崎山蒼志が鳴らす焦燥と躍動 ツアー最終公演で垣間見えた音楽家としての本性

 鮮烈なエネルギーを感じる。彼が発する声とギターには、それ自体が生き物であるかのような生命力があり、良質な楽曲もさることながら、やはりその音そのものにリスナーを惹きつける引力があるのだろう。崎山蒼志の歌は時に聴き手を昂らせ、時に不安にさせながら、心の底にストンと落ちていく。兎にも角にも、感情に直接訴えかけてくるようなパワーを感じるのだ。

 緊急事態宣言下のため、愛知、大阪の2公演を中止。観客数を制限し、全イス席の昼・夜二部構成で開催された『崎山蒼志 TOUR 2021「find fuse in you(th)」』、東京・恵比寿LIQUIDROOM公演を見た。1時間強の短いステージだったが、それ故彼の魅力が濃縮されたライブになっていたと思う。

 照明さえほとんど当たらない静寂の中、エレキギターの旋律が聴こえてくる。音だけが暗闇を漂うような「観察(Interlude)」で幕を開けたライブは、アコギに持ち替えて歌われた「ただいまと言えば」で本格的にスタート。宇宙の中にぽつんと崎山蒼志ひとりが浮かんでいるような、そんな舞台に惹き込まれる。が、しっとりとしたムードは突然終わり、空気を切り裂くような性急なリズムを刻む「鳥になり海を渡る」へ。ヒステリックな音を出すアコースティックギターは、彼の個性のひとつだろう。焦燥感と共に駆け抜けていくようなスピード感のある1曲だ。

 終日激しい雨に見舞われたこの日のライブ。最初のMCは、足を運んでくれたオーディエンスへの感謝と、簡単な挨拶である。それを済ませるとすかさず代表曲「国」へ。ここから一層ライブが流動的になっていく。iPadで同期させた音を流し、アコギで歌った「うねり」を終えると、ギターを手放しハンドマイクで「waterfall in me」へ。相変わらず慎ましやかに照らされるライトの下で、彼は変幻自在なフレーズで耳を楽しませる。続く「find fuse in youth」では、エレキギターの弾き語りで始まるも、中盤からはパッと視界が開けバンドメンバーの姿が現れた。

 彼の個人名義のライブで、バンド編成のステージを披露するのはこれが初である。メンバーはドラムに守真人、ベースにマーティ・ホロベック、キーボードに宗本康兵の3人だ。マーティと宗本は、崎山の楽曲をバンドアレンジした「再定義」シリーズでも参加しており、いわば崎山蒼志のここ最近の創作を支えてきた布陣である。

 件の「再定義」シリーズでリリースされた「Heaven」と「Undulation」の2曲と、「花火」を立て続けに演奏し、ステージのボルテージが上がっていく。しなやかにうねるベースと、力強くも引き締まったドラムは筋肉質で、鍵盤の音が楽曲に花を添える。ステージの色彩が増し、ダイナミズムを得た彼の歌が躍動していた。弾き語りに真骨頂のある崎山だが、スキルフルなメンバーと奏でる迫力満点のサウンドも、今後の彼の活動における重要なファクターになるだろう。

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