象は全く変わるじゃないですか。あれがただ女の子の一方通行の「恋」だとあまりにも残酷すぎるかなと思って、最終的に希望を持たせたくなって「愛」にしたんです。

柳田:いやでも、そこを「愛」にしたことで、より残酷な歌詞になったと俺は思ったよ。ただの「恋」だったと言われた方がまだ潔く諦められるのに、一瞬でも「愛」だったんだと思ってしまうと、女の子は余計に吹っ切れなくなるじゃん。その残酷な感じがすごくいいんだけど(笑)。

ーー確かに、男性のズルさとも取れますしね。

キタニ:なるほど、俺の中のクズの片鱗が出てしまった……(笑)。というか、自分が思っていたのとは真逆の捉え方をされるのって面白いですね。

ーー黒川さんと桐木さんはどう思いましたか?

黒川:僕はすごく美しい歌詞だなと思ったんですけど、友だちの女性に聞かせたら「この歌詞書いた人、最低だね」って言ってました。

一同:(笑)

桐木:俺も歌詞を読んで「柳田ってこんなクズやったっけ?」って思ったし、キタニとコラボしたことでクズさの色合いが濃くなったなって。

柳田:(笑)

キタニ:お宅のボーカルのクズさをさらに引っ張り出してしまってごめんな(笑)。

ーー以前のインタビューでキタニさんは「バンドならではの化学反応への憧れがすごくある」とおっしゃっていましたが、今回、神サイとコラボしてみてどうでしたか?

キタニ:とにかくメンバー全員の仲が良いし、それぞれがお互いを気にかけ合っているのが美しいなと思いますね。最初の顔合わせで柳田と吉田が、「うちのベースとドラムはファンクっぽいものを通ってないけど、新しい風をバンド内に吹かせたいと思っているから、どうか二人の面倒を見てやってほしい」みたいなことを熱く言われたんですよ。めちゃくちゃいい関係じゃないですか。そうやってお互いの成長を見守る姿勢があるからこそ、神サイの音楽性ってどんどん広がっているんだなと。そういうソウルメイトみたいな存在に、俺もいつか出会いたいと思わせてくれました。

柳田:神サイを結成して、今年で7年目になるんですけど、結成した当時はただ演奏するのが楽しくてやってたというか。でも、バンドが成長してメジャーデビューもして、音楽自体が「仕事」になるわけじゃないですか。これで食べていくためには、捨てなきゃいけないプライドもめちゃくちゃあるし、逆に「ここは絶対に譲れない」という部分もある。「プロとしてどうあるべきか」を最近はずっと考えていたんですけど、今回はそういう気持ちを一旦脇に置いて、ただひたすら「楽しい」だけで音楽を作ることができたし、おかげで自分たちがバンドを始めたばかりの気持ちを取り戻すことができた。そういう意味でもキタニには本当に感謝しています。

キタニ:今回みたいな気持ち、忘れちゃいけないなと俺も思った。いつかライブでこの曲を披露したいよね。

柳田:そうだね。そのあと盛大に打ち上げが出来る世の中に戻るといいなあ。

■リリース情報
神はサイコロを振らない × キタニタツヤ「愛のけだもの」 
配信はこちら

■ライブ情報
FM802 MINAMI WHEEL 2021
出演日:2021年10月10日(日)
会場:心斎橋 ライブハウス20ヶ所
時間:OPEN12:00/START12:30
詳細:https://minamiwheel.jp/

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