HOWL BE QUIET『歴代の仲間入り EP』インタビュー:竹縄航太が再認識した、発信し続けることの大切さ

HOWL竹縄航太、発信し続けることの大切さ

 HOWL BE QUIETが7月12日に新作『歴代の仲間入り EP』をリリースする。昨年、「ラブフェチ」(アルバム『Mr. HOLIC』収録)がTikTokを中心に拡散され、10代、20代のリスナーの支持を得た彼ら。リード曲「染み」(TVアニメ『迷宮ブラックカンパニー』オープニング主題歌)のほか、「ベストフレンド」「コーヒーの歌」「ラブフェチ -歴代の仲間入りver-」を収めた本作は、優れたポップネスを備えたバンドサウンド、そして、切なくも愛らしいラブソングを軸にしたこのバンドの魅力がストレートに表れた作品となった。コロナ禍のなかで改めてバンドと自分自身に向き合い、「どんなことがあっても音楽を発信し続ける」という決意に至ったという竹縄航太(Vo/Gt/Pf)にこの1年の音楽観の変化、『歴代の仲間入り EP』についてじっくりと話を聞いた。(森朋之)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

自分たちがやりたいことを形にして、その届け方を考えるのが大事

HOWL BE QUIET竹縄航太(写真=林直幸)
竹縄航太

ーー『歴代の仲間入り EP』、素晴らしいです。HOWL BE QUIETらしいポップミュージックがたっぷり楽しめる作品だなと。

竹縄航太(以下、竹縄):嬉しいです! ありがとうございます。

ーー本作のリリースにあたって竹縄さんは、「不恰好でも、泥水をすすっても、音楽を続けたい。音楽を届けたい。その一心で走ったこの一年間の集大成が、このEPです」というコメントを発表しました。これはもちろん、コロナの影響を受けての言葉なんですよね?

竹縄:そうですね。全世界が大変なことになったわけですけど、音楽の在り方も大きく変わってしまって。言葉を選ばずに言えば、音楽がなくても生きていけることが証明されてしまったとさえ思っているんです。もちろん衣食住が優先なのはわかっていますし、人間の命を守るために仕方がないことも理解していますが、音楽が真っ先に切り捨てられたことが本当に寂しくて。僕らもツアーがなくなったり、厳しい現実に直面しましたからね。楽曲のリリースもツアーと紐づいていたので、ツアーができなくなって、「リリースを見送ろうか」という話になって。これまでは活動の軸がライブにあったんですけど、それがなくなった以上、必死につながりにいかなくちゃいけないと思うんですよ。個人的にツイキャスで弾き語り配信をやっているのも、その一つなんですけどね。

ーーライブ以外の方法で、オーディエンスとコネクトする手段を持つ。本当に必要なことですよね。

竹縄:人との付き合いと同じですよね。たとえば恋人でも、頻繁に会っているときは、普段からその人のことを考えたりするじゃないですか。でも、しばらく会わないと思い出す回数が減ったり。バンドとファンも似たところがあって、ライブで会えれば普段も思い出してもらえるんだけど、それがないと忘れられてしまう気がして。そうならないためにも、こっちから発信しないといけないなと。

ーーもちろん「ラブフェチ」がTikTokでバズったことも大きいですよね。

竹縄:はい。10代、20代の間で、TikTokがここまで生活の中心になっている実感がなかったんですよ。自分たちの世代はTwitterやInstagramがメインだったけど、下の世代は全然違っていることに初めて気づいて。もちろんTikTokでもTwitterでもYouTubeでも、自分たちの音楽を知ってもらえればこんなに嬉しいことはないんですけど、「ラブフェチ」がTikTokで広がったことでTikTokのことをもっと知りたいと思ったし、そこに向けて全力で発信したいなと。先ほども触れた僕の弾き語りにしても、見方によっては「歌の安売りじゃない?」と感じる人もいると思うんですが、「それでもいいから発信したい」という気持ちが強いんですよね。

ーー音楽の発信方法の変化は、楽曲の制作にも影響しているんですか?

竹縄:それは変わらないかもしれないですね。正直に言うと、たくさんの人に「ラブフェチ」を聴いてもらえたタイミングで、「『ラブフェチ』ライクな曲を作るべきかな」と脳裏によぎったことはあるんですが、そういう作り方をした曲が届かなかったとき、誰のせいにしていいかわからないし、後悔するだろうなと。そうじゃなくて、自分の歌いたいこと、自分たちがやりたいことを形にして、その届け方を考えるのが大事だなと。TikTokで今までの曲のMVの一部を抜粋してアップしているのも、それをきっかけにして曲を聴いてほしい、他の楽曲にも興味を持ってほしくてやっているので。

ーー大切なのはあくまでもきっかけ作り。一度バズると、半年〜1年くらいヒットし続ける傾向もありますからね。

竹縄:そうですね。「ラブフェチ」を聴いてもらえるようになってから1年以上経ちますけど、今もカバー動画を投稿してくれている人もいるので。嬉しいですね、ホントに。

ーーバンドの状況が大きく変わるなか、メンバー同士の関係性、音楽に向き合うモチベーションも変化しているのでは?

竹縄:去年は会う機会が減ってしまったので、そのぶん、オンラインでコミュニケーションを取るようにしていて。「今メンバーが何をやってるのか」「どんな熱量なのか」というのはわかりづらいけど、たとえば「この曲をどう料理していこうか?」というときの温度感を感じると、「大丈夫だな」と思えるんですよね。とにかく「何があっても音楽を続けたい」という気持ちは4人ともすごく強くて。それがある限り大丈夫だし、心配はしてないです。

この年齢だからこそ表現できること、歌えることもある

HOWL BE QUIET竹縄航太(写真=林直幸)

ーーでは、新作『歴代の仲間入り EP』について聞かせてください。リード曲「染み」は、バンドらしい躍動感と際立ったポップ感が共存した楽曲です。

竹縄:「染み」は、アニメ(『迷宮ブラックカンパニー』)のオープニング主題歌のお話をいただいてから制作しました。昔からアニメは大好きだし、『迷宮ブラックカンパニー』の原作を読ませてもらったときに、「このブラックユーモアを活かせば、新しいHOWLの楽曲に挑戦できそうだな」と思って。「よし!」という手ごたえのある曲が出来たんですけど、メンバーやスタッフに聴かせたら、まあ不評で(笑)。もう1曲、違うパターンで曲を作ったんですけど、それもウケが良くなかったんですよ。

ーー身内からのダメ出しが……。

竹縄:はい(笑)。その段階で「渡辺拓也さんと一緒に作ってみたらどうだろう?」という話になって。渡辺さんは『DECEMBER』(1stアルバム/2013年)、『BIRDCAGE.EP』(1st EP/2014年)にアレンジャー、プロデューサーとして関わってくれて、すごく信頼している方で。7年ぶりくらいに一緒に制作したんですけど、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。コライトに近い形というか、渡辺さんが「こんなビート感はどう?」「こういうコード進行は?」と提示してくれて、それに対して「だったらこうしたい」と意見を返して。まずトラックを作ってから、歌を乗せていきました。誰かとキャッチボールを繰り返して作るのは初めてだったし、新鮮でしたね。

ーーコライトの意義も感じられた、と。

竹縄:(コライトは)本来、性に合っていない気がするんですよ。自分がやりたいことが出来なくなるんじゃないか、歯がゆさを感じるんじゃないかなと。自分ひとりで完結させたほうがいいだろうなと思ってたんですけど、渡辺さんとの作業は本当に楽しかったです。コライトに対する自分の常識も変わりましたね。

ーーアニメ『迷宮ブラックカンパニー』は、“異世界迷宮”と“ブラック企業”という二つの世界が交差する物語。「染み」の歌詞も、アニメの世界観とつながっているんでしょうか?

竹縄:そうですね。主人公の二ノ宮キンジがすごく魅力的なんですよ。普段はおちゃらけていてダサいし、仲間を見捨てて逃げちゃったりするんだけど(笑)、最終的には良いアイデアを思いついて、みんなを助けるんです。キンジの根底にあるのは「負け戦とわかっていても、やってやろう」という反骨精神だと思うし、そこが自分やHOWL BE QUIETとの共通項だなと。それは〈今日もちゃんと 試されにいこう〉という歌詞にも表れていますね。

ーーHOWL BE QUIETは反骨精神を持ったバンドだと。

竹縄:めちゃくちゃありますね。怒りにも近いかもしれないけど、「もっと聴いてほしい」「何で届かないんだ」という気持ちは常にあるし、自分たちに対する憤りもあって。他のバンドへのライバル心もありますからね。「染み」に関して言えば、そのテーマに加えて、自分がもともと好きな恋愛の要素も加えていて。これまでよりも少し大人の色恋を歌いたい気持ちもありました。

ーーそれは竹縄さん自身の恋愛観の変化でもあるんですか?

竹縄:というより、年齢を重ねることで歌いたいことが変わってきたのかもしれないです。たとえば『DECEMBER』の楽曲を今聴くと、「こんなに真っ直ぐな言葉は書けない」と思うし、逆に、この年齢だからこそ表現できること、歌えることもあるので。

HOWL BE QUIET - 染み(7月12日19時よりプレミア公開)

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