Homecomingsの音楽が併せ持つ“優しさと強さ” 最高のライブ繰り広げた『Moving Days』ツアーファイナル公演

 7月23日金曜日。メジャーデビューアルバム『Moving Days』のリリースツアーのファイナルとして、Homecomingsワンマンライブが行われる渋谷クラブクアトロのフロアに入った。開演前のBGMで聴き覚えのある歌声が流れている。キャット・スティーヴンス? 今年のレコード・ストア・デイで、彼の歌が全編に使われた映画『ハロルドとモード』(ハル・アシュビー監督/1972年)のサウンドトラック盤がLPレコードで復刻され、僕もちょうど今日この会場に来る前に買ったところだった。

 ホムカミ(Homecomings)のライブ前BGMは、彼らがチョイスしてると思う。僕はちょうど場内に入ったばかりで、キャット・スティーヴンスのどの曲なのか調べる(Shazamとかで)時間がなかったし、あのサントラの曲じゃなかったかもしれない。だけど、メンバーの誰かが、いやきっと全員があの映画を好きだろうと確信できる。もしホムカミのファンで『ハロルドとモード』を見たことがない人がいたら、いまはわりと簡単に見られるのでぜひ。ある意味、年齢や性別や時代を置き換えた『愛がなんだ』(今泉力哉監督/2018年)とも言えるから。いまさら説明するまでもないが、『愛がなんだ』はHomecomingsの「Cakes」がエンディングテーマとして使われた映画だ。そんな連想をしていたらメンバーが舞台に現れ、ライブが始まった。1曲目は、その「Cakes」だった。まるで僕の妄想に「そうなんですよ」と相槌が打たれたみたいな気持ちになった。

 2曲目に「Songbirds」。映画『リズと青い鳥』(山田尚子監督/2018年)のエンディング主題歌で、まだ歌詞は英語だったけど、「Cakes」と同様にホムカミのキャリアを大きく前に動かした曲だ。そして新作から「Pedal」。動き出した運命に流されるのではなく自分の意思で先に進もうとするように言葉が響く。まだ3曲しかやってないし、ほとんどMCもしてないのに、彼らがこのツアーに込めていた思いといま現在のホムカミの居場所を示してもらった気分になった。

 続く「Herge」で畳野彩加はギターからキーボードへ。アルバムでもキーボードの使い方が印象的だったこの1曲だけかと思いきや、このあと「Good Word For The Weekend」「Summer Reading」「Tiny Kitchen」と、新作から立て続けに演奏された4曲ではずっとキーボードを弾いていた。

 そのセッティングの都合でもあるのだろうけど、ステージでのメンバーの配置も変わった。左から畳野(Vo/Gt/Kb)、福田穂那美(Ba/Cho)、石田成美(Dr/Cho)、福富優樹(Gt)という並び。これまでの畳野センターを見慣れてきた目にも新鮮だし、奥に位置しているとはいえ横並びに近い構成になり、リズム隊の福田と石田の存在感も増す。このアンサンブルは、ライブを重ねていくことでどんどん可能性が増えていくようにも思う。そう、名古屋・大阪・東京の三都市ツアーだったとはいえ、「ライブを重ねる」という機会がひさしぶりに持てたのもバンドの呼吸にとっては何よりいいことだったはず。

 ライブの中盤、福富は新作発売時のインタビューでもよく言及していた「優しさを強く持つこと」について、この日もMCで触れた。初めて日本語詞にアルバムとして取り組んだ前作『WHALE LIVING』(2018年)から意識していた「優しさ」というテーマ。他者への寛容や傷みに対する包容力としても優しさは使われがちだが、福富の書く歌詞ではそこに「自分を信じて行動する強さ」が加わるようになった。相手に合わせて押し黙ること、社会で起きていることをなあなあで受け流してしまうこととは違う。英語詞の頃から彼らはずっとそのことを考え続けていたと思う。

 日本語詞に転換したとき、畳野のボーカルを通じて歌われる言葉の感触は少し柔らかくなったと感じた。だが、聴きやすさを獲得した彼らは英語だった世界から別の世界に引っ越ししたのではなく、そこにあった世界をちゃんと引き継いで、強い思いで次のステップに進んだのだと僕は思っている。終盤で演奏された2ndアルバム『SALE OF BROKEN DREAMS』(2016年)からの「MORE SONGS OF PAIN」みたいな曲は、ホムカミにとって古い日記をめくったノスタルジーではなく、過去を消し去らずともに生きていくことの表明だろう。

 最初のアンコールでは「Moving Day Pt.2」のプロデュースも担当したサイトウ"JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)をオルガンで迎えた。「Moving Day Pt.2」から「I WANT YOU BACK」へ向かう直前、畳野が「今日は立ってもいいライブなんですよ」とMCしたら総立ちになったのが可笑しかった(椅子ありライブだったので)。みんなずっとムズムズしていたんだ。最高のライブだったから。

■セットリスト
1.Cakes
2.Songbirds
3.Pedal
4.Herge
5.Good Word For The Weekend
6.Summer Reading
7.Tiny Kitchen
8.Smoke
9.Blanket Town Blues
10.Continue
11.MORE SONGS OF PAIN
12.Blue Hour
13.PERFECT SOUNDS FOREVER
14.Here

En1.Moving Days Pt. 2(GUEST:サイトウ "JxJx" ジュン)
En2.I WANT YOU BACK(GUEST:サイトウ "JxJx" ジュン)
WEn.HURTS

Homecomings公式HP

関連記事