JIMSAKUはなぜ活動再開に至ったのか 30周年プロジェクトの結実、アルバムに込めたユニットの今の音楽性

JIMSAKU、ニューアルバムに込めた今の音楽性

幅広い音楽性を取り入れながら、リラックスして作れた

ーー最初に作った「JIMSAKU IN THE HOUSE」は「JIMSAKU BEYOND」というアルバムタイトル曲になりましたが、この曲とダイレクトカッティングのイベントで披露した「FUNKY PUNCH」と「FIREWATER」は、お二人の楽器のテクニックや音色を聴かせる楽曲ですね。

櫻井:そうですね。デュオ曲は、新曲ではありませんが、「FUNKY PUNCH」は、当時よりも、エンディングに向けて更にアレンジを加えて、スリル満点にしました。ただあまりマニアックなアルバムにしたくなかったので、他の新曲は聴きやすいものを意識しています。

ーーポップなものという意味ではいくつかボーカル曲がありますが、冒頭の「INSPIRATION」は元Fried Pride(フライド・プライド)のShihoさんをフィーチャーした曲で、めちゃくちゃかっこいいですね。

櫻井:ありがとうございます。僕はここ数年、彼女とデュオライブをやっているので、最初からShihoさんをゲストにした曲を作りたいなと思っていたんです。実はこの曲の前に別の候補曲を神保くんに聴いてもらったのですが、「これだとShihoさんの良さが出ない」とダメ出しをくらって、悔しいので(笑)。それでもう一度作り直したのがこの「INSPIRATION」です。ファンキーでジャズっぽくて、メロディをスキャットで楽器のように歌うという曲ですね。

神保:この曲は櫻井さんの近年の大ヒットだと思いますよ。

櫻井:神保くんのダメ出しのおかげです(笑)。

ーーピアノ、キーボードの小野塚晃さん、ギターのデワ・ブジャナさんを交えたバンド編成の理由は。

櫻井:とにかくバンド編成でJIMSAKUをやりたかったんです。それで、今のJIMSAKUだったら誰に頼みたいかな、という基準でメンバーも選びました。でも、神保くんの曲は基本的にはひとりでアレンジをするというスタイルがベースになっているので、それぞれの特性がありますね。

ーーこのバンドメンバーによる「THE ROAD OF THE WIND」は、往年のフュージョンのイメージに近いと感じました。

櫻井:神保くんと久しぶりに演奏できるので、彼との歴史を振り返りながら作りました。“風の道”という意味ですけれど、“風”は、お互いが歩んできた時間のイメージでもあります。

神保:この曲は櫻井さんの伝統的な曲作りだなと感じました。僕がちょうどカシオペアに入って間もない頃に『MAKE UP CITY』(1980年)というアルバムを作ったんですけれども、その中に櫻井さん作曲の「Pastel Sea」という曲があるんです。あまりライブで演奏する機会はなかったカシオペアの隠れた名曲なのですが、すごく好きで、その曲を彷彿とさせるものがありました。

ーーたしかにミディアムテンポのメロウな楽曲で、櫻井さんのロマンティストな一面が出ているのかなと感じました。櫻井さん作曲では、もう一曲「ASIAN ISLAND」がありますね。

櫻井:8ビートでアジアンテイストな曲ですね。シタールギターも入れてもらったんですよ。一曲くらいはこういったストレートな楽曲があってもいいかなと。僕は日本人の音楽家としてはすごくラッキーで、世界中で演奏させてもらえたし、アジアの一員という意識もすごくありますから。もちろん、バンドにはインドネシアのデワ・ブジャナもいるわけだし。いろんな意味でアジアであることを意識して書いた曲です。

神保:昔のJIMSAKUを彷彿とさせるところがありましたね。8ビートの曲はアルバムに1曲は入っていましたから。

ーー神保さんの楽曲のことも聞きたいのですが、先程話に出た「JIMSAKU BEYOND」は、やはりアルバムを象徴する曲ですね。櫻井さんの楽曲と違ってプログラミングでサウンドを作られています。

神保彰

神保:僕の曲はベースとドラム、そしてゲストの方は生で、それ以外は全部コンピューターという作りになっています。こういう作り方はこの10数年で作り上げてきたので、その手法をJIMSAKUにも導入してみようと思いました。

ーーでも一変して「TE AMO」は完全にラテンです。でも過去のJIMSAKUのラテンとはちょっと違って、今っぽいラテンサウンドですね。

神保:いわゆるフュージョンの枠からはかなり離れていますね。この曲はオルケスタ・デ・ラ・ルスのNORAさんをフィーチャーすることを前提にして作りました。だからNORAさんの声ありきの曲です。レゲトンのリズムでダンスフロアでもかかっていいようなサウンドに仕上げました。レゲトンってここ10年ぐらいずっと流行り続けているし、息が長いじゃないですか。演奏家からしてみるとそれほど魅力的なリズムではないのかもしれないですけれど、これだけ世の中にこのリズムが広まって存在し続けているってことは、DNAに訴える力があるんじゃないか思います。

櫻井:こういったすごくシンプルな曲を作ったことで、神保くんが作曲家としてすごく進化しているなと感じましたね。新しい空気を取り入れるというか。

神保:確かに一歩抜けた曲が作れたかなという感覚はありますね。ジャズやフュージョンのフィールドにいると、どうしても凝ったテンションコードを使いがちですけれど、それを一切使わず単純なドミソのコードで分かりやすく作ったので、逆にそれが自分の中でも新鮮でした。

櫻井:僕の曲はテンションコードが多いし、そういう曲ばかりだと聴いていて疲れちゃうかもしれない。そういった意味においても、非常にアルバムの幅を広げてくれる曲だと思います。30年前のJIMSAKUらしいラテンとはまったく違う新しい試みですね。

ーー神保さんの曲には「FARAWAY」というユニークな曲もあります。

神保:実はこれ、僕のボーカルデビュー曲なんですよ(笑)。メロディラインが民謡っぽい感じだったので、民謡歌手の方に歌もお願いしようと思っていたんです。でもレコーディングの数日前にスケジュールの都合がつかなくなってしまって、それでやむなく僕が歌うことになりました。

ーー怪我の功名ですね(笑)。でも本当にインパクトがあります。思わず笑ってしまうくらいのユニークさもあれば、シンセサイザーが浮遊感もあり、どこか現実離れしているというか。

神保:主旋律が七・七という音節だったのでこうしてみました。僕がよく散歩コースにしている遊歩道に、百人一首の下の句が書かれているところがあるんですよ。ある時散歩していると、この曲と百人一首がうまく結びついて、見事にはまりました。散歩もしてみるもんですね。ファンの方がどう受け止めてくれるのか、ちょっと怖いですが(笑)。

ーー「未知の先へ」は「JIMSAKU BEYOND」にメロディと歌詞が付いています。

神保:YouTube「JIMSAKU IN THE HOUSE」の企画に、すごくいいコラボ動画をあげてくれたシンガーがいて、それがLENくんでした。彼はピアノを弾きながら歌うシンガーソングライターです。一緒にやろうとオファーして、レコーディングの当日にスタジオで「初めまして」っていう流れでした。トラックはほぼ一緒ですが、インストの方はドラムソロ、歌モノの方がピアノソロと、微妙に違うところがあります。

ーーここまで印象が違う曲になるのに驚きました。インストの場合と歌が入る場合では、演奏は変わってくるのでしょうか。

神保:インストだから、歌モノだからということは特に考えないです。全体のサウンドのバランスや曲調によって変わってくるので、そこは気にしないです。

櫻井:僕も基本的には変わらないですね。楽曲のコンセプトによって違うぐらいです。

ーー最後の曲「アイノヒカリ」には、バイオリンがフィーチャーされていますね。

神保:曲ができた時に、バイオリンが似合うんじゃないかと思ったんです。誰かいい人を紹介して欲しいとお願いしたら、高松あいさんの名前が挙がってきました。この4月に芸大(東京藝術大学)を卒業したばかりの、まさに新しい才能の方です。若い方とコラボレーションしたいというところもあったのですが、何より彼女のバイオリンが素晴らしかったですね。

櫻井:バイオリンがとてもピュアな音色がするので、彼女の演奏にはとても説得力があります。アルバムの最後に収められているので、とても癒される曲ですね。

神保:この曲もレコーディングで「初めまして」からスタートしました。クラシック畑なのでアドリブはどうなのかは未知数だったのですが、バイオリンのソロパートでは自由に弾いていただき、すごくいい感じになったと思います。

ーー『JIMSAKU BEYOND』は24年ぶりのオリジナルアルバムとなりましたが、出来上がってみてどういうアルバムになったと思いますか。

神保:二人だけで演奏している曲を挟んで、前後にボーカル曲が入っているので、なんとなく三部構成のような感じがします。そのデュオ曲はコアなファンには納得の内容だと思いますし、前後は一曲ごとに世界観が違っていろんな人がゲストに入っているので、そういう意味では本当に面白いアルバムになったんじゃないかなと思いますね。

櫻井:とても色々な意味で、幅があるアルバムができたと思います。あとは、二人とも還暦を過ぎた年齢ということもあって(笑)、適度に力が抜けていて、どんな曲でもリラックスして弾いているような印象はあるんじゃないかな。30年前のアルバムを聴くと凄いエネルギーとパワーを感じるので、人によっては同じグループの作品という印象はないかもしれないですね。とにかく幅が広くてリラックス、というのがこのアルバムの印象です。

ーー確かに幅が広いし、ベテランならではの余裕のようなものも感じます。

神保:お互い年齢を重ねることで脱力することを覚えたというか。そこに余裕を感じられるのかもしれないですね。

櫻井:幅広い音楽性を取り入れながら、リラックスして作れたというのはありますし、とにかく作っている過程が楽しかったアルバムですね。 

ーー本当に聴き応えのあるアルバムだと思うのですが、JIMSAKUとしては、今後新しい展開はあるのでしょうか。

神保:あくまでも30周年の企画ということもあるし、お互い忙しいのでアルバム制作はしばらくはないでしょうね。やるとしたら40周年。その頃には僕らも70歳を過ぎているので、体力が許せばまた同じようにアルバムを作るかもしれない(笑)。

櫻井:コロナ禍でなかなかライブが出来ないですが、『JIMSAKU BEYOND』を生で再現するライブはどこかのタイミングでやりたいですね。それまではじっくりとアルバムを楽しんでいただければと思います。

■リリース情報
『JIMSAKU BEYOND』
発売:2021年7月28日(水)
初回限定盤【CD+Blu-ray】
価格:¥5,500(税込)  
通常盤【CD only】 ※収録内容は初回限定盤と同じ
価格:¥3,300(税込)

キングレコード JIMSAKUオフィシャルサイト
https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=46133

JIMSAKU30thプロジェクト Twitter
https://twitter.com/jimsaku30th

JIMSAKU 30th Project Youtubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCpyrb96S4XhtQ5aBPd1Nt2A

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