『your ears, our years』インタビュー
AKINO from bless4が体現する“歌を楽しむ”こと 音楽と真摯に向き合った15年の軌跡
AKINO from bless4が、15thアニバーサリーアルバム『your ears, our years』をリリースした。2005年にテレビアニメ『創聖のアクエリオン』のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」にて15歳でソロデビューを果たして以来、『甘城ブリリアントパーク』や『艦隊これくしょん -艦これ-』など数々のヒットアニメ主題歌を担当し、アニソンシンガーとしての地位を確立してきたAKINO。今作には、そんな彼女がデビューからの15年間でリリースしてきたソロ名義の楽曲ほぼすべてが収められている。本作のリリースを機に、AKINO本人にデビューからの15年間を振り返ってもらった。(ナカニシキュウ)
「創聖のアクエリオン」に出会って人生が変わった
ーー『your ears, our years』はAKINOさんのデビュー15周年を記念したアニバーサリーアルバムという名目で、これまでにAKINOさんがソロ名義で出してきた曲がほぼすべて入っている内容ですね。
AKINO:今までCDとしてリリースされていなかった曲も入っているので、探さなくても聴けるようになるのが嬉しいですね。中には私でさえ持っていなかった音源もあって(笑)。<FlyingDog>の皆さんや今までお世話になった方々が音源を集めてくださいました。その気持ちが何よりも嬉しいです。
ーーせっかくなので今日はこの15年間を振り返っていただこうと思います。まず2005年、15歳のときにアニメ『創聖のアクエリオン』のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」でソロデビューされました。そもそも4人兄弟ユニット・bless4としてグループで活動していたAKINOさんが、なぜこの曲をソロで歌うことになったんですか?
AKINO:最初はbless4のライブを観てくれた菅野ようこさんが、弟のAIKIをメインボーカルに起用するつもりだったんだそうです。当時13歳だったAIKIのボーイソプラノを使いたいということで、そこに私と姉(KANASA)を加えた3人の声でレコーディングする予定でした。でもちょうどその頃、AIKIが変声期で(ボーイソプラノではなくなってしまったので)、菅野さんが私の高音を気に入ってくださったんです。
ーーなるほど。
AKINO:私はその頃すごくシャイで、いつもお姉ちゃんの後ろに隠れているような子で。まさか自分がメインで歌う日が来るなんて夢にも思ってなくて、正直に言うと最初は「自分にはできないかな……」と思いました。でも、兄弟みんなが「いいチャンスだし、トライしてみたら?」と言ってくれたので、「やってみようかな」と踏み出せました。
ーー子供の頃はあまり自分に自信がないタイプだったんですか?
AKINO:いえ。アメリカで生まれて育ったんですけど、その当時はすごく“Outgoing”で、手に負えないくらいワイルドな子供でした(笑)。でも、9歳で沖縄へ移住してからシャイになって。
ーーそれは何か理由が?
AKINO:理由は特になくて……たぶん、そういう年頃だったんでしょう(笑)。bless4としてデビューした後、久しぶりに沖縄へ帰ってパフォーマンスしたときに、皆さんが私を見て「新メンバーですか?」と言ってきたことがあって。「3人兄弟だと思ってた」と言われてしまうくらい、存在感がなかった。それを思うと、今の状況は信じられないです。
ーー今やAKINOさんが一番目立つ存在ですもんね。
AKINO:それ、兄弟からもよく言われます(笑)。菅野ようこさんと「創聖のアクエリオン」に出会って、本当に人生が変わりましたね。これがなかったら今の自分はないし、自信も持てていなかったと思います。
ーー『your ears, our years』のDISC1とDISC2には、これまでのリリース曲が時系列で収録されています。順番に聴いてみて改めて驚いたんですけど、1曲目の「創聖のアクエリオン」の時点ですでにボーカリストとして100点なんですよね。にもかかわらず、次の曲以降もどんどんレベルが上がっていくのが意味わからないなと(笑)。最初が100点だったら、普通はそれを維持するか下がっていくかしかあり得ないと思うんですけど。
AKINO:私は、いただいた曲に対して100%をやりたい人なんですね。なので、曲が来たらとにかく練習します。たとえば歌入れまで1カ月あったとしたら、その1カ月間は毎日練習する。「この曲にはこの歌い方がいいかな」と考えたものをまず自分で録音してみて、それが違うと感じたら別の歌い方を試して、しっくりくるまで何度でもやります。
ーーそうやって常に「100%にするためにはどうしたらいいか」を愚直に追求してきたことで、結果的にさまざまな表現方法を獲得していったと。
AKINO:そう思います。
ーーそして2007年に1stアルバム『Lost in Time』が出ますが、その後5年近くリリースが空きますよね。これはなぜですか?
AKINO:……わかりません(笑)。あまりそういうことは考えていなくて、ソロがあるときはソロをやって、それ以外はbless4として活動していたというくらいのことで。あえてソロの活動を抑えていたということも全然なくて、次に「君の神話~アクエリオン第二章」の話が来たときも、すぐに「ぜひやりましょう!」というふうになりましたし。
ーーとはいえ、せっかく「創聖のアクエリオン」でAKINOさんの歌声と名前が広く世の中に知られたわけですし、その勢いでどんどんリリースを重ねるほうが自然なことのようにも思えるんですが。
AKINO:たぶん、日々のことに必死すぎてそこまで考えられなかったと思いますね。兄弟で会社を立ち上げたりとか、本当にいろいろなことがあった時期で。
ーー「リリースがないと忘れられてしまうんじゃないか」みたいな不安も特になく?
AKINO:なかったですね。リリースタイミングなどについては、信頼する<FlyingDog>スタッフの皆さんにすべてお任せしています。
「今が人生で一番音楽を好きかもしれません」
ーーそして、2012年にシングル『君の神話~アクエリオン第二章』がリリースされます。今回のアルバムでいうとDISC1の9曲目「パラドキシカルZOO」以降がおおむねこの時期に当たりますが、8曲目の「素足」から続けて聴くと、録音時期が空いていることもあって急にボーカルの力が跳ね上がっている印象を受けます。
AKINO:「君の神話~アクエリオン第二章」のお話が来たときに菅野さんと久々に会って、ピアノを弾きながら「この音は歌える?」と高音がどこまで出るか改めて確認されたんですよ。そしたら「AKINOちゃんはちょっと高くてもイケるから、この音程で歌いましょう」と、少し厳しいかもと思うキーに設定して作ってくださいました。そのおかげで、自分の限界を少し超えることができたと思います。
ーー高音のお話でいうと、そもそも最初の「創聖のアクエリオン」からしてキーはかなり高いじゃないですか。にもかかわらず、隙あらばそれ以上を要求してくる菅野さんは相当サディスティックですね(笑)。それを歌えてしまうAKINOさんもAKINOさんですけど。
AKINO:そうですね(笑)。「月光シンフォニア」でも、AIKIとラブソングをデュエットするというチャレンジをさせてもらいましたし。いつも一緒にいる弟を相手に〈あなたが恋しい〉と歌うのは、とても恥ずかしかった(笑)。
ーー菅野さんの無茶振りがAKINOさんの新しい扉をどんどん開けていってくれたんですね。それと関連するかはわかりませんが、この時期くらいからのAKINOさんのボーカルには、ある種の余裕が感じられます。
AKINO:たぶん大人になって、いろんな経験をしたことが声に出たのかもしれないですね。
ーーそれまでは全部の球を全力で投げているような印象でしたが、「程よく力を抜いたほうが速い球を投げられる」みたいなことに気づいた瞬間があったのかなと。
AKINO:デビューの頃はただ必死で頑張ることしかできなかったですね。あるとき、「完璧に歌いたい」と思いすぎて夜中までずっと練習し続けていたことがあったんです。お兄ちゃん(AKASHI)たちから「これ以上は喉を痛めるからやめなさい」と言われてもやめなかった(笑)。そのときは休む意味がわからなかったんですけど、今はわかります。神経質になりすぎると体もつらいし、楽しめないし。休むことの大切さを学びました。
ーー実際、適度に休まないとかえってパフォーマンスレベルも下がりますからね。
AKINO:そうなんです。それでひとつ思い出したのは、最初にテレビ番組で「創聖のアクエリオン」を歌わせていただいたとき、ネットですごく叩かれたんですよ。皆さんが歌声から想像していたイメージと私の外見が違ったみたいで、「ブサイク」「デブ」などとさんざん書かれて。面と向かってひどいことを言われたこともあって、それ以来、人前で歌うことが怖くなってしまったんです。ステージに上がると手が震えて、心臓もドキドキするし、歌うときには唾液も絡むようになって、いったん飲み込まないと歌えないくらいでした。それが3年くらい続いて……。
ーーイップスのような状態だったと。
AKINO:でも、家族のおかげで乗り越えることができました。あるときお兄ちゃんが「“音楽”という字を見てごらん。“音が楽しい”って書いてあるよね」と言ってくれて、そのときに「私は苦しい音しか歌っていなかった」と気づいたんです。「なんてことをしてしまっているんだ!」と思って、音楽に対する気持ちを改めて見つめ直しました。自分が心から楽しいと思って歌わなければ、聴いてくれるお客さんに伝わるわけがないんですよね。
ーーそれは大きな転機でしたね。
AKINO:おかげでまた歌うことを楽しめるようになっていきました。そしてデビュー15周年を迎えて、今が人生で一番音楽を好きかもしれません。
ーー2014年には『甘城ブリリアントパーク』のオープニング曲「エクストラ・マジック・アワー」をリリース。これ以降は『艦隊これくしょん -艦これ-』や『アクティヴレイド -機動強襲室第八係-』など、『アクエリオン』シリーズ以外のアニソンを歌う機会がどんどん増えていきますね。
AKINO:私はチャレンジすることが好きなので、いろんな作品のテーマソングを歌えることは素直に嬉しいです。
ーーそのあたりで、“アクエリオンの人”みたいなイメージから解放された感覚はあったりしました?
AKINO:うーん……どうですかね。もちろん「『アクエリオン』を歌っていた人ですよね」と言ってもらえることもあれば、年代によっては“『甘ブリ』の人”だったり、“『海色』の人”だったりもしますし。どんなきっかけであれ、知っていただけていることは嬉しいです。
ーー一般的に、大ヒット曲によってイメージが固定されすぎてしまうことに悩むアーティストさんは多いんですけど、AKINOさんはあまりそういうことはない?
AKINO:あ、それは全然ないです。“アクエリオンの人”と言われるのも嬉しいですし。私はもともと兄弟で活動しながらソロもやっているというスタンスなので、そのあたりはけっこうOpen Mindedかもしれないです。