『エヴァ』×宇多田ヒカルの14年を辿る 「One Last Kiss」が告げる美しい世界の終幕
そして、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の主題歌「One Last Kiss」は、シリーズ完結作のエンディングを飾るにふさわしい名曲だ。心地よく飛び跳ねるビート、豊かな低音を響かせるベースライン、凛とした強さと今にも壊れそうな脆さを内包したメロディのなかで彼女は、〈誰かを求めることは/即ち傷つくことだった〉〈忘れられない人〉というラインを描き出す。全てのフレーズが『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のストーリーにつながると同時に、自己と他者の関係性の本質ーー完全に理解し合えることはなく、常に孤独と向き合わざるを得ないーーを美しく際立たせるこの曲は、“エヴァ×宇多田”のシンクロ率がさらに高まっていることを告げている。
共同プロデューサーにA.G.COOKを迎え、彼がプロデュースを手がけたチャーリー・XCXに象徴される“生々しい手触りエレクトロサウンド”を体現していることにも注目してほしい。特に楽曲の後半における眩い光を放つような高揚感、そして、その直後に聴こえてくる〈吹いていった風の後を/追いかけた 眩しい午後〉という歌がもたらす切ない静寂には、強く心を揺さぶられてしまう。そこに残るのは、止めようがない喪失感と不思議な清々しさだ。
3月10日にリリースされたCD、アナログ盤には、「Beautiful World」をリメイクした「Beautiful World(Da Capo Version)」も収録されている。
これは庵野監督のオファーによって制作されたもので、「One Last Kiss」だけではエンドロールの長さに足りないこと、そして、“新劇場版”シリーズと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のエンディング曲にしたいという意図があったという。つまり映画のエンドロールでは「One Last Kiss」「Beautiful World(Da Capo Version)」の2曲が流れるのだが、劇場に足を運んだ際にはできれば席を立たず、じっくりと味わってほしいと思う。
庵野監督がディレクションしたMV(ロンドン郊外で撮影された“日常”を感じさせる映像も、映画のストーリーと結びついている)、公開から1週間で1000万回再生を突破。ダウンロード、ストリーミングでも国内12の配信サービスで1位を記録し、世界33カ国・地域の配信サービスでもランクインするなど、すでに世界的ヒットとなっている。CD、アナログ盤には「One Last Kiss」「Beautiful World(Da Capo Version)」をはじめ、新劇場版のために制作された楽曲をすべて収録。ぜひ“エヴァ×宇多田”の14年に思いを馳せながら堪能してもらいたい。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■リリース情報
『One Last Kiss』
発売中/配信中
通常盤
ESCL-5488/¥2,000+税
<収録曲>
「One Last Kiss」(映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 テーマソング)
「Beautiful World」(映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 テーマソング)
「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」(映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』テーマソング )
「桜流し」(映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』テーマソング )
「Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX-」)(映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 予告編挿入歌)
ほか
初回仕様:紙ジャケット
通常仕様:ジュエルケース
※<初回仕様:紙ジャケット>は在庫が無くなり次第、<通常仕様:ジュエルケース>に切り替わる。
完全生産限定LP盤
ESJL-3119/¥3,000+税
■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
2021年3月8日(月)公開
https://www.evangelion.co.jp/