中島美嘉、20年間の軌跡を辿る“シンガーとしての物語” 観客の未来を照らすように歌った『JOKER』ツアーファイナル

 ライブの中盤では、観客との会話ができない代わりにTwitterを通して募集した質問コーナーが設けられ、客席からは温かい拍手が巻き起こった。

 森三中とコラボしたロックナンバー「I DON’T KNOW」から始まった第3幕では、黒いパンツにハイヒール、白いシャツに黒いローブを羽織って、音楽の多彩さが表現された。困難に立ち向かう全ての人に送るエールソング「LIFE」、相反する2人の間で揺れる恋心を歌ったラブソング「A or B」、60年代の女性だけのサーカスをテーマにした「CANDY GIRL」、ジャズファンクナンバー「ONE SURVIVE」、80年代風のダンスポップ「LONELY STAR」、セカンドラインのビートを導入した「ALL HANDS TOGETHER」……と、時代も国境もジャンルも自由自在に横断。陶器の人形のように見えたバレリーナと、前で組んだ手をそのまま背中まで高速で移動させるロボットのような舞踏家のダンスのコントラストも、見応えがあった。

 真っ赤なドレスに着替えた第4幕に名を付けるなら、「さまざまな愛のかたち」。ドラマ『漂着者』(テレビ朝日系)の挿入歌に起用された新曲「知りたいこと、知りたくないこと」で、愛は永遠ではないことを知っている大人のラブバラードを歌い上げると、「桜色舞うころ」では優しく柔らかい歌声で移ろいゆく恋人たちの心象風景を描いていく。Netflixドラマ『FOLLOWERS』劇中歌の「innocent」もラブバラードだが、“君を思うだけで苦しい”という年齢には関係ないピュアな恋心を歌っているかのように感じた。そして、玉置浩二が作詞作曲を手がけた「花束」で歌われる〈道を教えてくれて/ありがとう! もう迷わない 歩き出してみる〉というフレーズは、観客やファン、全てのリスナーに対する中島の思いのようにも思えた。MCが苦手な彼女がこの歌に託したのは、全ての苦しみや痛み、涙や笑顔を温かい歌の花束にして返したいという、未来に向けた決意表明だろう。深々とお辞儀をしてから歌い出した本編ラストナンバー「雪の華」では、客席に華奢な腕を真っ直ぐに伸ばして、〈ただ、キミとずっと/このまま一緒にいたい〉と心から願うように歌いかけた。

 アンコールでは、デビュー記念日を含む11月7日・8日にBLUE NOTE TOKYOでの初ライブ開催を発表し、「この曲から20年経ちました。デビュー曲です」と言って、1stシングル曲「STARS」、そして5thシングル曲「WILL」をメドレーで歌唱。共に秋元康が作詞、川口大輔が作曲、冨田恵一が編曲している。前者は中島のドラマデビュー作『傷だらけのラブソング』(フジテレビ系)主題歌で、後者は『天体観測』(フジテレビ系)の主題歌だ。さらにアプリゲーム『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』主題歌で、ベートーヴェン「交響曲第5番(運命)」のフレーズがサンプリングされた新曲「SYMPHONIA」を初披露。ピョンピョンと飛び跳ねながら歌いきった彼女は、最後に「皆さんの明日がどうか幸せでありますように」と観客に語りかけ、ファンとの絆が詰まった「A MIRACLE FOR YOU」を歌った。この曲は10年前、耳の不調によってキャンセルを余儀なくされたアニバーサリーライブで、直接ファンに謝りたいと会場を訪れた彼女に対して、集まったファンが歌った思い出深い楽曲だ。彼女は観客一人ひとりの目を見て、〈星屑を集めて明かり灯し 道を創るよ〉と心の在りかに語りかけるように歌った。探していた彼女の道を作ったのはファンであり、だからこそ今度は彼女がファンの前に立ち、その先の道を作っていくという想いの表れに聞こえた。

 一通り歌いきり、メンバー全員で挨拶を終えて、あとはステージを降りるだけというタイミングで、彼女は急にマイクを手にし、涙を堪えながら裏方であるスタッフへの感謝を話し始めた。「1曲だけ、スタッフに送りたいんです」と、サプライズで未発表の自作曲を披露。「どんな時でも寄り添ってくれた君の前では僕をさらけ出せる」という内容の歌詞を聴きながら、20年目の今、彼女は伸び伸びと自由に、ありのままの自分で活動できていることがわかり、ほっとした。手紙ではなく音楽で伝えるのも彼女らしいが、スタッフやファン、全ての人に対して誠実に優しく向き合っていることが伝わってくる歌でもあった。

 彼女が今後どんな道を歩んで行くのかはわからない。でも彼女の周りには、彼女を愛し、支えるたくさんの“君”がいる。そんな“君”がいる限り、中島美嘉の物語はこれから先もずっと続いていくだろう。

中島美嘉 Official Site

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