乃木坂46 1期生、キャリア10年目に突入した表現の豊かさ 後輩メンバーに背中で示したグループの歴史
これらのプロデュースブロックで選択された楽曲は、オリジナルのリリース時期も選抜/アンダー等歌唱メンバーもまちまちだが、草創期から活動する彼女たちが遊んでみせながら描き直すことで、その背後にグループの歴史も浮かび上がる。そうした効果をより明快に打ち出したのが、1期メンバーの“お姉さん組”と“年少チーム”がユニット曲を交換して披露した「でこぴん」「ここじゃないどこか」の2曲だった。
もっとも、今やこの二つのチーム分けは形式上のものにすぎない。「でこぴん」「ここじゃないどこか」のいずれの楽曲も、キャリア的にはるかにグループの表現が若かった時分に充てられたものである。「年少チーム」に位置するメンバーたちも含め、当時の乃木坂46よりもはるかに幅広く、成熟した表現を手にしている近年の彼女たちは、ごく自然に楽曲を最新形に更新しながら歩んでいる。
それはセットリスト終盤、センターに立つメンバーを次々に変えながらパフォーマンスされたブロックに顕著である。高山と樋口をWセンターに据えてシャープにまとめられた「インフルエンサー」ののち、「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」や「Against」、あるいは「ごめんねスムージー」など、すでにグループを離れた人々も含めた1期メンバーの足跡を想起させる選曲が続く。
もちろん、1期生ライブとして彼女たちの歴史を顧みるものでもあるが、同時に、結成から数えて今年で10年を迎えようとする現行8人の表現は、それらの曲が制作された当時の意匠や詞世界の枠組みを超越して、各楽曲に新しい視野を拓いていた。作品固有の基調は保ちながらも、以前より格段に余裕を持った身のこなしで、楽曲を現在形の乃木坂46にフィットさせていくさまは心地よい。ライブ本編ラストの「ぐるぐるカーテン」のリニューアル衣装もまた、彼女たちのアップデートのあり方を象徴的に示していた。
そして、1期の歴史とキャリアの充実をみせてきたライブは、アンコールに至って「思い出ファースト」「ボーダー」「I see…」と、2、3、4期それぞれにとって強い意味をもつ楽曲を連続して披露し、その歩みを後輩メンバーと共有する。より正確にいえば、最後に初期楽曲「左胸の勇気」を配置するトータルバランスによって、このアンコールは後輩メンバーのみならず、これまで乃木坂46に在籍したすべての者たちの足跡を集約し、過去から現在、さらに未来までを繋ぐような時間としてあった。
各期が独立してライブを行なうことで、それぞれの加入段階やキャリアに応じた特色が刻印されるのは重要なポイントである。しかし、それに加えて乃木坂46のオリジネーターである1期生のライブで描かれたのは、その先にグループ全体を包括するストーリーを紡ぐような景色であった。
■香月孝史(Twitter:https://twitter.com/t_katsuki)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。