中村佳穂、歌との関係を確かめるようなパフォーマンス 『竜とそばかすの姫』出演も発表したLINE CUBE SHIBUYA公演レポ

 コンサートが終わっても鳴り止まない拍手に応えて、中村とバンドが再び登場。中村はドレスに衣装替えしている。そこで客席からふらっとステージに上がったのが君島大空だ。君島はアコースティックギターを抱えるとブラジル音楽のような旋律を奏で始める。その演奏に合わせて中村がハンドマイクで歌う。昨年の配信ライブ『LIVEWIRE』で披露された新曲だ。君島が弾く弦の音色と中村の歌声が、2匹の蝶々のようにひらひらと会場を舞う。その見事な共演が終わると中村から重大発表が。細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』の主人公、すず/ベルの声を担当して、挿入歌を5曲歌っているという知らせに会場が沸いた。衣装替えしたドレスは「そばかすの姫」のイメージなのかもしれない。そして、コンサートを締めくくる最後の曲は、細田監督が中村の歌に惹かれるきっかけになった曲、「そのいのち」。『AINOU』に収録された曲だが、「LINDY」や「アイミル」に通じる雄大なサウンドでゴスペルのようなコーラスも圧巻。この生命力に満ちた曲でコンサートは幕を閉じた。

 コンサートを通じて中村は音楽そのものだった。いつの間にか演奏が始まるアドリブがMCがわり。そこにバンドがタイミングを見つけて飛び込んでいく。ジャズのような掛け合いだがプレイヤーのエゴは感じさせず、中村は音の乱反射の中で歌い、喋り、踊りながら音楽に身を委ねる。途切れることがない音楽はまるで大きな河で、そこから魚が飛び跳ねるように曲が生まれる。そこには今の社会を覆っている不安や恐怖はなく、暖かくて幸福感に満ちていた。「みなさんが帰る家に歌がありますように」と最後に中村が観客に声をかけたが、コンサートの感動を手土産に観客は家路についたに違いない。『うたのげんざいち』というコンサートのタイトル通り、今の自分と歌との関係を確かめるような素晴らしいパフォーマンスだった。

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。

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