『Paddle』インタビュー
FARMHOUSE、ソロアルバム『Paddle』インタビュー SUSHIBOYSや環境の変化が生んだ、数年間のドキュメント
埼玉越生を拠点に、田舎生活から生まれたオリジナルの視点で描かれた「ダンボルギーニ」、「軽自動車」など、実にユニークな楽曲によって注目を集めながら、その一方でラッパーとしての高いスキルによって、同業者であるヒップホップアーティスト達からも高い支持を得てきたグループ、SUSHIBOYS。3年前にはメンバーの一人で、今回インタビューを行ったFARMHOUSE(ファームハウス)の実弟でもあるEVIDENCE(エビデンス)がグループを脱退し、現在はFARMHOUSEとSANTENA(サンテナ)の2MCのグループとして活動を続けており、さらにそれぞれソロアーティストとしても活躍している。
そんな中、今年8月にリリースされたのが、3年ぶりとなるFARMHOUSEのソロアルバム『Paddle』。強烈なインパクトを与えてくれるアルバムカバーからも、SUSHIBOYSのテイストとも直結する独特なオリジナリティが伝わってくるが、先行シングルであるkojikojiをフィーチャリングした「靴下」やEVIDENCEとのひさびさの共演曲「朝が来るまで」など、SUSHIBOYSともまた異なるカラーの、ソロならではの魅力が本作には詰まっている。
今回のインタビューでは、今回のソロの話に入る前に、改めてここ最近のSUSHIBOYSの流れを振り返ってもらうと共に、さらにソロアルバムの方向性や、EVIDENCEとの関係性、SUSHIBOYSの今後の展望などについても赤裸々に語ってもらった。(大前至)【インタビュー最後にFARMHOUSEによる全曲解説音源あり】
『死んだら骨』を作り上げている時は、マイナスからゼロに向かってた
ーーSUSHIBOYSとして、この2、3年は大きく状況が変わったタイミングでもあったと思いますが、ご自身ではどのように感じていますか?
FARMHOUSE:EVIDENCEが脱退して以降っていうのが、結構大きな区切りになっていて。SANTENAと自分だけになって、見る方向を一緒にしていかないとなっていうのはありましたね。3人で曲を作っていた時は、一人一人の個性がトラックに乗れば成り立ってるみたいな感じだったんですよ。でも、2人体制になってからは、単に個性を出しても、ただまとまらない曲みたいになってしまうので、そうならないように結構気をつけてました。
ーー最初の頃って、“何でもあり”っていうのがSUSHIBOYSだったと思うんですけど、それが変わっていったと?
FARMHOUSE:そうですね。例えば(1stアルバムの)『NIGIRI』の頃の曲の作り方って、本当に遊びの延長だったんですよ。そこには計算もないし、ほぼ無意識のまま作っていて。そういう作り方が一番楽しかったけど、どんどん聞いてもらえるようになって、少しずつ忙しくなっていく中で、メンバー間の人間関係が明らかに変わっていって。今だから言える話ですけど、最後に3人で作った『350』なんて、誰一人同じスタジオでREC(録音)していなくて。全員バラバラで録って、完成した時に初めてお互いのバースを聞いたみたいな。『NIGIRI』と『350』は全然違う人たちが作っていると言っても過言じゃないくらい、あれはマジで最低で最高のアルバムですね。
ーー2人体制になって最初のミニアルバムの『死んだら骨』では、「SANAGI」とか「DRUG」といった、新たなSUSHIBOYSクラシックも誕生したわけですが、どこかで大きく意識が変わったタイミングはありましたか?
FARMHOUSE:やっぱり「SANAGI」ですね。EVIDENCEの脱退後、メンタリティ的にボロボロになっていて。とにかく、その感情を叩きつけるみたいな気持ちで作ってました。『NIGIRI』の時はゼロからプラスを見て作ってる感じだったんですけど、『死んだら骨』を作り上げている時は、マイナスからゼロに向かってたというか。それが単純に曲にも表れたっていう感じはあります。
ーー『死んだら骨』でのエモーショナルな空気感っていうのは、必然的な流れだったわけですね?
FARMHOUSE:必然です。今は結構調子が良くなってきちゃったんで、ああいうのは作れない。もし聞きたかったら、もう一回俺のメンタルをボコボコにしてくれっていう感じですね(笑)。
ーー一方で、去年リリースした『SUSHIBOYSの騒音集 VOL.1』は、また全く違うテンションですね。
FARMHOUSE:鬱(うつ)からの躁(そう)状態。「関係ね~ぞ!」みたいなバイブスでしたね。
ーー去年末には恵比寿リキッドルームで、SUSHIBOYSの初のワンマンライブもあったわけですが、2人体制のSUSHIBOYSとしての形というのは完成した感じでしょうか?
FARMHOUSE:多分、そうなのかな? ずっと変わっていってるので、なんとも言えないんですけど。でも、SUSHIBOYSイズムじゃないけど、なんかそういう感じは常にあると思います。
『Paddle』は純粋に音楽を楽しむという感覚
ーー今回のソロアルバム『Paddle』ですが、まず先にSANTENAさんがソロEP(『I want a car』)を今年4月に出していましたが、今年はそれぞれソロを出すタイミングみたいなのがあったわけでしょうか。
FARMHOUSE:タイミングは特に考えてなくて。自分が(2018年リリースの)『PEDAL』を出した時から、SANTENAもソロを出したいっていう話をしてて。でも、なかなか本人が納得いくものが出来てなかったみたいで、ずっと作り続けてきたものが、ようやく今年出て。SANTENAが出したんで「じゃあ、次は俺出すか」っていう感じで作り始めました。
ーーつまり、今回のアルバムを作り始めたのは今年に入ってから?
FARMHOUSE:そうですね。自分は1年前の曲とか聞けなくなっちゃうタイプで。短い期間に集中して作ったほうが、自分自身、満足したものが作れるので。
ーーSANTENAさんのソロEPの前に、今回のアルバムにも収録されている「靴下」がシングルとして先行リリースされていますが、あの曲の位置付けは?
FARMHOUSE:あの曲は全然アルバム用ではなく一番最初に出来上がっていた曲で。ぶっちゃけシングルだけで出そうと思っていたぐらい。でも、せっかくならアルバムにも入っていたほうがいいかなと思って入れました。
ーーあの曲にはkojikojiさんをフィーチャしていますが、どのように作られたのでしょうか?
FARMHOUSE:「何も考えたくない」と思って、フィリピンに1カ月くらい行っていた時期があって。語学学校に通ってたんですけど、そこでランドリーに自分の洗濯物を出して、次の日に返ってくるサービスがあったんです。そこで靴下が片方だけ返ってくることが何日か続いたんですよ。「これどういうことなんだろう?」と思って考えてたんですけど、「あっ、これを曲にしろって意味か?!」みたいな。
ーーガイダンスみたいなものがあったわけですね。
FARMHOUSE:はい。そこから自分でフックを作って、次はどうしようかな? って考えた時に、自分の頭の中にあった雰囲気に一番合ったのがkojikojiちゃんで。それで連絡したら、快く受けてくれて。
ーーkojikojiさんのパートは靴下をメタファーにして男女関係について歌っているわけですけど、今の話だと、FARMHOUSEさんのパートはまたニュアンスが違うわけですね?
FARMHOUSE:僕は靴下についてですね。もう片方の靴下を、本当に返して欲しかっただけです。
ーーメタファーでも何でもなく。
FARMHOUSE:(笑)。靴下について歌ってますね。でも、受け取り方は人それぞれなんで、どう解釈してもらっても大丈夫です。
ーー「靴下」を経て、ソロアルバムの制作を始めたタイミングで、全体像は何か頭の中にありましたか?
FARMHOUSE:テーマ的なものは特になかったんですけど、ざっくりと「自分の好きなものをただ出そう」って、純粋に音楽を楽しむという感覚で作り始めました。
ーーSUSHIBOYSとソロでは、制作面などやはり違いはありますか?
FARMHOUSE:全然違いましたね。SUSHIBOYSだったら、だいたい自分がフックを作ってバースを書いて、そこにSANTENAがバースを乗っけて出来上がりなんですけど。あいつが奇想天外なことを2バース目でやってくれるから、それで結果、SUSHIBOYSが完成する。
ーー一方で、ソロは自分自身で世界観を作り上げないといけないという。
FARMHOUSE:そういう部分での難しさは感じましたね。けど、逆に面白さもあって。全部自分でやっていいんだっていう。あと、逆にどこまでもやれる大変さもありましたね。ゴールは自分で決められるので、納得いかないと何回でも繰り返すことが出来る。それはそれでソロって大変だなって。
ーー具体的に、アルバムの制作はどのようにスタートしたのでしょうか?
FARMHOUSE:最近はトラックメイクにハマっていて、ビート作りをするが好きになっていて。その延長で、自分のトラックに自分の声を乗せて作れたら、自分の本当に思った形の世界観を作れるな、というところから始まりました。だから(自分でトラックを作った)「WALL」とかは結構早い時期に出来ました。ある時、SANTENAに「お前、ロックスターみたいな髪型とか格好してるくせに、ギター弾けねえじゃん!」って言われて。そこからギターを弾こうと思って、ギターをちょっと練習して作った曲なんですよ。
ーー「WALL」以外にも、今回のアルバムはギターが乗っている曲が多いですよね?
FARMHOUSE:自分でも弾いてたからだと思いますし、ギターの音が単純に好きだからかもしれないです。今聞いている曲もギターが入ってる曲が多かったですし、そういう流れなのかな? って。
ーー具体的にはどういったタイプの曲を聞かれてたんでしょうか?
FARMHOUSE:ジャンルとしてはベッドルームポップだったり、インディポップとかハイパーポップですね。そういうジャンルの曲にもギターサウンドが多かったので、無意識に影響されたところはあるかもしれないです。
ーー今回はタイプビート(様々なトラックメーカー/プロデューサーがYouTubeなどインターネット上で発表している、ラッパーに向けて作られたインストトラック)を使った曲も多いですが、自分のトラックとタイプビートでは、どのように使い分けているんでしょうか?
FARMHOUSE:全部を自分のビートにしたアルバムだと濃すぎるというか、偏っていく感じが結構あって。そのバランスを取ろうとしたところはありましたね。
ーー今回のアルバムタイトルの『Paddle』はどこから来たんでしょうか? 前作の『PEDAL』と音的にも似てますが……。
FARMHOUSE:もう、ホント、そのままです(笑)。特に意味はなくて。言葉遊びみたいなものですね。後付け的に言うならば、インディペンデントでやってるんで、自分たちの船で自分たちの好きなようにゆったりのんびり漕いでいくみたいな、そんなイメージですね。