『PassCode STARRY TOUR 2020 FINAL at KT Zepp Yokohama』インタビュー
PassCode 南菜生が語る、コロナ禍で見つめ直した“ステージに立つ意味” 「また何度でも始められることを伝えたい」
PassCodeがLive DVD&Blu-ray『PassCode STARRY TOUR 2020 FINAL at KT Zepp Yokohama』を11月18日にリリースした。コロナ禍で多くのアーティストが打撃を受けるなか、観客数を制限しながら8月29日に行われたKT Zepp Yokohama公演を映像化した作品だ。普段と違う環境下のライブで不安と緊張に包まれているが、ひとたびステージに立てばいつも通りパワフルにパフォーマンスし、観客と繋がり合おうとするPassCodeの姿がしっかりと映し出されている。年末にはニューアルバムを控えるが、先行リリースされた新曲「Anything New」では〈世界中の哀しみさえ/君は未来に変えてくように/なにひとつ恐れないで/暗い道を照らす〉と歌い、未来の光を信じて“観客とともに作り上げていく美しさ”を決して忘れない。前を見つめてしっかり進み続けるPassCodeの今について、南菜生に語ってもらった。(編集部)
「ライブができないのに、なんでPassCodeをやっているんだろう?」
ーーPassCodeは今年1月に新木場STUDIO COASTとZepp Nagoyaでライブを行ったあと、新型コロナウイルス感染拡大によりライブ活動を休止することになってしまいました。これまでライブを強みに活動してきたグループだと思いますが、そこが奪われてしまったことに対して、南さんはどんなことを感じながら過ごしていましたか。
南菜生(以下、南):自分の中でライブってすごく大きいものだったので、今までは活動のこともそうですし、プライベートでも何かつらいこととか苦しいことがあったとしても、ライブですべて精算できるような感覚で生きてきたので。突然ライブができなくなると、自分の中でどう整理をすればいいかわからなくなってしまって。自粛期間はほとんど家から出ることもなく、頭の中でずっと考えていることのほうが多くて、正直その頃は自分の価値が見出せずにいました。もちろん、制作だとかライブ以外のお仕事もやっていたんですけど、その中でもやっぱりライブは特別で、「ライブができないのに、なんでPassCodeをやっているんだろう?」とまで考えたときもありました。でも、一番はPassCodeのメンバーやスタッフ、ファンのみんなが元気で健康でいることが大事だと思っていたので、無理してライブをすることで何かがあったらって考えると「ライブをしたい」というのも言えないような感覚で。だけど、それでもライブがしたい……という堂々巡りを繰り返していました。
ーーそんな中で、5月にリリースしたシングル『STARRY SKY』が初めてオリコンチャート1位を獲得したのは、心強さにもつながったのかなとも思います。
南:メンバー自身はもちろん嬉しかったんですけど、それよりも支えてくれているスタッフさんやファンの方に対して、目に見える結果が出せたことが嬉しくて。「やっと周りから認められたような気がするね」という話をよくメンバーとしました。
ーー5月末からスタート予定だった『PassCode STARRY TOUR 2020』が軒並み開催中止になるなか、すごく明るい話題だったと思います。その後、8月29日のKT Zepp Yokohama公演のみ開催が現実的なものとなっていきます。
南:開催1カ月ぐらい前に「お客さんを入れてやるよ」というのは聞かされていたけど、正直私はできないんじゃないかなと思っていて、公演1週間前まではいつ無観客になっても仕方がないという感覚はありました。でも、ライブ前日に会場でリハーサルをして、ライブ前の1曲目にいつも合わせる「Ray」をやったときに、「ああ、これや! 自分たちのライブが戻ってきた!」みたいな感覚になって。そこでやっと「ライブができるんや」と思えました。
ーー観客数の制限やお客さんが声を出せないなど、いろいろな制約もあったかと思います。そういう状況はセットリストにも影響を及ぼしたのでしょうか?
南:PassCodeにはお客さんが一緒に歌ってくれる曲が多くて、それがライブのキーだと思っているんです。それによって会場がひとつになったと思える瞬間も多かったので、お客さんが歌えないとなると「そういう曲をセットリストに入れないのか?」という話にもなったんですけど、「でもそれってPassCodeのライブじゃないよね」ってことになって。「お客さんが歌えない分、コール&レスポンスがある曲はメンバーが全部歌おう」という結論で、最終的にセットリストはいつもの組み方と変わらない感じでした。ただ、Zepp Yokohamaは座席指定で、以前みたいにぐちゃぐちゃになって見られないような状況だったので、ダンスの振り付けが見応えのあるものを多めにセレクトしたと思います。
ーーなるほど。「STARRY SKY」をオープニングとエンディングの計2回披露した理由は?
南:自分的には最初と最後に同じ曲をやることで、「繰り返しになっている」「つながっている」ように感じられると思ったんです。これで終わりじゃなくて、そこからまた始められるという意味を込めて「STARRY SKY」を最初と最後に披露しました。8月後半ってまだライブをやれないアーティストさんが多くて、「もしかしたらPassCodeもまたライブができなくなっちゃうんじゃないか?」と思ったりしたので、ループするようなセットリストを組んで「また何度でも始められる」ことを伝えたいなと思いました。PassCodeだけじゃなくて、音楽業界全体もまた最初から歩き出せるよって。
ーーそれが二度目の披露の前に南さんが放った「何度でも、もう一度始めよう!」という言葉につながるんですね。実際、歓声がなかったり、目の前のお客さんもマスク姿で指定の位置から動かない、以前とは雰囲気がまったく違うライブだったと思いますが、パフォーマンスしながら感じたことを覚えていますか?
南:最初は特に、自分たちも客席側も「どういう感じになるんだろう?」と様子見というか、硬い感じになっていたんですけど、ライブを進めていくうちに「いつもとそんなに変わらんやん!」と思えるようになって。ファンのみんなも声が出せないとか暴れられないとか、いろいろ制約はあるんですけど、その中でも手を上げてくれたり体がノッていたり、マスクはつけているけど表情が伝わってくるなと。後半になるにつれて、その日できる中でPassCodeのライブでいつもやっているようなことができるようになってきて、「雰囲気とかやり方はそんなに気にせず、いつも通りやろう」という気持ちになりました。
最初は「どうしたらいいんやろう?」という不安そうな表情も全部ダイレクトに伝わってきたけど、「できへんことは多いけど、せっかく来たんだから一緒に楽しもうよ!」というのをPassCode側から発信したら、そのあとは徐々に「楽しそうな表情してくれてる!」「ちょっとウルっとしてるな」とか、しっかり伝わってきましたね。
「見逃さないぞというお客さんの姿勢が伝わってきた」
ーーライブDVD&Blu-ray『PassCode STARRY TOUR 2020 FINAL at KT Zepp Yokohama』を観ると、「ATLAS」あたりから場の空気が少しほぐれた感じが伝わってきて、メンバーの皆さんの表情も冒頭より柔らかい印象を受けました。中盤に差しかかる頃には「いつも通りだな」と感じながらパフォーマンスしていたんですか?
南:はい、意外とできることのほうが多いなって。できないことのほうが取り上げられたり、大変な面ばかりが見えやすかったりするけど、やってみると意外といつも通りだし、みんなが楽しんでくれているのがすごく伝わってくるし、難しく考えすぎていたんだなと、やっていて思いましたね。お客さんに守ってもらわなくちゃいけない部分はあると思うんですけど、PassCodeがちゃんと今の様式に沿ったライブを続けていくと、きっとできることの幅もだんだん広がっていくと思っていて。実はあのライブって、来ていたお客さんから「本当に来てよかったのかな?」とか、逆に来られなかった方からは「行きたかったけど、行けなくてごめんね」とか言われることも多くて。各々いろんなことを考えて、来てくれた人も来られなかった人もPassCodeのことを好きでいてくれるのは変わらないというのはすごく伝わってきたけど、きっともどかしい気持ちも強いんだろうなって。
ーーお客さんも演者側も、罪悪感を感じてしまうのが一番つらいですもんね。行くことを選んでも、行かないことを選んでも。
南:そうなんですよね。私もすごくライブが好きだけど、今までだったら行っていたライブにも行かない選択をすることが増えましたので、行けないことを申し訳ないとは思わないでほしい。来られない分PassCodeが何かアクションを起こせば、きっとその期間もPassCodeのことを好きでいてもらえるんじゃないかなと思うので、日常が戻ってきたときにぜひ遊びに来てもらえたらなって思います。
ーー最初のMCで南さんが「PassCodeのことを変わらず好きでいてくれてありがとう」とおっしゃっていましたよね。そこに対しての不安もこの7カ月でかなり感じていたんですか?
南:私たちは音楽やライブを仕事としてやっていて、絶対に離れられない一番大切なものだし、一番好きなものだから、そこ以外にライブと同じものを求めることができない。だから「意外とライブなんて行かなくてもどうにかなるよね?」とか「ライブ以外に楽しみができたよね?」となってしまったらどうしよう......と不安だったんです。「自分は音楽が必要ないと思ったことは一度もないけど、他の人は違うのかな?」とか「PassCodeのライブとか別に行かなくても平気だと思われてしまったらどうしよう。それも仕方ないのかな?」とか、いろいろ考えましたね。だけど、ライブが始まったらそんなこと一切感じなくて。自分たちと同じ温度感というか、それ以上にPassCodeのことを大切に思ってくれていたり、ライブのことを好きでいてくれているんだなってことがすごく伝わってきて、それで出た言葉だったのかなと思います。
ーーこの日のライブは歓声などがないことで、今までよりもダンスや歌に目や耳がいくことが多かったと思うんです。それによってなのか、例えば「オレンジ」のような曲が以前とは異なる響き方をしてすごく新鮮でした。
南:ライブをしていてもそれはすごく感じました。例えば「It's you」で2番Aメロを高嶋楓が歌っているとき、これまでは後ろで鳴っているドラムの音に合わせて手拍子をすることが多かったんですよ。普段のライブでは歌っているメンバーがいて楽器を弾いているバンドさんがいて、お客さんもわちゃわちゃしているから、いろんなところに気が持っていかれていたと思うんですけど、今回も同じように手拍子を始めた瞬間に、そのアクションがパーっとフロアの後ろまで広がっていくのが見えて。それだけステージに集中してくれているんだなって思ったし、一挙手一投足を見逃さないぞというお客さんの姿勢がすごく伝わってきました。
ーーそう考えると、こういう特殊な状況下で行れたライブを収めたDVD&Blu-rayって、記録として非常に重要なものですよね。
南:そうですね。実は、今回はひとつのライブに対して3カ月前から準備をするという、普段はなかなかできないことを経験できたので、自粛期間とかライブができない間にPassCodeは何も変われていないと思われるが嫌だったんですよ。だからこそ、「いつもよりいいライブをしよう」と良く見せようとしすぎて、ちょっと硬くなっちゃった部分も強くて。
ーー自分のできること以上のことを見せようとしすぎた?
南:まさにそうです。いつもだったらDVD収録はツアーファイナルが多くて、ツアーをやっていくうちに自分の落としどころを見つけてファイナルに持っていくんですけど、今回は自分ができる精一杯をしようとしすぎたせいで硬いなと、自分を観て思うんですけど、きっとそういうのも何年後かに「あのときこうだったから、今はこうなっているんだよね」みたいな、すごくダイレクトに伝わる映像になっているんじゃないかなと思うし、PassCodeにとっても「あのときのステージがあったからこそ、ステージのやり方をもう1回見直せたよね」という分岐点になるんじゃないかなと思っていて。病気とかウイルスで「よかったね」と言えることはないですけど、PassCodeのライブのクオリティにおいてはすごく大事な期間だったんじゃないかなと思います。