清塚信也がディズニーの名曲群に込めた願い 柔軟なアイデアとセンスが光る『BE BRAVE』を聴いて
クラシック・ピアニストにとどまらず、作曲家、編曲家、さらには俳優、バラエティ番組への出演などマルチに活躍する清塚信也が、ディズニー作品から生まれた楽曲をピアノ演奏で聴かせる『BE BRAVE』をリリースする。本作は数あるディズニー楽曲の中から、「勇敢」「希望」「仲間」をテーマに選曲。清塚によるオリジナルのアレンジを加え、それぞれ新たな魅力を引き出した作品だ。ひとりのアーティストにディズニーが“公式”のお墨付きを与える例はそれほど多くない中、ジャケットには描き下ろしのイラストも採用。リリースに寄せて清塚は「元にある美しさを壊さず、いかに芸術的に美しく出来るかを挑戦致しました。このアルバムが皆様の心に触れることを心より願います」とコメントしており、これまでディズニー楽曲のカバーに取り組み傑作を生み出してきた多くのアーティストと等しく、本作もまたその系譜に連なる作品になったと言える。
収録楽曲は全10曲。映画『美女と野獣』のテーマ「美女と野獣 」に始まり、『アラジン』から「ホール・ニュー・ワールド」、『トイ・ストーリー』から「君はともだち」などバラエティ豊かな8曲に加え、高井羅人とコラボした『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』の「彼こそが海賊」、『モンスターズ・インク』の「君がいないと」の2曲もパッケージされ、聞き応えのある内容となっている。選曲の幅広さも特筆すべき点で、『リメンバー・ミー』のような近年の作品から、『ピノキオ』といった往年の名作までを網羅。年齢や世代を超えて楽しめる選曲になっているのはもちろんのこと、王道クラシックからジャズ、ポップスなどジャンルにとらわれない柔軟なアイデアとセンスで、それらおなじみの楽曲に異なる角度から光を当てている。
たとえば、「美女と野獣」は主旋律の美しいメロディを活かしながら、テンポをゆったりと取り、エレガントで優しい表情にアレンジ。随所に散りばめたトレモロが、シャンデリアから放たれる光のようにきらめき、ゴージャスさを演出する。また、「君はともだち」はジャズの即興性を取り入れた弾むような演奏が聴きどころ。曲が進むにつれ、徐々に盛り上がっていく展開に遊び心を感じる。
アプローチこそ原曲とは異なるものの、それぞれの楽曲のイメージや作品の世界観を大切にした構成は、清塚のディズニーへのリスペクトと憧れのたまもの。コアなディズニーファンならばなおのこと、どのような意図でアレンジがなされたか、背景にも思いを馳せつつ楽しめるに違いない。
ディズニー作品にとって、音楽はなくてはならないもの。時にキャラクターよりも物語を雄弁に語り、世界観を作り、観る者の胸に深く刻まれる。さらには劇中を飛び出し、ポップソングとして世代を超えて聴き継がれていく。単なる劇中歌、主題歌ではなく、作品の象徴、作品の顔として愛されているのだ。
だからこそ、アレンジやカバーする側には相応の覚悟とスキルが要求されるようにも思うが、清塚の場合はどうだろう。類い稀なピアノの才能は言わずもがな、彼にはクラシックだけにとどまらない柔軟な感性が備わっている。ドラマ『コウノドリ』(TBS系)のピアノ演奏の監修や映画『神童』での吹き替えなど、映像作品への参加が多いのも、そんな一面を買われてのことだろう。