振付から紐解くJ-POPの現在地 第10回:GANMI Sota Kawashima
GANMI Sota Kawashimaが見据える、国内ダンスシーンの未来 自身のルーツやボーイズグループの今も語る
レベルが上がっていく日本のボーイズグループシーン
――日本と韓国のボーイズグループの大きな違いはどこにあると思いますか?
Sota:練習量だと思います。1つの振りや作品にかける時間と労力が大きく違っていて、韓国のほうが圧倒的に多いです。これを言うと日本の振付の仕事が来なくなっちゃうかもしれないですけど、日本も負けずに頑張ってほしい。ただ、日本はアーティスト本人とコミュニケーションを取れるからいいですよね。振り付けに関して「こうしたい」、「こっちのほうが良い」という話ができるとやりがいがあるし、やっていて良かったって思います。例えば、w-inds.は振りに対してとても前向きに取り組んでくれています。「いい作品を作るためにこういうダンスがほしい」と作品とダンスをイコールで結びつけて考えてくれているからとても楽しいです。
――とはいえ、以前と比べると今の日本のダンスのレベルは全体的に上がっていると感じます。この傾向をどう見ていらっしゃいますか。
Sota:確かにそうなんです。昔っていわゆる“アイドル”が踊るダンスと、僕らダンサーが踊るダンスって全く違うものだったじゃないですか。例えば速い音を細かい音符で取るというのはダンサーのダンスとされていたんですけど、いつからかミックスされていって、「この人たちのダンスすごい。プロじゃん!」と思うことも増えてきています。特にボーイズグループに関してはプロのダンサー、プロのコレオグラファーが作ったものをそのまま取り入れている。僕はその最初がBTSだと思っていて。日本でも難しくて細かくて速いダンスが取り入れられてきていますよね。これもBTSからの流れなんじゃないかな。
――BTSといえば、「Butter」の振付にも携わられていますよね。提示した振りとBTSがアウトプットしてきた振りが少し変わっていたということですが、そのアウトプットを見た時はどんな感想を持ったのでしょうか。
Sota:さすがだなと思いました。BTSとコレオグラファーの間に、パフォーマンスディレクターと言われている人がいるんですね。僕ら振付師も試行錯誤するんですけど、このパフォーマンスディレクターが核を担っていて。アーティストのことも、ファンのことも、僕らが提示した振付のことも考えてブラッシュアップしているのが伝わってきました。僕はその作り方自体をリスペクトしていて、すごいなと感じました。
――クオリティが高いからこその苦労もありそうですね。
Sota:プレッシャーはありますね。例えば、韓国では音楽番組などフルでパフォーマンスをする機会がすごく多いんです。なので全てにおいて全力じゃないければいけないというプレッシャーと労力はあるかもしれないです。
――そういった面も、K-POPのクオリティの高さに関わってきているのかもしれませんね。
Sota:あとK-POPは曲の展開もかっこいいですね。同じパートの振りをわざと同じにして、違うパートは圧倒的に違う振りを作るのが得意ということもあって、Aメロ、Bメロ、サビ、2コーラス目……っていう展開が毎回刺激的で振付もしやすいです。サウンド面でもクオリティが高いです。基本的に振付師ってデモ音源を聴いて振りを作っていくんですね。そのデモ音源のクオリティがかなり高い。振りを作ることを考慮していただいているのかもしれないですけど、デモでもミックスされています。
――日韓両方のアーティストを手がけているSotaさんだからこそ、学びや気付きも多そうです。
Sota:一番勉強になったのは、自分の振付がどうやって発信されるのかという過程。BTSという世界的に人気なグループの作品作りに携われたということも大きいですが、その過程を一部でも知れたのが一番の学びでした。
「上手くなる」のは目的の一つでしかない
――その一方で、オーディション『ONE in a Billion』のダンスディレクターも務めています。ワークショップも開催していますし、ダンスをやっている若者を見る機会も多いですよね。
Sota:今はダンスが上手い子が多いですよ。TikTokやInstagramで発信するのが主流になっていて、上手な人はすごく上手。それも素晴らしいことだと思うんですが、「ただ上手い子」が増えている印象があって何がしたいのかが見えづらい。「上手くなる」というのはダンスの目的の1つでしかないんですけど、それが唯一の目的になってしまっていて、何がしたいかという目標が無い人が多い印象です。でもそれは、自分たちより上の世代がその場所を作ってこなかった、どこを目指せばいいかの指標を作ってこなかったからだろうと感じています。「ダンスが上手くなってどうなれるの?」の答えを作るためにも、GANMIがもっと活躍しないとなって。
――今はまだダンサーが活躍する土台がない、と。
Sota:ダンスが上手い人がメディアにあまり出ていないのが今の日本。そうなると、ダンスが上手くなっても上にいけるわけじゃないですよね。それはダンサーに対するファン文化がないからだと思っています。自分のダンスを好きになってくれる人がいるって素晴らしいこと。ファンがいるとダンスを練習する一つの理由ができて、ダンサーの在り方も変わってくると思います。僕も最初は自分のダンスをたくさんの人に見せたいっていう気持ちで踊っていました。
――ダンスでエンターテインメントを表現して、ファンを増やしていくというGANMIの姿に重なる部分がありますね。
Sota:GANMIはライブという1時間半の作品を、お客さんにどう楽しんでもらうかを一番に考えています。僕らはダンサーであり、大人数でもあるので、振付とクリエイティブ次第で何でもできるんですよ。そこのバリエーション、見せ方に関してはGANMIの右に出る者はいないと思っています。ただ、次に残さないとダメだと思っているので。GANMIが今以上に有名になったら、育成もやると思います。
――これからのキャリアとしては何か考えていることはあるりますか?
Sota:第一にGANMIというダンサー/アーティストとして、行けるところまでいきたい。GANMIは日本のエンターテイナー代表になってもおかしくないとも思っています。その先に第2のGANMI、第3のGANMIが出てきたら、自分たちがやってきたことに意義ができる。そのもう一個先に、女性のダンスパフォーマンスグループを作れたらいいな、と。
――なぜ女性グループなんでしょう。
Sota:日本では、女性ダンサー=ソロという文化が育ちすぎています。僕の生徒も女の子が多いんですけど、この子たちが将来どうなっていくんだろうって考えると具体性がなさすぎるんですよ。MV出演やバックダンサーの道もありますけど、正直ビジュアルで選ばれることも多いんですね。もっと個性が際立っている女性のチームがあればすごく面白いのになって。難しい部分もありますけど、実現していけたらいいですよね。
――なるほど。ダンス界全体を変えていくことにも繋がりそうですね。では最後に「今のダンスシーンをこう楽しんでほしい」というメッセージをお聞きしたいです。
Sota:ダンスを楽しむなら、やっぱりGANMIが一番面白いと思います。GANMIを見てしまうと他が物足りなくなってしまうかもしれないですけどね(笑)。でも、日本のダンスシーンは世界一なので、国内であまりフィーチャーされていない今こそ楽しめる時期なんじゃないでしょうか。