藤井風、映像作品からも伝わるメッセージ 「帰ろう」「青春病」MVを紐解く

藤井 風『青春病 EP』

 昨年発表したデビューアルバム『HELP EVER HURT NEVER』がCDショップ大賞を獲得し各所から高評価を受ける中、初のライブ映像作品『Fujii Kaze “NAN-NAN SHOW 2020” HELP EVER HURT NEVER』も発売され、より一層注目の集まっているシンガーソングライター、藤井風。彼の魅力は数え切れないほどあるが、その一つが楽曲の世界観を視覚化したミュージックビデオである。もともと”YouTube時代”を見据えてピアノのカバー動画を投稿し続けていたのもあってか、公式チャンネルで公開される映像はどれもハイクオリティかつメッセージ性が強く、「何なんw」「もうええわ」「優しさ」の3作に至ってはアルバム発売前よりすでに多くの再生回数を集めていた。そこで当記事では、アルバム発売後に公開された彼のいくつかのMVの中から、特に惹かれた2作品にフォーカスしたい。

 まず、一本の長い道で、老若男女が車輪の付いたソファを押しているシーンから始まる「帰ろう」のMV。昨年9月に公開され、アルバム曲ながらも再生数は現在700万回を超える。ファンの間ではすでに名曲として親しまれ、彼自身も「この曲を出すまでは死ねない」と意気込んでいたほどの一曲だ。

藤井 風(Fujii Kaze) – “帰ろう”(Kaerou) Official Video

 このMVには、何かを“手放す”シーンがいくつも描かれている。たとえば、周りの人々がソファから離れるカット。あるいは、互いに握り合っていた手と手が分かれる映像もそうだ。持ち物をすべて捨てたタイトルバックや、子供が手から風船を放す場面もその一つと言えるだろう。赤い風船については、それが“手放す”ことのある種の象徴のように美しく自由に空を舞っている(無数のそれらを見て何かを悟ったかのような人々の反応も印象的だ)。

 “手放す”ことは、歌詞においてもキーワードになっている。

〈去り際の時に 何が持っていけるの
一つ一つ 荷物 手放そう〉

 他にも“与える”や“忘れる”といった似た表現が登場し、形を変えながら幾度となく繰り返される。重要なのは、この“手放す”という行為が、単なる喪失ではなく、前へ進むために必要な行いとして描かれている点だろう。「幸せに死ぬためにはどう生きたらいいか?」と彼はこの歌で自分自身に問いかけたという。だからこそ、終盤のシーンでデュエットダンスを踊る老夫婦が、最終的にお互いの手を”手放す”のが何よりも温かく、幸せそうに見えるのだ。

 そして、このMVで最も印象的なのはラストシーンである。エンドクレジットが表示され、すべてが終わった後、最後の最後に映し出されるカット。それが、一人だけ道に取り残された女子高生がぽつりと立っているシーンだ。このラストの一瞬の映像によって、この作品は「あなたはどう生きますか?」と問いを投げかけるかのようにして、観る者の心にスッと忍び込んで幕を降ろすのである。つまりこの曲は、今をどう生きるか? という生き方の歌でもある。結びにある〈あぁ今日からどう生きてこう〉の一節が、忠実に映像化されているのがこの最後のワンシーンなのだろう。