『接続』インタビュー

UA&浅井健一が語る、AJICOはなぜ世の中と“接続”するのか ミュージシャンとしての共鳴が呼び寄せた再始動

「音楽で分かり合えればそれでいい」(浅井)

ーーでは曲ごとにお話を聞いていきます。1曲目は鈴木さんが弾く強烈なクラビネットがイントロを飾る「地平線 Ma」です。

UA:かつてのAJICOにはなかったタイプの曲だけど、こういうのが1曲あってもいいかなという遊び心で。〈ターメリック色のナイトメア見てるだけじゃ〉とか〈アルタイの山か ノルウェイの森か〉といったフレーズもノリで書いちゃいましたね。

ーーこの歌詞には、UAさんがWeb連載(朝日新聞デジタル &W『野村友里×UA 暮らしの音』)でも記していた、コロナ禍を経て突入した“風の時代”というマインドも反映されているように感じられました。

UA:いまって現実的にはもはや資本主義が崩壊しているような世の中なのに、気付かないフリをしている状態じゃないですか。本当はとっくにパラダイムシフトをしきっていなきゃならない状況なのに、まだ多くの人がしがみついている。恐れがあるからですよね。もちろんシフトする上では犠牲にする思いもたくさんあるけれど、恐れることはないんだよ、恐れは要らないんだよ? と強く言いたかった。1999年の「プライベート サーファー」(UA)という曲で〈いつだって/泳げなくても/飛び込めるように〉と歌ったときも、当時の時代に対して変化の予感めいたものを感じ取って歌詞を書いたんだけど、いまは予感どころかもはや手遅れみたいな状況でしょ。まさに風の時代だと思う。歌詞の通り、右も左も東も西も関係ないし、行き着くところはもはや全て同じだと思うから。

ーータイトルの“Ma”というのは?

UA:Motherです。コロナ禍前の最後に行ったボン・イヴェールのライブで聴いた「Hey, Ma」という曲が超カッコよかったからもらっちゃった(笑)。言いたいことは“丸い地平線”なんだけど、地平線だけじゃ弱かったから。Mother Earthじゃないけど母性とスペーシーな感じを加えてね。

ーー浅井さんはご自身も、近年、世相への問題意識を歌ってきましたが、UAさんのこうした歌詞表現の姿勢についてはどう感じていますか?

浅井:バッチリじゃない? 良いことを歌ってるなって思うよ。初めはよく分からんかったけど、段々と理解した。UAも俺も、使う言葉ややり方が違うだけで、目指している場所は一緒だからさ。みんな幸せならいいなってことだから。そこが一緒なら何をやってもどこもおかしなことにはならない。正人くんの存在も大きかったし、自分一人の発想からは出ないカッコよさが出た。最高だよ。

ーー実際、お二人は表面的に感じられる性格こそ違えども、実は本質的にはかなり似ている部分が多いんじゃないかとも思うのですが。

浅井:そうかもね。まあ俺はラジオで時々顔を出す“上沼UA子”も好きだけどね。

UA:(笑)。ラジオの通り、私とベンジーってそもそも決して共通言語が多いわけじゃないんだけど、それでも、ものっすごく大きな枠で括ったら、結構同じ感覚の持ち主同士だと思うんだよね。

浅井:ミュージシャンなんだよ、俺らは。ラジオで話が噛み合わなくても、20年もの間、言葉を交わさなくても、音楽で分かり合えて会話ができればそれでいいわけ。

ーー鈴木さんの強烈なクラビネットのイントロの前に、短いドラミングが聴こえますが。

UA:実はベンジーが叩いているんですよ。私が急に「最初は(曲の全体とは)違うリズムから始めてみたい」と言い出して。椎野さんにも幾つかお願いしてみたんだけど、結局、このベンジーのやつが一番ハマって。

浅井:まさか使われるとは思わんかった。もう一回、録り直したい(笑)。

AJICO - 地平線 Ma (Official Video)

ーー2曲目の「惑星のベンチ」のリリックはお二人の共作です。情報過多な現代を捉えた描写が明確に伝わってきます。

UA:私自身は、自分、世界、時代を俯瞰で見ようとする視点を意識しました。例えば、仮に、目に見える形で音楽という愉しみを奪われたら、私は人が人ではいられなくなると思うし。サビの〈サヨナラ言う時は瞳をあわせる〉という歌詞はベンジーのデモに元々入っていたものをそのまま使っているんだけど、これは誰かとの別れだけを指しているのではなくて。常に自分とサヨナラして、それこそ毎日生まれ変わっていかないと、人って前に進めないと思うのね。私自身、人としても、母としても、そう在りたいと思って子どもと向き合っているし、それは同時にいろいろなことを許していく行為でもあると思う。目を見てしっかりサヨナラしないと次の出会いには進めないからね。

浅井:しかしUAは子育てしながら東京戻って、UAやAJICOやってんだから大変だよな。

UA:大変だけど家族からも理解を得ているからね。家事も育児も畑を耕すのも楽しいけど、私はやっぱりUAとして歌っていないと自分がおかしくなっちゃうから。3.11の震災が起きた時、もう言葉だけではなく行動から生活を変えていかなければと思って、移住して、ライフスタイルも一変させた。でも、やっぱり歌は、音楽はそばにないと落ち着かないの。AJICOにしてもUAにしても、むしろ私が全力で臨まなかったら家族のみんなに顔向けができない。

ーー〈最高なこと 買えないもの〉という一行も印象的です。

UA:歌詞の言葉には心から思っていないとなかなか出てこない類があるけど、これはまさにそうかもしれない。

消費の早い時代に生まれる“本物の音楽”

ーー3曲目はタイトルチューンの「接続」です。この〈You’re a lifeline〉というのはなかなか思い付かないラインだなあと。

UA:ありがとう。日本は前から自殺が多かったけど、コロナ禍になってより増えてしまって。きっといろいろな苦しみから自分の存在そのものが掛け替えのない生命の欠片なんだということが段々分からなくなっちゃうわけでしょう? なんでこんなに多くの人が幸せになれないのかなと考えると悲しくなる。結局は自分との対話だし、全ての一人ひとりに向かって語りかけることはできないわけだけど、せめても何か言える手段があるとしたら、私にとってやはりそれは音楽なのね。〈エイリアン〉という歌詞も異星人を指しているのではなく、大事なことを忘れてしまった私たちがすでにエイリアンなんじゃないかなという思いから書きました。「みんな、エイリアンにならないでね?」って。

浅井:俺はこの曲が一番好き。3年ぐらい前にメロディを書いて、UAに渡したのは2年ぐらい前だったんだけど、レコーディングしたら歌がより前に出てきて、「伝わるな、いいな」って。すごく気に入ってるよ。

UA:やっぱり正人くんの存在も大きかったし。これは私がミックスをかなり粘った。

ーー今作は歌の輪郭が立ったミックスも開けた印象の一因だと思うのですが。

UA:AJICOは決してJ-POPというつもりはないんだけど、J-POPが流れているシーンのマジョリティのなかで流れてほしいという思いは強くあったので、その土俵にはきっちりと曲を上げてやりたかった。ただ、私が粘ったのはどちらかと言えば全体のサウンドデザインでした。自分の声に対してはどうしても客観的にはなりきれなくて。

ーー4曲目の「L.L.M.S.D. -Lonely Lonely Magic Smiley Dress-」は詞曲共に浅井さんの曲です。示唆的な表現やメッセージも多分に含まれた今作ですが、この最後の一曲でより解き放たれるというか、自然と笑顔にさせられるというか。何と言っても終盤の〈ちょっと褒め過ぎかも/だいぶん褒め過ぎ〉のくだりがいいですね。ボーカルも素敵だし、「だいぶ」ではなく、「だいぶん」なのも何だかかわいいなって。

UA:そこはベンジーのこだわり。

浅井:名古屋弁。東京弁だと「だいぶ」なの?

ーーですね。ただ、辞書を引いたら「だいぶん」は「だいぶ」の旧式というか正式な言い方としても載っていましたが。

浅井:やっぱ「ん」は入らんと「だいぶ」だけだと足らんもんね。この曲は歌詞とメロディがほぼ同時に浮かんだんだけど、歌詞を書いているうちに、本当に「こりゃ褒め過ぎだな」と思えてきてさ(苦笑)。それを素直に言って曲を終わらせられたら最高だなって。

ーーリリース後はツアーやフジロックの出演も予定されていますが、フルアルバムのプランについてはいかがですか?

浅井:とりあえずはいまのAJICOがどれだけのステージをやれるのか、ライブで確かめてみるわ。アルバムは、それでみんなの心がどうなるかで決めればいいかなって。ライブでは昔の曲も当時とは全く違う形で演奏するつもり。正人くんがツアーもサポートしてくれるので俺はよりギターに集中できるし、楽しみなんだよね。俺、20歳の頃とか、元々歌う前はギタリストだったんだわ。だからギタリストに徹するのも、それはそれでやっぱり楽しいんだよね。もちろんUAはいつも通り自由にパフォーマンスしてくれたら間違いないと思うし。

UA:ベンジーはアーティストである一方で職人肌でもあって。私はやっぱりパフォーマンスが好きなんだなって。目の前で聴いてくれる人たちがいて初めて成立するというか、一人の時間にいつまでも一人きりで歌っているという自分は考えられないから。一方で、20年前、一年間でAJICOとして完全燃焼した頃の自分とはもう全く違うし、消耗する年齢でもないし(笑)。私も正直、あまり前もってプランを決めるのは好きじゃないから、今回もAJICOをいつまで続けるとか、特に決めてはいなくて。ちょっと珍しい関係性のバンドなのかもしれないけど、今は良い音楽を作れるという手応えを感じているから、良いペースで続けられたら嬉しいなって。いまって音楽が手軽な反面、とても早いスパンで消費され易い時代なのかもしれないけど、一方で、ちゃんと本物の音楽をライブで観せられるアーティストしかこの先は残らない時代だとも思う。私は、AJICOにはその自信がある。20年前を知らなかった若いリスナーにも、ぜひ聴いてもらいたいですね。

浅井:みんながAJICOとして集まって、良い曲ができて俺も本当に嬉しい。AJICOは本当に恵まれとると思う。

ーー次の作品が届く機会を楽しみにしています。

浅井:もし次回があったら、次は俺が全部コントロールするよ?

UA:まだ言っとる(笑)。

※ライブ写真は『2001年AJICOの旅』の模様。

AJICO『接続』

■リリース情報
AJICO EP『接続』
5月26日(水)発売
・初回限定盤(CD+DVD)¥3,850(税込)
・通常盤(CD)¥1,650(税込)

《CD収録曲》
01. 地平線 Ma
02. 惑星のベンチ
03. 接続
04. L.L.M.S.D

《初回限定盤付属 DVD》
『AJICO Premium Live 2000.11.30 at Shinjuku Liquidroom』
01. 深緑
02. すてきなあたしの夢
03. 美しいこと
04. 金の泥
05. GARAGE DRIVE
06. メロディ
07. 青い鳥はいつも不満気
08. カゲロウソング
09. フリーダム
10. 波動
11. 庭

■AJICO 関連リンク
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