花譜『魔法』レビュー:カンザキイオリとの化学反応が生んだ“救済の歌” 若者中心に人気拡大する要因を紐解く

花譜『魔法』レビュー

 少し話は変わるが、音楽において“誰が何を歌うか”という問題は、作品の説得力にも影響する重要な部分だ。しかし花譜について言えば、少し意地悪で穿った見方にはなるが、過去の発言などを参照するに、彼女は自身が主に歌うような社会への不満感を日頃から漏らす存在ではなく、あくまでも“歌うことが好きな高校生”という人物像の方が腑に落ちる。

 それでは、花譜のリアルであり、リアルとも言い切れない部分には、どのように納得のいく説明ができるのか。これはあくまでも仮説だが、カンザキは自身の制作した音楽を通して、花譜のアーティスト活動は言わずもがな、その人生の“導き手”としても働いているのだろう。つまり、花譜の生活拠点や16歳という年齢の制限を超越して、彼女がまだ見たことのない景色やそこで芽生える感情を、音楽を通して間接的に共有しているのだと思われる。それこそ、自分の人生を形作る周囲の人間や物事に対して、その本質を見抜く審美眼を育む糧として、前述したような社会への反抗心さえも歌詞に綴っているのかもしれない。

花譜 #60「景色」【オリジナルMV】

 いわば花譜の楽曲は、今よりも広い世界に羽ばたいてほしいという、カンザキから贈られるメッセージそのものでもあるのではないか。その前提を踏まえると、例えば『魔法』収録曲「景色」に登場する〈僕らはどこにだって行ける/僕らはどこにだって飛べる〉というフレーズなども、花譜に対してエールを届けるような違った聴こえ方になるはずだ。

 10代というリアルタイム性を持った存在として、カンザキの想いを特別な歌声で奏でる花譜。カンザキもまた、そんな彼女を信頼できるからこそ、音楽に対して日増しに強い感情を乗せてしまうのだろう。ここでは花譜と同世代の若者が、その音楽に熱狂し、大いに共感する背景として、彼らの“兄妹関係”のような想いの循環もあるのだと総括したい。

 日本の何処かに棲む、何処にでもいる、何処にもいない16歳。音楽という“魔法”を持つ花譜が、これからも聴く人の心をそっと救ってくれることを願って。

■一条皓太
出版社に勤務する週末フリーライター。ポテンシャルと経歴だけは東京でも数少ないシティボーイ。声優さんの楽曲とヒップホップが好きです。Twitter:@kota_ichijo

■リリース情報
花譜
2nd Album
『魔法』(α盤・β盤の2種)
2020年11月25日リリース
各¥5,000(税込)
購入はこちら

<収録曲>(α盤・β盤共通)
M1:魔法の無い世界(Instrumental)
M2:危ノーマル
※エナジードリンク「ZONe」IMMERSIVE SONG PROJECTコラボ曲
M3:アンサー
※テレビアニメ「ブラッククローバー」第 11 クールエンディングテーマ
M4:私論理
M5:戶惑いテレパシー
※HAYABUSA EXPERIENCE by 3.5D × docomo テーマソング M6:彷徨い
M7:畢生よ
M8:花女
M9:メルの⻩昏
M10:痛みを
M11:モンタージュ
M12:景色
※Netflix オリジナルアニメ『日本沈没 2020』グランドエンディングテーマ
M13:帰り路
M14:まほう feat.理芽
M15:世界線は分岐する(Instrumental)
詳細はこちら

Kizuna AI×花譜コラボ CD『愛と花』
2020年9月23日発売
購入はこちら

<収録曲>>
M1:ラブしい
超没入エナジードリンク『ZONe』IMMERSIVE SONG PROJECT 第二弾
M2:かりそめ
M3:ラブしい(Instrumental)
M4:かりそめ(Instrumental)
M5:VMZ RADIO

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