マカロニえんぴつ、『はしりがき』EP全曲レビュー 個性と大衆性を共存させた4通りのポップネス
マカロニえんぴつの勢いが止まらない。
昨年リリースしたフルアルバム『hope』が、音楽ファン、音楽メディアを含め“2020年を代表する名盤”という評価を獲得。その後も知名度を上げ続け、11月には満を持してメジャーシーンに進出。「生きるをする」(アニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』オープニング主題歌)、「溶けない」(グリコ「セブンティーンアイス」WEB CMタイアップソング)などを収めたメジャー1st EP『愛を知らずに魔法は使えない』を発表した。さらに『ミュージックステーション』をはじめとする地上波の音楽番組に出演するなど、活動のフィールドを広げている。
ハードロック、サイケデリック、ギターポップ、ソウル、R&Bなどを大胆に取り入れた独創的なバンドサウンド、はっとり(Vo/Gt)が描き出す天性のポップネスをたたえたメロディと、2021年を生きる人々を射抜くメッセージ性がぶつかり合うマカロニえんぴつの音楽性は、作品を重ねるごとに確実に進化している。そのことは、「はしりがき」(『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』主題歌)を含むメジャー1stシングル『はしりがき』EPからもはっきりと表れている。このテキストでは、個性と大衆性を共存させた4曲を詳細に紹介したい。
タイトル曲「はしりがき」は、〈イメージは超えられないのさ/だからこそ走るのだ 振り返らず〉という歌詞、60年代UKポップスを想起させるピアノからはじまる。その直後にシャッフル系のリズムが加わり、一気にテンポアップ。さらにサビのメロディで圧倒的な解放感を演出した後、ブライアン・メイ直系のドラマティックなギターソロを8分の6拍子が鳴り響き、ジャズテイストの生ピアノ、しなやかなファンクネスを感じさせるベースラインが色を添える。3分11秒のなかに驚くほど多彩アイデアを盛り込んでいるのだが、情報過多なところはまったくなく、聴き心地はむしろシンプル。“映画クレヨンしんちゃん”という大型タイアップの楽曲で、自らの個性をさらに強く押し出すところに、バンドメンバーの矜持と覚悟が感じられる。
歌詞のテーマは“青春”。もちろん映画のストーリーに沿っているのだが、(サウンドやアレンジと同様)ここにもはっとりの人生観、価値観が思い切り溢れ出ている。もっとも端的に表れているのは、〈あなたには自分を愛していてほしいだけなのです〉というラインだ。
2曲目の「listen to the radio」(JFL presents FOR THE NEXT テーマソング)はラジオのノイズから始まるマカロニえんぴつ流のパワーポップ。一聴するとオーセンティックなロックチューンなのだが、微妙にヒネくれたコード進行と楽曲構成、サイケ風味のコーラス、2番のAメロにおけるニッチポップ的な展開、タッピングを駆使したギターフレーズを含め、このバンドらしい“一筋縄ではいかない”感もたっぷり。XTC、Jellyfish、Weezerといった先人たちの影響も感じられるが、おそらくは“こんなことやってみない?”という遊び心の成果なのだろう。ラジオから聴こえてくるポップミュージックを通し、離れてしまった〈きみ〉への思いを投影するリリックから滲み出る切なさ、情けなさも愛おしい。
続く「裸の旅人」は、Coleman WEB CM「灯そう」テーマソング。本作『はしりがき』EPのなかでもっとも捉えどころがなく、それゆえに聴けば聴くほどクセになる楽曲だ。サウンドの基調は、ブラックミュージック的なノリ。ややレイドバックしたベースラインを軸にした、ゆったりと身体を揺らしたくなるグルーヴが気持ちいい、と思いきや途中でいきなりハードロック的な展開へ。意外性に溢れた構成も、この曲が持つ中毒性の理由だろう。〈キャプテン!雲行きが怪しくなってきました〉で始まる歌詞は、“一体何のことを歌ってるんだろう?”という思考を刺激してくれる。コロナ禍を生きる人々の一進一退を描いているようでもあり、ドラスティックな変化に見舞われている音楽業界のことを歌っているようでもあり……その解釈はもちろん、リスナーの自由だ。
メンバーが冒険家に扮したり、森の中で動物たちのオブジェに囲まれながら演奏するMVは、池田一真(ゲスの極み乙女。「人生の針」、乃木坂46「しあわせの保護色」のMVなども手がける映像ディレクター)が担当。シュールでクセのある楽曲の世界を見事に映像化している。